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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 街の闇 ――科学都市テクノシティ――
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第41話 1年半前は、私が悪かった

 【科学都市テクノシティ テクノミア=エデン 正門前】


 わたしは剣を鞘に戻す。後ろではリーグが剣を落とし、硬い道路に膝をつく。激しく咳き込み、血を吐き散らす。


「まずはプトレイ将軍の仇は取らせて貰ったぞ」

「クッ、この俺がッ……」


 リーグはそのまま倒れ、息絶える。わたしが一瞬の隙を突き、その身体を大きく斬った。キャスティクスの山でもしリーグと出会っていたら、間違いなく敗北していただろう。


「さて、ずいぶん遅れを取った……」


 わたしはテクノミア=エデンの方に目を移す。青白い光でライトアップされていた塔は、赤色の光に変わっていた。あの建物の最上階に人工知能テクノミアが君臨する。バトル=オーディンを建造した人工知能が、あそこにいる。



◆◇◆



 【科学都市テクノシティ テクノミア=エデン メイン・ロビー】


 私は剣で白色のグールを斬り倒す。彼らはテクノ州・テクノシティ議会の議員たち“だった”。いや議員だけじゃない。ナノテクノミアの社員や幹部までグールに変異していった。

 人工知能テクノミアやメディデントの狙いが全く分からない。自分たちの部下までグールに変えたら意味がないハズだ。なぜこんな事を?


「……すまない」


 私は泣きながら助けを求めてきた女性議員……だった大型グールの首をハネる。そのグールの背後の方では1人の女性が戦っている。クラスタだ。――かつての連合軍将軍。

 クラスタは失脚し、首都で発見され、私の部下となった。その頃、パトラーはまだ将軍ではなく、彼女もまた、立場上は、私の部下だった。でも、私はクラスタを一度も使ったことはない。対称的にパトラーとはよく戦った。


「…………」


 クラスタは剣を勢いよく振り降ろし、すぐ近くまで迫っていたグールを斬り倒す。そう、かつてファンタジアシティで戦った時も、彼女は剣を使っていた。私と剣で戦った。

 私はファンタジアシティでクラスタに敗北した。その時、彼女の部下は私に性的暴行をした。しかも、その後はスレイヴ・ドール実験の実験台にされた。その怨みを、私は忘れていない。


 1体のグールが鋭い爪を振り上げ、私を斬り裂こうとする。私は怒りと憎しみを込めて、そのグールを真っ二つに斬り倒す。更に別方向から近寄ってきた大型グールの心臓部を突き刺し、剣を捻じりながら、その巨体を蹴り倒す。


 私はクラスタを許さない。絶対に。あの事件はもう1年半前にもなる。でも、あの時に負った心の傷は癒えない。


「死ねッ!」


 私は前の方にいるグールに向かって勢いよく剣を投げる。その剣はグールの頭に突き刺さり、そのアンデット・モンスターは倒れる。

 剣を失った私はハンドガンで応戦する。次々とグールを撃ち殺していく。――もし、クラスタがグールに変異したら、私は彼女をこうやって撃ち殺すだろう。

 私は辺りのグールを一掃すると、死んだグールの頭に刺さった剣を引き抜く。メイン・ロビーの魔物は全部片付いたようだ。


「うッ、うあぁああぁッ!!」

「…………!?」


 クラスタの悲鳴。私ははっと彼女のいた方を向く。そこにはお腹を抑えてうずくまるクラスタと、3体のバトル=パラディンがいた。なんだ、情けない。バトル=パラディンにやられ、――


「…………ッ!」


 私はさっと横に飛ぶ。バトル=パラディンたちの方から何かが飛んできた。それは私のすぐ後ろの壁に突っ込む。――黒い小さな鉄球だった。ただの鉄球じゃない。無数のトゲが付いている。


[下手くそ]

[黙れ。1発目は俺のせいじゃないダロ]


 バトル=パラディンたちは床で呻き声を上げながら、うずくまるクラスタを無視し、私の方に歩み寄ってくる。2体のパラディンはいつも通り、先端に電撃を纏った槍を握っている。だが、1体だけはグレネードランチャーに似たハンドキャノンを持っていた。

 彼らの会話から、1発目も失敗したのか? さっきのは2発目?


