【掌編】デスメタルからこんにちは
友人にお題を下さいと言った所、『勉強』、『CD』、『ペンギン』というお題を頂いたため書いた掌編です。
気が向けば続編を書きます。
――ペンギン。
鳥類ペンギン目ペンギン科、主に南半球に生息する鳥類で、飛ぶことが出来ない。また、言うまでもないが、人語を話す事は出来ない。
「ココ、しっかり見て下サイ。近代哲学における父トモ言えるデカルトは……」
人語を話す事はおろか理解することなど出来るわけもなく、こうして私の宿題に口出しするだなんて高度なことが出来るわけがないのだ。それも哲学を語るなど、畜生のくせにちゃんちゃらおかしな話である。
「ハルカ、ちゃんと聞いていマスか? 契約者である貴女がソンナ体たらくデハ、契約した悪魔である私の程度が低く見られマス」
悪魔。そうか、たとえ見た目がペンギンであろうとも、悪魔であればしゃべることなど大したことではなく哲学を語ることも容易いことなのかもしれない。
「は……臍で茶を沸かすわ」
友達に勧められて借りたデスメタルのCDを再生したところまでは良かった。別にジャンルとしては私の趣味ではなく、友達付き合いとして一応は再生しなければと、パソコンにCDを入れ、再生ボタンを押したのだ。
するとどうしたことか。パソコン画面に逆五芒星が描かれ、私の部屋は一瞬にして暗黒に包まれた。そんな吃驚な出来事が起きた際に人間はたいてい何もすることが出来ない。もちろん私も例にもれずとてもひどい顔で事の顛末を見届けざるを得なかった。
――私と契約して下サイ。貴女に英知を授けまショウ。
燕尾服をまとった背の高い美丈夫が、黒く塗りつぶされたような瞳を見開いて、私の目を覗き込んだ。
「あんなのビビッて契約するしかないだろ」
そして現在に至る。
契約したからと言って、別に何かが変わったわけではなく、しいて言うなら恐いイケメンがペンギンになったぐらいである。彼は名を、アルペントゥス、と言った。
「ねえアル。そろそろ英知とかさ、授けてくれないの?」
彼ら悪魔は、この世に数多あるデスメタルのCDの中のどれかに封印されており、彼曰く私にその封印を解いて欲しいという。何とも俗世的な話だ。
それに悪魔なのだから、力を授ける代わりに魂を、とでも言われると思っていたが、そのやり方では最近の人は契約したがらないという。そりゃそうだろう。誰だって命は惜しい。まあそもそも未だに彼からは何も貰っていないのだが。
「まだハルカには授けてもムダでショウ。貴女のようナ愚かしく然程も知恵の回らヌ小娘に授けたトコロで、頭がはじけ飛ンデしまいマスヨ……お望みデスカ?」
ため息と共に肩を竦め、短い羽で器用に、やれやれ、とでも言いたげな動作を見せる。
いちいち癇に障る鳥だ。ペンギンと言う愛らしい見た目に反し、彼の口からは皮肉とこちらを見下したような発言ばかりが飛び出してくる。彼がもし悪魔ではなくただのペンギンであるならば、珍メニューペンギン肉の焼き鳥が生み出されるところだ。
「そーですか」
不意に携帯が鳴る。着信元は、私がこの悪辣なしゃべる生ごみと出会う元凶となった友人のデスメタ子(仮称)だ。おすすめのCDが他にもあったことを思い出し、それも追加で私に貸すという。非常に嫌な予感がする。
ちなみになぜデスメタ子(仮称)がCDを再生しても、アルの封印が解かれなかったかと尋ねると、悪魔と人間との相性によるものなんだとか。それに、悪魔に対する適正を持つ私のような人間は、悪魔に引き寄せられやすいとかなんとか。彼からは素晴らしい才能だと、呪いの言葉をかけられた。
「フム……悪魔が封じられてイル可能性が有りますネ。今すぐ借りなサイ」
どうやら目ざといこのペンギンは、他の悪魔を開放することにご執心らしい。
私も勉強から逃れることに、異論はない。
「へーへー……借りに行きますよっと」
もし新たな悪魔が現れたとして、そいつはどんな悪魔なのだろうか。まあ彼の様に慇懃無礼な性格は遠慮したいが。
だが正直なところ私は、これから出会う予感がする悪魔たちに、退屈な毎日を覆してくれるのではないかと、淡い期待を抱いているのであった。