第四十八夜 永遠のパートナー
洞窟の奥にいた赤い巨大なドラゴンはオレに向かって話しかけいるとばかり思っていたが、オレのすぐ真後ろにいる若者に話しかけいるようだった。
おそらくこの若者が一夜という名前なんだろう。
一夜は黒い髪に黒い目の東洋人で皮の鎧を装備し、腰には剣を携えていた。
気のせいかもしれないが名前だけでなく顔つきもオレに少し似ている気がする。
一夜もドラゴンもオレの存在に気づいていないようで会話を進めている。
怪我をしているにもかかわらず起き上がろうとするドラゴンを若者が止めた。
「無理しちゃダメじゃないか? ルフ! キミはまだ怪我しているんだぞ!」
ルフと呼ばれた赤い巨大なドラゴンは「そうだな一夜……」
と笑って若者が運んできた傷薬を大人しく塗られていた。
赤いドラゴンは背中に大きな傷があり、可哀想だがもう長くはなさそうだった。
「精霊国に行って、薬草花をたくさん取ってきたんだ。傷の治り方もだいぶ良くなるらしいよ。そしたら背中に乗せてもらうよ!」
一夜と呼ばれた若者は努めて明るく振舞っているように感じた。
彼もドラゴンが長くは持たなそうなのを感じ取っているのだろう。
「すまないな……一夜。魔導王と謳われた私がこんな身体で……せっかくお前に玉座を譲ってやろうと思ったのにこのザマだ。私はドラゴンとしても王としてもダメなのかもしれないな」
哀しそうな目で一夜を見つめる巨大なドラゴンルフ。一夜はルフに薬を塗りながらこうつぶやいた……。
「ルフはオレの大事なパートナーだ。ダメなドラゴンなんかじゃないよ」
魔導王ルフ……あのドラゴンが伝説の魔導王ルフなのか。
やがて場所が洞窟内からどこかの宮殿に変わった。
巨大な儀式台の上に赤いドラゴンが横たわり、神官の衣装に身を包んだ男が2人、杖を手に持ち語り始める。
「魔導王ルフは残りの寿命が僅かである。せめてその魔導のチカラを後世に残すために儀式を行うこととなった」
儀式台のそばで一夜が見守っている。一夜が儀式台の前の祭壇に境界ランプを置いた。
あの境界ランプはオレが持っているものと同じものだ。
神官達が杖を振りながら呪文を唱えると魔導王ルフの首にかけられた首飾りが輝き始め、魔導王ルフも首飾りもとても小さなサイズに変化してしまった。
神官たちは小さくなった魔導王ルフから首飾りを外し巻貝型の入れ物に首飾りを収めた。
すると儀式を一夜とともに見守っていた黒い魔導師のローブを着た男がドラゴンに語った。
「これからはミニドラゴンとして静かに生きるといいでしょう……ミニドラゴンの身体なら傷の治り方も早くなるはずです。魔導王ルフは今日をもってこの世から消えました。行きなさい……ミニドラゴンよ」
「キュー……」
ミニドラゴンに変化した魔導王ルフは人間の言葉を話せなくなったようで
「キュー」
としか鳴けないようだった。
そして一夜の肩に乗り、一夜もこの日を限り姿を消すと神官に告げて何処かへと旅立って行った。
境界ランプを祭壇に残したまま……。
やがて時代はソロモン王の栄光の時代となった。
一夜と背中に傷跡のあるミニドラゴンは東洋の人里離れた村で静かに暮らし、一夜が寿命で息を引き取るとミニドラゴンも彼と一緒に眠りについた。
オレは魔導王であるドラゴンルフとパートナーの境界ランプの持ち主一夜の生涯をミニドラゴンルルにかけた首飾りを通じて見せられていたようだった。
意識が戻るとミニドラゴンのルルがオレを心配して
「マスター千夜、大丈夫キュ?」
と顔を覗き込んできた。
オレはベッドに寝かされていたようでルルに首飾りをかけたのは昼間だったのにすでに夕方になっていた。
「キュー……」
オレを見つめるミニドラゴンルルは魔導王に似てはいたが背中に傷跡もなく、やはり別のドラゴンのようだった。
オレが一夜という若者と似ているだけで別人なのと同じだろう……。
コンコンコン!
「千夜君、具合はどうかな?」
カラス大尉が様子を見に来たようだ。
「さっきは首飾りから大量の魔力が解放されてね、気に当てられたようなものだそうだ。他のみんなもそれぞれ休んでいるよ。何か変わったことはないかな?」
オレは一夜とドラゴンルフの夢は誰にも言ってはいけない気がして、大丈夫です……とだけ答えた。




