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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 土の魔 ――傭兵都市サラマシティ――
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第4話 分かるでしょ?

 所詮、この世は強い者が、弱い者を自由に扱うのだろうか?


 弱ければ、何も選べない。


 死に方も、生き方も、何もかもが強い者によって決められる。


 ……世界が壊れたとき、それは証明される――




































































































 【グランド州 北部 とある小さな街】


 たくさんの黒い機械の兵隊が、ぼくらをどこかへ連れて行く。ウワサは聞いていた。最近、連合軍は小さな町や村を襲って、そこの人々をどこかに連れて行くって。

 ぼくたちは二列に並ばされて歩かされている。お父さんもお母さんも連れて行かれちゃった。僕たちも連れて行かれる。

 しばらく歩いていると、目的地が見えて来たよ。大きな球状の黒色の目立つ飛空艇。コア・シップっていうんだっけ? お姉ちゃんが前に言っていた。


 その時、ぼくの前を歩いていたお姉さんとお兄さんが手をつないで逃げ出した。それを見た黒い機械の兵隊は黒い銃を走る2人に向けた。その途端、凄い大きな音がしたよ。それが鳴り終わったとき、2人は血を流して倒れていた。


 ぼくは怖くて仕方がなかった。でも、歩くしかなかった。さっき、病院から無理矢理連れ出されたおばあちゃん。歩けなくて、撃たれちゃった。

 近所の赤ちゃん。すごい泣いていたのに、銃の音がしたら、泣きやんじゃった。そのお母さん、泣きながら黒い機械の兵隊に何かを叫んだ。そしたら、その人も撃たれちゃった。


 ぼくはなんとなく分かっていた。もうっ、ぼくたちはあの大きな飛空艇に入れば、ここには戻れないってっ……!

 でも、逃げ出せばっ、撃たれちゃう! 怖いよぉっ! お家帰りたいよぉっ! ぼくはその場で泣きながらしゃがむ。ぼくはなにをしたんだろう? なんでこんな目に合わなきゃいけないんだろうっ!?


 ぼくは大きな声で泣く。もう、恥ずかしいとも思わなかった。怖くて、悲しくて仕方なかった。

 その時、ぼくは涙で目の前の光景をぼやけさせながら見た。黒い兵隊の持っている銃がぼくの方を向いていることに――











◆◇◆











 【フランツーシティ 防衛師団本部要塞 パトラーの個室】


 クロノスが死んで半月が立った。ようやく彼の死から立ち直れそう……な気がする。もしかしたらさっき飲んだ精神薬のせいかも知れないケド。

 私は窓から外を眺める。私の軍とフランツー防衛師団による復興作業はだいぶ進んでいるみたい。半月前のバトル=オーディン、ウォゴプルとの戦いで都市は大きく傷つき、多くの市民が死んだ。戦闘に巻き込まれて……


「パトラー、入るぞ」

「あ、うん!」


 扉が開き、お父さんが入ってくる。私のお父さんは国際政府元老院議会の副議長だ。首都グリードシティからフランツーシティまで来たのは、兵士たちの慰労。……って言ってるケド……


「もう体調はよくなかったか?」

「あはは、もう元気だよ。ちょっと気分悪くしただけだから」


 クロノスの死で私は寝込んでしまった。彼とフランツーシティの市民を守れなかったことで罪悪感が溜まり、日夜自分を責めていたら、ある日倒れてしまった。

 倒れた翌日、お父さんが首都グリードシティから駆けつけてきた。お父さんと一緒に来た軍人の話だと、やっぱり私が倒れたから来たらしい。



「失礼します、パトラー将軍」


 しばらくお父さんと雑談を交わしていると、扉が開いて今度は1人の将校が入ってくる。その手には1枚の電子パネル…… 作戦会議の結果かな?

 私は彼から電子パネルを受け取り、内容に目を通す。


『「強制連行事件について」

 グランド州にて多発する強制連行事件は連合軍七将軍バトル=オーディンによる犯行であると判明。すでに7つの村と街で凶行は行われている。

 また、一部の市民はその場で殺害され、連行用のコア・シップ内で死亡した市民が投げ捨てられている事実も発覚した。

 連行された市民はグランド州西部のサラマ郡の郡都に運ばれている。彼らがそこでどうなったかはまだ不明であるが、連合軍のことである。市民たちが非人道的な扱いを受けていることは間違いない。

 ――最近、不穏なウワサが流れている。「サラマの奴隷は、至上の娯楽」。

  国際政府特殊軍将軍バシメア』


 私は全身から嫌な汗を流し、唾を飲み込む。この事件のウワサは聞いていた。聞いていたケド、信じたくはなかった。

 連合軍が連行した人間を人間として扱うわけがない。私は半年前、連合軍に連行された子供を見た。あの子たちは連合軍の製薬実験の実験台にされていた。


「――パトラー、どこへ行くんだ?」

「分かるでしょ?」


 私はベッドから立ち上がり、サブマシンガンを始めとした戦闘用の武器を装備しながら言う。


「この件はパトラーの管轄じゃない。クェリア将軍とクディラス将軍の――」

「知ってる。見てくるだけ」


 もちろん、見たついでにそこの連合軍を叩き潰して捕まった市民を解放するんだけどね。……フランツーシティの東にサラマシティはある。ここからそんなに離れてはいない。なのに、黙って見過ごすなんて、私には出来ない……!


「わたしが首都を出る前にクディラス将軍とクェリア将軍が出発した。今、行っても――」


 私はお父さんをほっといて廊下に出る。行き先は飛空艇着陸場だった。小型飛空艇に乗り、1人でサラマに向かうつもりだった。


「パトラー!」

「……お父さん、ごめん。私、行ってくるよ」

「…………」

「私、黙っていられない。連合軍のやってる事を知りすぎたせいかも知れない。ごめんね……」


 私はなにかと戦争前から連合軍と深く関わってきた。連合軍のやることはことごとく非人道的な、あまりに酷い事ばかりだった。それを見たときの記憶が色濃く頭に残り、深く根付いていた。


「――分かった」

「必ず、戻って、――」

「わたしも一緒に行こう」


 ……えっ?

 理不尽な理由で住んでる場所を追われたり、命を奪われたらたまんないですよね。また、どこかの誰かに人生(=生き方)を強制されるのもイヤですよね。

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