[メディデント閣下のご命令は将軍クラスの人間を殺せ、だぞ]


 私は剣を握り、戦闘態勢に入る。バトル=パラディンは文字通り、騎士型のロボットだ。鋼の装甲に身を包み、濃い青色をしたマントを纏っている。頭部には対になった2本の大きな角まである。

 このバトル=パラディンだけで構成された部隊も連合軍にはあるらしい。3840体ものバトル=パラディンで構成されたその部隊の隊長こそ、騎士長バトル=オーディン。


「バトル=パラディンごときに負けるか!」


 私は、槍をぐるぐると回しながら接近するバトル=パラディンに飛びかかる。何度か電撃を纏う槍と撃ち合いつつも、1体のバトル=パラディンの頭を剣で突き刺す。火花を散らしながら、その騎士ロボットは倒れる。

 もう1体の槍を持ったバトル=パラディンとも何度か槍と剣で激しく戦うが、僅かな動きの隙を突いて、その頭を斬り壊す。


[死ね!]

「…………!」


 最後に残ったバトル=パラディンはハンド・キャノンをコッチに向けていた。そこから放たれるトゲ付き鉄球。私の頬をかすめる。


[あっ……]


 私はそのバトル=パラディンに素早く迫り、機械の騎士が持っていたハンド・キャノンを下から上へと蹴り飛ばす。宙を舞うハンド・キャノン。私は大きく飛んで、それをキャッチする。


「これもナノテクノミアの新製品か?」

[……鉄球自体は数十年前に造られたが、ハンドキャノンはビリオン社製だ]

「へぇ、そう」


 私はそれだけ言うとバトル=パラディンの頭に狙いを定め、引き金を引く。鉄球が勢いよく放たれ、鋼の頭を砕く。ハンドキャノンを持っていたバトル=パラディンもまた倒れた。

 私はうずくまるクラスタの元に駆け寄る。彼女の腹部にはあの鉄球が突き刺さっていた。


「クラスタ……」

「グッ、ぅ…… さっきのヤツ、らは……?」

「全部倒した」

「……そ、そうか」


 私はクラスタの腹部に突き刺さった鉄球を引き抜こうとする。だが、……


「…………!」


 よく見れば、無数の鋭いトゲには“返し”がついていた。突き刺さった際に、簡単には引き抜けないようにする為のものだ。無理やり引き抜こうとすれば、激痛が伴う。


「いい……このままで……」

「…………」


 このままでいいハズもないが、ハンド・キャノンで飛ばしたせいで、かなり深く刺さっている。今はどうしようもない。


「そ、それよりも、気をつけろ、ピューリタン」

「……何を?」

「もう少し、全体を、見て……戦うんだ。お前は、まだスロイディアや、クディラスほど、……将軍の器があるワケじゃ、ない。いくらか、パトラーよりか、マシだが……」

「…………。ご忠告どうも、クラスタ“将軍”」


 私は予想しなかった説教にイラっとしながらも、皮肉を込めて言う。無意識の内にハンドキャノンをぎゅっと握り締めていた。


「……1発目もお前を狙っていた」

「…………?」


 それだけ言うと、クラスタはふらふらと歩きだす。1発目も私を狙っていた? 1発目はクラスタじゃなかったのか? その時、私はバトル=パラディンのセリフを思い出す。


――黙れ。1発目は俺のせいじゃないダロ。


 俺のせいじゃない? 1発目から私を狙っていた。でも、それは失敗した。その失敗は、あのバトル=パラディンのせいじゃない……?


――メディデント閣下のご命令は将軍クラスの人間を殺せ、だぞ。


 クラスタは中将だ。将軍じゃない。メディデントの命令は“将軍を狙え”だったらしい。ならば、クラスタは対象外だ……


「まさか、クラスタ……!」

「…………」

「……私を庇って、代わりに……!?」


 クラスタは何も言わずにふらふらと歩いて行く。だが、その足取りが止まる。激しく咳き込みながら、倒れる。私はハンド・キャノンを投げ捨て、彼女の元に駆け寄る。


「クラスタっ!」

「……1年半前は、私が悪かった……」


 クラスタは荒い息をしながら、口から血を流しながら言う。予想以上の重傷だ。出血多量で死にかねない。このままだとヤバい。でも、無理に引き抜けば、ますます出血が多くなる。


「許して、とは言えない、な……」


 クラスタの目から涙が頬を伝って流れる。彼女が私を庇ったのは、過去のことが頭にあったからだろうか。私にしたことへの後悔と自責。それが、私の知らないところで彼女を苦しめていたのかも知れない。私の彼女への態度が、彼女を苦しめていたのかも知れない。


「クラスタっ……!」


 私のせいでクラスタが死んでしまう…… 私は震えながら、ぎゅっとクラスタを後ろから抱きしめる。――その時だった。


「ふふ、傷ついた人間。それを癒すのが、僕らの使命、かな?」

「…………?」

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