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001 巻き込まれたオヤジ

完結を目指します


「判りました。僕等でお役に立てるなら魔王退治に向かいましょう」


 イケメン男子の発言は傍に立っていた美少女達の同意を得ての発言だった。無論彼が伝える相手は、この国の権力者の一人で王女だ。俺達に同意も無しに異世界へ連れ込んで張本人の一人でもある。


「あぁ……有り難う御座います。この様な非道を行った私達に救いの手を差し伸べて頂き、何とお礼の言葉も有りません。滞在中は出来うる限りのおもてなしをさせて頂きます」


 イケメン勇者の台詞に感極まった王女が応えると周りで成り行きを見ていた老人達もうんうんと頷き、緊張していた空気が一気に和らいだ。


「あぁ~スマナイが、私は辞退させて頂きたい」


 と折角和気あいあいとした空気を壊す形で一人のオヤジが言葉を発した。


「おじさんってKYね……でもそれも良いんじゃない」

「そうね。悪いケド少し足手まといだし……」

「……」

「工藤さん……」


 

何故彼等がこうなって居るかと言えば、時を少々溯って説明しよう。



地元のコンビニに彼等が偶然集ったのは御昼過ぎの二時頃だった。店内には何故か学生姿が目立っている。話の流れから今は学期末試験期間で、学校帰りに立ち寄った事が窺えた。

 三人の女子生徒と仲良く会話をする一人の男子学生。周囲のオジサン達はそんな彼を羨ましく思ったに違いない。

 

自分の学生時代と比べると……悲しくなる位の差だな思いつつもレジへと向かう一人のオヤジ。その時、突然地面が大きく揺れ店内は悲鳴で溢れた。

イケメン男子と女生徒達の足元に不思議な紋様の光の輪が光った時、イケメン君がグラついてしまい咄嗟的に彼は傍に居た中年男の左腕を掴んだのだ。

そして……気が付けば彼等はコンビニとは違う不思議な室内に立っていた。


「私達の非道をお許し下さい。勇者様方。ですが!お願いです。魔王を倒すお力を我等にお貸しくださいませ」


 金髪縦ロールに清楚で気品のある美少女が膝を屈してそう告げて来た。

 流行りの異世界召喚だと気付いたのは共に召喚された少女達の一人だ。彼女曰く、召喚された者には不思議な力が備わっている筈。魔王を倒さなければ帰還の可能性は無い。加えて、神にも近い力を得るには修行と称した旅が付き物ですよ!と少し鼻息荒めに語ってくれたものだから、膝を屈していた美少女も少々驚き気味に頷いくしかなかった。


「驚きました。勇者様方のお国では、この様な事はまかり通ったお話なのですね」

「嫌々この娘が少々特殊なだけですよ。詳しい話を聞かせて下さい。此処は本当に私達の住んでいた世界とは違う世界なのですか?」


 膝を屈していた美少女はこの国の第一皇女『フレデリカ』突っ込みをしたのは、ストレートの長髪『常子』序に言えば、オタク少女は『愛子』やや、茶髪のショートボブの娘だ。眼鏡っ子で無口にジッとしているのが『加奈』そしてイケメン君は『貴志』彼等は同じ高校のクラスメイトで今年高校二年生の17歳らしい。

そしてイケメン君によって巻き込まれたのが今年46歳にも成る只今無職中の腹ぼてオヤジの工藤英司だ。


 粗方の説明は愛子が語った通りだった。彼等は魔王を倒す為に召喚され倒さない限り元の世界には帰れない。倒す為には力を付けなければならばいが、時空旅行の際に不思議な力が備わったのも事実である。但し、あくまでも其れは備わったに過ぎなく、思い通りに力を行使するには修行を重ねなければならない。そして……皇女率いるこの国の魔術師達が呼び寄せたのは『貴志』達4人であり工藤は含まれて居ない。つまり工藤英司は呼ばれて舞い降りた勇者の卵達と違って時空旅行の恩恵は少ないモノだったのだ。


「工藤さん申し訳ありません。僕が貴方の腕を掴んでしまった所為で……」

「まぁ~仕方ないよアレは事故だ。逆の立場になれば俺も同じ事をしただろう。若い君達には悪いが、元の世界に帰れるよう頑張ってくれ」

「判りました」

「オジサンの分まで頑張るね~」

「……」

「しょうがないわね。怪我しないようにねオジサン」


 娘より年下な少年少女達に生き死にを背負わせる苦しみを感じながらも工藤は苦笑いを浮かべる他無かった。

そして彼はコレからの時をどう過ごすか考える事にする。


この世界の人々は西・東・中央と称される三つの大陸と大小の島々に住んでおり多くの国が存在していた。この国は中央大陸の西側に在る『カナデル王国』。複数の言語と通貨が存在するが概ね『イング』と呼ばれる言語と『ドラル』通貨で世界中を渡り歩けるらしい。1日は24時間。週の概念は無く一ヶ月は30日。一年は12ヶ月。銅貨100枚で銀貨。銀貨10枚で金貨。金貨10枚で大金貨。それ以上は手形や宝石を用いるらしい。銀貨・金貨のレートに対して銅貨が100枚なのは希少性の問題らしい。つまり市場には銅貨が蔓延してるって事である。


皇女が言う魔王とは北にある『死なる絶海』と呼ばれる未開の地に居るらしく詳細は不明。代わりに『魔物』と呼ばれる者達が人々を苦しめているらしく、日夜戦っているとの事だ。


 魔王退治を人任せにし自分は悠々自適に王城暮らし。何て訳には行かない。であれば、城を出て民と同じ暮らしをするのが妥当ではないか……そう結論づいた工藤は一旦、考えを貴志に伝え、呼び寄せた王家に思いを伝える事にした。


「クドウ殿の言い分は判りました。ですが……本当に大丈夫なのですか?」

「不安は有りますが、この歳で居候の身では私も辛いですからね。少々不便だとは思いますが、思い切って新しい暮らしを試したいと思います」

「……判りました。では少しばかりですが、此処での暮らしが馴染める為の足しに金子をお渡ししましょう」


 工藤と貴志の言葉に皇女と王様が応えてくれた。10万$・金貨百枚を工藤の門出にと贈る事と成る。因みに、普通の四人暮らしの一家が一ヶ月暮らすのに3千$金貨三枚でお釣りが来るらしい。日本円で考えると一月30万だろうか?ともすれば、金貨一枚10万位で、工藤が授かった金額は一千万円と言う所だろう。

保証制度も無く、死の危険が多い世界で一千万が多いかどうかは今後の工藤の生活次第なのだろう。それでも縁も所縁も無く知人も居ない工藤にとって、この金貨百枚は有難い資金と成ったのは間違いなかった。


「工藤さん!僕頑張りますから」

「おじさん無理しないのよ~」

「無駄使いしないでネ~」

「お元気で」

「……」

「皆も怪我や病気には気を付けて……貴志君無理は控えるんだよ」



 こうして工藤英司46歳は、共に召喚された若者達とは別れ一人見知らぬ世界の町へ下る事に成った。



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