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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 土の魔 ――傭兵都市サラマシティ――
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第8話 突然の乱入、歓迎しよう

 ホフェットやコマンドの挨拶が終わると、いよいよメインに入る。ステージ出入り口の鉄格子が開き、迷彩色をしたバトル=アルファに率いられ、大勢の人々が入ってくる。


「なっ……!」


 連れられてきたのは150人ほどの一般市民。全員が俯き、怯えた表情をしていた。アイツら、なにをする気だ……?

 150人はほとんどが男性だった。だが、年齢は幼い子から老人までバラバラだった。


[さぁ、みなさん賭けてください。“奴隷”が“何分で全滅するかに”!]


 ……は?


「俺は10分だ!」

「いやいや、あんな連中、5分も持たんさ」


 賭け? 全滅? まさか……!

 私の頭に数ヶ月前の光景が横切る。今は亡き連合政府リーダーのララーベル。彼は子供たちを製薬実験の実験台にし、使い捨てていた。

 私と仲のいいトワイラルって青年もかつて生物兵器の戦闘実験の実験台として使われた。一般市民を捕まえ、地下の施設に閉じ込め、生物兵器がどれほどの速さで実験台を殺せるか、という実験を……


[では、始めましょう! ダーク・サバイバル=ゲームを!]


 合図と思われる笛が熱気に包まれた会場に響き渡る。その途端、ステージの四方にある出入り口から大勢の機械兵士が走って来る。その手にはアサルトライフルが握られていた。

 ただ、あの機械兵士はこれまでのような黒や迷彩色の機械兵士じゃなかった。2つの門からは黒に黄色の大きな稲妻模様がペイントされ、もう2つの門からは水色に風のような模様が胸部プレートにペイントされていた。


「やれぇ! ブッ殺せ!!」

「ハハハハ! すげぇ!!」


 特殊な模様を施されたバトル=アルファたちは次々とステージ真ん中に集まっていた一般市民を撃ち殺していく。市民の悲鳴と観客の歓声が会場に響く。


[みなさん、これはわたし達ナノテクノミアが開発した最新鋭の機械兵士です。いかがでしょう? 連合政府は日々、戦闘を詳しく分析し、より強く、よりコストのかからない方法で、――]


 異常だ。何の武器も持たされていない市民は次々と撃ち殺されていく。それはまるで狩りだった。機械が人間を狩っていく――


[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]

「うわぁっ」

「たすけぇ!」

[ご覧ください。αシリーズの最新モデルである、――]


 これが連合政府? 仮にも政府を名乗る組織がやる事か? 新しく開発された機械も連合軍として組み込まれる。その連合軍が、支配地の市民を奴隷にし、殺していく。


「死にたくないよぉっ!」

「ひぃぃっ!」

[最新鋭の魔法発生装置を内蔵し、アサルトライフルによる銃撃だけでなく、機械兵ながら魔法の使用を可能にした、――]


 これが軍隊のやる事? 軍隊が自分たちの市民を殺す? ――力至上主義? 力なき市民の命は、力ある者に弄ばれ、壊される……?

 クェリアの言ったことなんか忘れた私は、前の席に座っているヤツの背からロケットランチャーを半ば強引に奪い取ると、狙いをVIP席のコマンドやメディデントらに定め、ロケット弾を撃ち放つ。死ね!


[名付けて、……! えっ!?]


 ロケット弾は一直線にVIP席に飛んでいく。コマンドとメディデントの顔が強張る。お前たちは絶対に許さない!

 だが、2人の前に勢いよく黒い装甲服を着た男、――メタルメカが飛び出し、片手に持ったハンドガンでロケット弾を射撃する。1発の弾はロケット弾に命中し、空中で爆発する。クソッ!

 私はローブを脱ぎ捨て、背中に背負ったジェット機を起動させると、勢いよく空中に飛び出す。こうなったら、直接……!

 だが、メタルメカがもう一度、射撃する。それは正確に私のジェット機に当たる。ジェット機が火を噴く。私は慌ててシールドを張ると、ジェット機を捨てて、狂乱のステージに飛び降りる。


「みんな北門から逃げて!」


 私は大声で叫ぶように言う。パニックになっている市民たちの半分がその声を聞けなかっただろう。それでも、一部の市民は北門へと走る。それに連れられて、他の市民も走り出す。

 北門が安全かどうかは分からない。それでも、この広場でメチャクチャに逃げ回っているよりかはマシだ。逃げ回っていたらいつか全滅する。


[これはスゴイ! 国際政府の将軍、パトラー=オイジュスだ! いつも通り作戦失敗だな! アヴァナプタ、プロパネ! あの女を捕えろ!]


