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千夜の一夜な境界ランプ  作者: 星井ゆの花(星里有乃)


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第十三夜 奴隷の少女と王の資質

ユミル少年のコテージで、黒魔術殺人の犯人は魔法のランプそのものである……という推測を立てたオレ達。


精霊王はオレ達の大半がユミル少年のコテージに集まっていたことを知っていたようで精霊王の使いがやってきた。アラビア風の踊り子の衣装を見にまといセクシーな感じの使いだ……精霊だろうか?


そして、境界ランプの持ち主全員に玉座に座る資質の持ち主かどうかテストと競争を開始するとの通達があった。

オレ達は、精霊王の使いからテスト内容の書かれた紙を手渡された。


「このテストは、1人ずつ内容が異なるものになっています。脱落者はランプの没収、参加資格を失います。今回のテストはランプの持ち主同士の協力は禁止です。自力で解決するように、使い魔や精霊の協力は許可します」


そう言うと使いの人はシャルロットとランディをチラリと見て言った。

「もちろん親族といえども協力は許されません。分家だからと言って本家に協力なんてもっての他……不正には処罰があるので気をつけるように」


分家と本家……ランディとシャルロットは同じ一族だけど分家と本家なのか?

「私、自分1人でもきちんとテストをクリア出来ますわ!ランディのチカラを借りることは致しません。 この魔法猫もいますし」

「ニャア!」

羽の生えた紫色の魔法猫もやる気でひと声鳴いている。


魔法猫が何の役に立つのかよく分からないが、14歳の美少女シャルロットは自信があるようだ。


ランディは肩をすくめて「脱落しないように一応頑張るよ」と言った。サラサラと下げた金髪の前髪が彼を柔らかく見せるのかちょっと頼りない感じではある。どちらかというとランディの方が脱落してしまいそうだ。


オレ達はその場でテストの土地にそれぞれワープすることになった。

そんな中、言語学魔導師のダリアさんが1度自分のコテージに戻りたいと言い出した。

「ちょっと自分のコテージまで戻らせてよ! 今日はオフだと思っていたから準備が足りないわ」

「緊急時の対応力も王の資質のひとつです。ワープ開始」

容赦なく強制ワープさせられるダリアさん……どんなテスト内容なのか知らないが、常時何があってもいいように備えておく必要がありそうだ。


テスト内容が書かれた紙を開けると、《目の前の問題を解決せよ》と書かれているだけだった。


「キュー! マスター千夜お伴しますキュッ」

「千夜さん、このランプの精セラあなたにこの身を捧げます」

「では、響木千夜(ひびきせんや)らを強制ワープさせます」


オレと精霊セラ、使い魔のミニドラゴンルルは強制ワープでコテージからどこかに飛ばされた。


カモメの声がする。

賑やかな人通りの海の街だ。

「ここってラピス市場の側じゃないか?」

ついでに言うとさっきまでいた別荘地コテージエリアとも近所のようだ。


目の前には港があり、貿易商人達が交渉中だ。大きなタルや袋が大量に運ばれている。ラピス市場で売られていた商品はこの船から運ばれて来たものも多いのだろう。


ガラガラガラガラ……

荷車で船の外に運ばれていく荷物。

目の前の問題を解決せよ……問題ってこの貿易のことだろうか?


すると船から汚れた布の服を羽織っただけの鎖に繋がれた人たちが列をなして出てきた。

よく見ると大人以外に小さい子どもの姿もある。


「オラッ! とっとと歩け!」

ドスッ!

「ヒィ! ごめんなさい!」

「役に立たねえ奴隷だなぁ、ぶっ殺しちまうか?」

ザクッ! ドサッ!

「……」


目の前の問題、それはあまりにも突然現れた。奴隷に暴力を振るい平気で殺しても貿易商人達は素知らぬ顔だ。


「セラ……オレに課せられた問題って……」

「千夜さん、この奴隷達や貿易商人達を問題と捉えるかどうかは千夜さん次第です。境界国では奴隷売買は当たり前のように行われています。はるか昔から……なので問題と捉える人が少ないのです」


奴隷売買が当たり前……?

境界国ってそんなだったのか?


「痛いよう、痛いよう!」

奴隷の少年が鳴き始めた。

「うるせえガキだなぁ。これじゃあ値段なんかつきやしねえ。オラ、とっとと歩け!」

ビシィ! ビシィ!

ムチで奴隷達を打つ音が響く。

「うわああん!」

オレは思わず奴隷の少年にムチを打っていた男の元に走って止めようとしたが、オレより早く動いた人間がいた。


バチバチバチ!

火花が散り、ムチを打っていた男の手の動きが止まる。


呪文を使ったと思われる少女……


年齢はオレより少し下か同い年くらいだろうか? 身なりは他の奴隷と同じだが、意思の強い眼差しは他の奴隷と異なる。

「もう、言いなりになるのは沢山です。私は……私達は奴隷解放に向けてあなた達と戦います」


少女は栗色の長い髪をなびかせながらそう宣言した。


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