011 休日
魔物であるゴブリンに苦戦した工藤。行動に無理をしていたのではと反省し翌日を休日とした。
「マギー昨日は心配かけて悪かったな」
「いいえ、心配など……」
「気付かずテンパってたのかもしれない。だから今日は一日休みにしよう」
「気分転換は大切ですね。それでどう過ごされます?」
「そうだな……そうだ!港に行こう」
「港ですか!?」
「あぁ!外国の船も居るんだろ!?何か物珍しいモノが見れるかもしれない。うん!ソレが良い。よし!そうと決まれば善は急げだ」
慌てるマギーを手を引っ張って連れ出す工藤。彼等は慣れて来た街並みを駆ける様に港へと向かう。
「近くで見ると大きいですね」
「三本マストかデカいな~いつか海の向こうの世界も見てみた居な」
「エイジ様は言う事がいつも壮大ですね」
街と街を旅するのにも何日も掛かる。王国全土を旅すれば数カ月は費やすだろう。其れが海を渡って旅する等、一攫千金を狙う商人位が関の山だ。其れを平然と言う工藤に対しマギーは尊敬と言うか憧れすら抱いていた。
「俺の国じゃ空を飛び機械が在ってね一晩で何千Kも離れた所にも行けるんだ」
「何千Kですか!?勇者様の方の世界を表す言葉が見つかりませんね」
「そう?この世界だって、いつかそんな時代が来るさ。でもその前に俺は海を渡る。渡って見せる。マギーと一緒にな」
「エイジ様……」
「手始めに、船に積まれている交易品でも見てみようか」
若い女性にオッサンは夢を語る。途中で自分が何を語ったかに気付き恥ずかしさが込上げて来た。誤魔化す為、工藤は近くに在った店を覗きに向った。
「乾燥トウモロコシ?デカいな、店主コレは如何使う!?」
「モロコはスープの具材か、軽く炒って食べるのさ航海では大事な食料だよ」
「そのまま炒るって硬くないか?」
「それでも船の中じゃ大事な食料の一つだからね」
「臼で挽いて粉とかにしないのか?」
「偶にそんな使い方をする奴等も居るが、ラットルのエサにされるのが落ちさね」
ラットルとは鼠と考えて良い。船の大敵は水と食料を荒らす鼠なのは世界が変わっても一緒らしい。乾燥粒のままが狙われる危険が少ないと言うのも可笑しな話だが、此処が異世界なら通じる事なのだろう。
「他にどんな食材を船では使うんだ?」
「モロコ・ライズ・ダンショクの三つが船の主食だな。後は釣りで得た魚と塩漬け肉だ。金持ちの船だと羊や豚を乗せる場合も在るよ」
「そのライズとダンショクって現物が在るなら見せてくれないか!」
「見せる位構わないが…ホラこれだ」
全身に電気が走ったとはこの事かと工藤は思った。店主が差し出した食材は大きさを除けば工藤が知ってる食材と、とても似た品々だったからだ。
「店主!これって幾らだ?どれ位買えるんだ?買う量に制限とかあるのか?」
「おいおい、藪から棒に血相変えて如何した?こんなモノは、この町ならいつでもどこでも幾らでも買えるぞ。なんたって船には必要な食材だからな。まぁ~俺の店が当然、品質が良くて良心的価格で売ってるがな」
「買った!三つとも買った!取敢えず最低限の数量はどれ位だ?」
「急にどうした?まぁコッチモ商売だ買いたきゃ売ってやるぞ。この樽分が最低数量だ金額は1樽モロコが百$。ライズが七十$。ダンショクが百二十$だな」
「その樽か、判った。各三つだ!もしかしたら今後も買わせて貰うぞ」
夢を語って恥ずかしさをごまかす為に訪れた店で、工藤は思いもしない品々と出会う。コレにより彼の食生活は大きく変わるだろう。そして彼の今後も大きく左右される出会いと成った事に彼はまだ、気付いていない。