 ホフェットの命令と共に彼の斜め後ろに控えていた2人が広場に飛び出してくる。


[おおっ、あの女はパトラー=オイジュスか! お前たち、アイツを捕えろ!]


 コマンドも遅れて命令を下す。ケイレイトとメタルメカが広場に飛んでくる。

 ケイレイトとメタルメカ、アヴァナプタとプロパネ。合計で4人もの七将軍が、広場の真ん中にあるステージの中央にいた私を、距離を開けて取り囲む。


[突然の乱入、歓迎しよう……! 第二ラウンド、スタート!]


 ホフェットの声と共に会場全体に再び笛が鳴り響く。クソッ、催し物の1つにされてる!


「じゃ、私がお先に!」


 真っ先に動いたのはアヴァナプタだった。両手に鉄扇が握られていた。彼女は鉄扇と長針を武器に戦う。あの鉄扇は鋭い刃物だ。

 私はナイフを握り締める。近距離戦では銃よりもナイフの方が有利だった。アヴァナプタが鉄扇を舞うように振り回し、激しく攻撃してくる。私はその攻撃をナイフで受ける。大きな金属音が何度も鳴り響く。


「へぇ、なかなかやるじゃない!」


 隙を突いてアヴァナプタに攻撃しようとするが、防戦で精一杯だ。さすが、七将軍の1人。中々、攻撃のチャンスをくれない。

 その内、アヴァナプタは大きく飛んで後方に下がる。だが、入れ替わるようにしてプロパネが何かを投げる。――クナイ! 私は間一髪のところで避ける。クナイは小型の武器だ。楔形をし、先端の尖った部分で敵に刺さる。彼の持つクナイは刺さって終わりじゃない。刺さった後に爆発する。


「相手しよう、パトラー将軍」


 プロパネが再びクナイを投げる。私はそれをナイフで弾き落とす。爆発。前が煙で覆われる。その煙からアヴァナプタが現れ、折りたたまれた鉄扇で私を刺そうとする。それをギリギリで防ぐ。

 だが、もう片方の鉄扇は防げなかった。避けるだけで精一杯。刃の部分が肩をかすめる。鋭い痛みが走る。

 私は大きく飛んで後方に下がろうとする。だが、そこに待ち受けるのはメタルメカ。彼はが手を振る。それと同時に白い魔法弾が飛ぶ。衝撃弾だ。大きな破裂音。私は空中で吹き飛ばされ、レンガのステージに叩き付けられる。

 落ちた先にいたのはケイレイト。彼女は一瞬動揺したが、慌ててブーメランを取り出す。私はその一瞬を見逃さなかった。

 勢いよく立ち上り、ナイフを彼女の首に当て、そのまま押し倒す。彼女の身体に跨り、首にナイフを当てながら、叫ぶ。


「動くな! 動いたらケイレイトを――!」


 その瞬間、私の首にロープが巻き付く。ロープを飛ばしたのはメタルメカだった。彼はジェット機を使い、ロープを持ったまま空中へと飛ぶ。当然の事ながら、首を絞められたまま、空中へと連れて行かれる。息できない!

 息が出来ず、意識が遠のく私にアヴァナプタが鉄扇を振る。3本の長針が飛ぶ。私はそれを右腕で防ぐ。長針が刺さる。

 突然、私の身体はステージに落ちる。メタルメカがロープを切り離したのだろう。私は意識をもうろうとさせながら、必死でロープを解く。


「…………!」


 ロープを解き激しく咳き込んでいると、目の前の床に何か黒い物が刺さる。――プロパネのクナイ! 私がそれが何であるかを悟った時、それは爆発した。爆風と砕けた瓦礫が私の体に直撃する。

 私の体はゴミのように宙を舞い、背を硬いステージに打ち付ける。もう立つ体力さえなかった。でも、それでも立たないと……!

 私が立った瞬間、右脚を撃ち抜かれる。ハンドガンを握ったメタルメカの射撃。私は力尽き、床に倒れ込みそうになる。その時、誰かが私の体を抱き抱える。


「ケイレイ、ト……?」

人の生命を、娯楽や実験に使って壊す(=殺す)。強い人が弱い人の生命を保障せず、逆に弄んでメチャクチャにする。これって本当にひどい話ですよね。

ある日、あなたの家に武装した人が来て、「あなたは一般市民で政治家・公民じゃないから、政府のために実験台になってもらいます」なんて言われて、そのまま拘束されて製薬実験や軍用兵器の運用実験で殺されたら、もう仕方ないじゃ済まされませんよね。

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