第46話 かつての弟子と仲間を守れるか――?
【科学都市テクノシティ テクノミア=エデン屋上 エアポート】
私たちは作戦を遂行し、テクノミア=エデンの屋上へとやってきた。メディデントとテクノミアが死んだのは作戦通り。ただ、テクノミアのコピーが60%程度しか出来なかったのは、想定外だ。
そして、もう1つだけ想定外なことがある。それは、今、私たちの乗るガンシップのすぐ側に“あの女”がいることだ。
「お前、誰だ?」
「――言わなくても、もう分かっているんじゃないのか? キャプテン・エデン」
「…………。愚問だったな、フィルド=ネスト」
間違いない。あそこで腕を組み、ガンシップにもたれ掛っているのは、私たちのオリジナルだ。あの女の遺伝子から、私たちクローンが作られている。
「その少年を渡せ。そしたら、お前たちを生かすかどうか、少しは考えてやる」
「却下」
その言葉と共に、私は空中に飛び上がる。幸い、このエアポートは広い。何十機ものガンシップを着陸させることが出来るほどの広さだ。
フィルドも、空中に飛び出す。私は何発もの斬撃を繰り出す。空中を縦横無尽に飛ぶ斬撃。四方八方から、オリジナルをズタズタにしようとする。それをオリジナルは同じように斬撃を飛ばし、相殺する。この一連の動きは僅か数秒だった。
「ほう、さすがかつての四鬼将筆頭!」
「やるじゃないか、“私の名を借りただけのキャプテン”よりいい筋してるぞ」
その間にも、私たちはお互い、魔法弾を飛ばす。電撃弾、火炎弾、衝撃弾、水撃弾、破壊弾…… 一発一発が交わる度に、強烈な爆音が鳴り響き、空気が弾ける。
爆発によって起きた煙に、お互いの姿が見えなくなる。だが、そんなものは私も、恐らく彼女も問題としないだろう。姿が見えなくても、気配で分かる。気配に向かって斬撃や魔法弾を飛ばす。彼女も同じように攻撃してくる。
「キャプテン・ヒュノプスやコマンダー・クナは生きているのか?」
「ハハハ、知らんな!」
煙が斬撃で斬れた時、すぐ近くに迫っていたオリジナルに話かける。返答と共に爆発が起こり、再び辺りは煙が立ち込める。
「パスリュー本部崩壊事件、ララーベル殺害、シリオードの戦い、ティトシティ・ヴォルド宮での事件、――アレイシアの騒乱。様々な事件を通してお前の強さは聞いていたが、凄いじゃないか。まさか、私と互角に戦える生物がいるとはな!」
クロス状の斬撃が飛ぶ。それをフィルドは剣で防ぐ。私も剣を引き抜く。空中でお互いが近づき合い、剣を交え合わせる。何度も金属音が鳴り響き、火花が散り、空気が斬れる。
「お前の剣術は、剣闘士コマンダー・レーリアが匹敵する」
私は大型の衝撃弾を至近距離で爆発させ、距離を取る。フィルドもその瞬間に斬撃を飛ばす。飛んできた斬撃を私は剣で防ぐ。
「お前の魔術は、魔導士コマンダー・フェールが全て会得している」
私は剣を鞘に戻すと、超能力で空中に衝撃を引き起こし、だいぶ離れたフィルドの元へと飛んでいく。気が付けば、屋上が小さくなっている。爆発の衝撃や超能力で、私もフィルドも空高く飛んでいた。
拳を握り、私はオリジナルに殴りかかる。その拳を彼女は正確に手で防ぎ、握り締める。私は素早く右足で彼女の腹を勢いよく蹴る。
「お前の身体能力は、狂戦士ハンターZが持つ」
私がそう言った途端、オリジナルは拳で私の右頬を殴る。私は口から血を飛ばしながら、勢いよく落下していく。
「素早さは、戦闘士コマンダー・アーカイズと同等だな」
口の端から滴る血を拭うと、私は再び空中を蹴って飛ぶ。
「――だが、戦術士コマンダー・ソフィアと召喚士コマンダー・クリアの能力をお前は持っていない」
私は、セネイシアとコマンダー・ソフィア、コマンダー・クリアを乗せ、飛び去って行くヒーラーズ・グループの軍艦を横目に言う。
「戦闘能力は私の剣術や魔術に匹敵する、戦術や召喚魔法は私以上というのか」
「そう…… それが七衛士。――キャプテン・ヒュノプスのような“欠陥クローン”とはワケが違う」
……キャプテン・ヒュノプスやコマンダー・ウォールはヒーラーズ・グループのクローンじゃない。今は滅び去った製薬会社テトラルが造ったクローンだ。
今、連合軍のクローン兵を作っているのは、キャプテン・ヒュノプス傘下のアレイシア本部・クローン研究所だ。――欠陥クローンが、更なる欠陥クローンを生んでいる。
私は空中で待ち構えていたフィルドよりも、遥かに高いところまで飛ぶと、真っ赤に燃える科学都市を振り返る。
「有能な私たちが、愚かな人類と欠陥クローンを滅ぼし、世界を――」
私は空中に“巨大な穴”を生み出す。禍々しい渦状の黒い穴。そこから炎を纏った巨大な石――隕石を召喚する。隕石を吐き出すと、穴は消滅する。直系500メートルほどの隕石は火炎地獄と化したテクノシティの中心にそびえ立つテクノミア=エデンを目指して落ちていく。
「フィルド、かつての弟子と仲間を守れるか――?」
私はそれだけ呟くと、風魔法を使い、遠くに飛び去った軍艦を目指して飛ぶ。これ以上、魔法を使うとこっちの命が消えてなくなりそうだ。
飛んでいる最中、私は一度だけ後ろを振り返る。隕石に向かって、無数の斬撃を飛ばそうとする私たちのオリジナルが、そこにいた。




