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012 新居


 休日をゆっくりと過ごした翌日、工藤は以前訪れた不動屋さんを訪ねる事にした。


「あぁ~一軒面白いのが有ります。少々街外れですが三部屋の戸建てが月1千5百です。唯ご希望の風呂は無いのですが、水処理が済んでる部屋が別途あります。お客様の方で浴槽とかをご用意出来るのでしたら風呂場として使えると思いますよ」


 グッジョブ店員君!と心の声が叫ぶ。街外れが如何程遠いのか気に成る所だが一見の価値は在るだろう。マギーと共に見学する事にした。



「この方角ですとギルドの帰り道に買い物をすれば不便では無いですよ」

「風呂場の広さもバッチリだ」

「キッチンも使い易そうです」

「部屋の広さも十分だ。裏の土地も使って良いの?」

「アレは売地ですね。面積が小さいので買い手が中々付きませんが売れるまでの間なら使って結構ですよ」

「えっと……幾らだっけ?」

「月、1千5百$です」

「前金一年分払うと幾らに成る?」

「……ですと、そうですね。長らく空き家でしたから……月、1千3百では如何でしょう!?」

「もう一声!」

「1千2百!」

「もうチョッと!」

「……1千と150!」

「二年分に払うから後一つ!」

「負けました。1千ポッキリ!これ以上は無理です」

「よし!借りた!」

「……いや~お客様の熱意には驚かされましたよ」

「あははっ。悪かったね。序に風呂桶の売ってる店を紹介してくれるかな?」

「其れは勿論で御座います。では店に戻り契約書を作成しますね」



 借りた部屋は小高い丘の上に立つ戸建ての二階建ての家だった。赤瓦の屋根に白壁が中々風情が在って良い。町の中心からは歩いて三十分も掛からない距離だが、冒険者にはそれが不便さと感じるのだろうが、通勤時間二時間なんて当たり前の世界からきた工藤には散歩道にしか感じない距離だ。

二年分の家賃2万4千$を払いカギを受け取る。店員と共に浴槽を売ってる工務店に向かい、部屋の広さを彼が告げると不動産屋へと一人帰って行く。そして工藤とマギーは工務店の親方と浴槽選びに話が弾む。


「あの部屋ですと最大限の大きさだとこれですかね」

「所で魔導具はどうします?」

「其れって給湯の事だよね?魔法でどうにかならないモノなの?」

「あははっ。馬鹿言っちゃいけませんよお客さん。独りの魔導士でコレだけの風呂を満たすのは無理だよ」

「ええ!無理なんだ。因みにお湯に必要な魔法ってやっぱり水属性と火属性?」

「どっかの偉い学者さんが生活魔法でも出来るって言ってた気もしますが、実際に出来た人は居ませんね」

「生活魔法なら俺も出来るな。そう言えばクリーンを一回使ったキリだったっけ」


 そう言って徐に工藤は頭の中でスクロールしてみれば、確かに『お湯』成るモノの項目が在る事に気付く。


「ちょっと試して良いですか!?」

「あはははっ。お茶目だねお客さん。どうぞ!其の浴槽たっぷりに溜まったら半額で良いですよ」


 チョッと馬鹿にされた気分に成った工藤。少しばかりムキに成って両手を浴槽に翳し呪文を頭の中で唱える事にした。

『ザザ!ザッパーン』工務店の作業場が一気に湯煙が視界を奪う。湯気の切れ目から浴槽を覗けば溢れんばかりの温かい湯が舞たされている。

 どうよ!と言わんばかりに自慢げに振り返るとアゴが外れそうな顔をする工務店の親方の姿が其処には在った。


「エイジ様!ご気分は大丈夫ですか!?」

「あぁ~……うん大丈夫。特に目眩とか立眩みも無いな」

「こりゃ~驚いた……お客さん、てぇ~した魔力持ちの方ですね」


 石造りの浴槽は無理をすれば四人は入れる程も在る大きさだ。此処でも時空旅行の恩恵が発揮された。お城の王族や貴志達が知れば、無駄な浪費と馬鹿にされるかもしれない珍事件扱いになるだろう。

浴槽工事は明日からと決まった。後は細々とした日用品とカップなどの小さな食器を買えば済む事が可能だ。二人は転居を明日に決めミンシュクの女将に伝える事にした。


「おやおや、そうかい。宿屋としては残念だけど、まぁ~二人の稼ぎを思うと仕方ないですね。偶にはウチで夕食を食べに来て下さいよ」


 稼ぐ冒険者は二通りだ。風来坊と化して勝手気ままに狩りをして地方を渡り歩く。もう一つは居を構え根付きやがて足を洗い悠々自適な生活を始めるものだ。

工藤は後者を目指す。其れが元々城を離れ貴志達と別れた理由だ。それに今、彼には新たな思いも有る。ライズにモロコを十分い美味しいモノに調理できれば、きっと貴志達も喜ぶ筈だと、戦いを任せてしまった以上少しでもメンタルで支えたいと工藤は思って居る。


 ミンシュクで過ごす最後の夜を迎え、マギーと共に新居に移った工藤は早速部屋の掃除に取り掛かった。


「と、とりあえず、こんなもんでどうだ!?」

「大夫綺麗に成りましたね」

「ヨッシャ!じゃ次に部屋の割り振りだな。マギーはどの部屋にする?好きなトコを選んで良いぞ!」

「えつ!?」

「ん?どうした。言い難いなら気にするな。女性だから服とかこれから増えるし、一番デカい部屋にするか?」

「あのぉ……エイジ様と同じ部屋では駄目なのですか?」


 折角3LDK特に二階の一部屋は壁を取り壊し二部屋分を大きな一部屋に改築しベランダまで付いているのにマギーは工藤と同室を求めて来た。まぁ元の世界でも工藤は妻と同じ部屋だ。夫婦が同室とするのは良く在る話だが、マギーは嬉しくもソレを望んでくれた事に工藤は内心喜んでいた。


「良いのかそれで?俺は、そのぉ~なんだ。正直マギーが今後も添い寝してくれるんなら俺としても嬉しいよ」

「ハイ!そうします。一生そうします。例えエイジ様に怒られる日が在ったとしても私はずっと御傍で寝かせで寝かせて頂きます」


 塞込んで不安そうだったマギーの顔が工藤の一言でパッと花が咲いた様な笑顔に変わる。工藤も釣られて笑顔に成ったのは云うまでも無い。


 二階の大きな部屋を寝室とし向いの部屋をクローゼット残りを空き部屋と決めた一階は玄関からリビング。ダイニングを挟んでキッチン。奥にはトイレとお風呂場が有りリビングからは小さな庭へと出る事が出き、その先に裏の空地へと広がって居る。異世界に巻き込まれ家族と別れ共に召喚された貴志達とも離れ工藤はこの町で、やっと落ち着けるマイホームを手にした。横にはマギーと言う二廻り以上も年の離れた美女が自分を慕って添いている。十分お釣りが出る結果である。


「明日から気合入れて頑張るぞ!」




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