その後も工藤は積極的に港に点在する店を廻った。お蔭で数々の品を買う事が出来た。高いが砂糖を買う事も出来、彼はホクホク顔で帰宅する。塞込んでいたエイジが元気に成ってマギーも内心喜んでいる。
「マギー今夜の夕食を楽しみにしてろ。俺が腕に寄りを掛けて美味いモノを喰わせてやるからな」
「はい。エイジ様楽しみにしています。……傍でお手伝いしても良いですか?」
買って来たものは元の世界で言えば、乾燥トウモロコシの他に玄米とジャガイモヤギの乳に鶏の卵、コショウそれとトマトと砂糖だ。
「女将悪いがキッチンを貸してくれ!」
「藪から棒に帰って来て早々何を言ってるんですか?」
「いや!面白い食材を仕入れたんだ。俺の国元の料理を作ろうと思ってな。頼む!無理を承知で願いを聴いてくれ!」
「チョッと!少しは落ち着いて下さいヨ。何買って来たんです?見せて下さいな」
「コレだ!」
自慢げに買って来た食材を見せる工藤。対して其れ等を見た女将は少々呆れ顔だ。
「何かと思えば、モロコとライズとダンショクじゃないですか。後はヤギ乳と砂糖と山鶏の卵ですか?高級品まで揃えて、旦那気が狂いました?モロコ・ライズ・ダンショクの三品は、船乗りなら誰も丘では見たくも無い食材ばかりですよ!本当に旦那はこんな物を食べるツモリなんですか?」
「調理方法が違うんだ。俺なら知ってる。頼むよキッチンを貸してくれ!」
「幾ら旦那の頼みでもおいそれとは貸せませんヨ」
「そんな~」
「但し!ウチのが作るってんなら話は別です。その方法とやらを仕込んで下さい」
「良い!それで良い!有り難う女将!」
それからバタバタと作業は進む。ミンシュクの料理人で女将の夫である『ブエル』に米の炊き方を教え、ダンショクは幾つか調理方法を指導し、モロコは水で戻して焼いたり煮たりと試してみた。他の食材と砂糖を使って色々と作らせる工藤。
「……」
「「「「……」」」」
「確かにダンショクと卵の使い方には驚いたね。雅かこんな風に成るとは、驚きだよ。だけどさ、こりゃ~なんだい?悪いが、これじゃ家畜の餌にも成らないよ」
「私此の白くてフアフアした甘いの好き!」
「ホイップと甘い卵焼きは美味しいですね。料理って言うより、お菓子ですね」
「ライズは、噛み易くは成ったが、それでもパサつくし匂いがキツイな」
「……なんでだデカいのが悪いのか?それに何で黒い?……アァ!!!判った。これ玄米じゃん。白米じゃ無いじゃん!だから硬くてパサパサで不味いんだ。俺の知る玄米とじゃないから調理方法が違うのか。クソ~見た目に騙された!」
概ね工藤が指示した料理の数々に評価は得たモノの肝心なモロコとライズは大失敗だった。それは見た目から工藤が判断を誤った所為だ。此処は異世界、住んでた世界が違う。似ているからと言って同じでは無い。現にこの世界には人間以外の人種も居る。食材も似て非なる物なのだ。玄米と乾燥トウモロコシの糠と皮が思ってた以上に厚すぎて硬かった。コレでは水に浸しても膨らむ処か食材以下でしか無かった。改めて、適した調理方法を見つけ無ければ、懐かしい味には辿り着けない。工藤は必ず探し出すと心に決めた夜である。
「残念でしたねエイジ様」
「そうでも無いぞ。道は在る!それが分かっただけでも前進だ。それより、自由に調理出来ないって事が問題だな」
「……では、本格的に家を探してみますか?」
「そうか!その手が在ったな。うん!そうしよう家を借りよう。マギー有り難う。また一歩前進できたよ」
「エイジ様の役に立てるなら幾らでも頑張ります」
港町サビーネに留まって約一ヶ月。資金もそこそこ溜まった工藤とマギー。米を食べたいが為に、本格的に家探しを始める事と成る。