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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 水の魔 ――資本都市フランツーシティ――
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第3話 拷問はどうなった!

 【資本都市フランツーシティ フランツー防衛師団本部 会議室】


 私は肩を震わせ、泣きながらクロノスの棺を見送った。彼は10ヶ月も前、私が准将として軍を率い始めた時からずっと一緒にいてくれた軍人だ。先日、中将になったばかりで、これからもずっと一緒に戦っていけるって信じていたのに……!


「パトラー将軍、少し宜しいでしょうか?」

「…………」

「クロノス中将及び他21名もの兵士を殺害した女性ですが、彼女はあなたのかつての師であり、現在行方不明となっているフィルド=ネスト特殊軍副長官で間違いないでしょうか?」


 赤茶色のショートの髪の毛。同色の鋭い瞳。あの美しい顔立ち。間違いなくフィルドさんだけど…… でも、あの人がそんな事をするハズがない。

 私は会議室の椅子に座る。部屋におかれた白色の円卓。本当なら、クロノスもここに来て、共に今後の事を話し合うハズだった。


「昨夜、元老院議会ではフィルドを第一級危険人物として指名手配する事も挙げられたそうです」

「そんな! フィルドさんはそんなことをする人じゃないっ!」


 冗談じゃない。確かにフィルドさんは優しくはない。敵に対しては凄く厳しい人だ。でも、だからと言って政府の人間を無差別に殺していく殺人鬼なんかじゃない。

 私は元老院議会の動向に怒りを感じていた。どうせフィルドさんを気に入らない元老院議員がおカネを回して賛成票を投じるように仕向けているのだろう。元老院議会はおカネで動くから!


「アレはフィルドさんじゃない。指名手配の件も絶対反対。元老院議会にそう伝えて」

「は、はい、将軍」


 そう言うと、その将校は会議室を出て行く。フィルドさんはあんなことする人じゃない。絶対になんかの間違いだっ!


 しばらくすると、20人ほどの将校が会議室にやって来て、予定されていた会議が始まる。都市の復興支援や今後の動きについて。

 でも、私はそれどころじゃなかった。頭の中はフィルドさんのことでいっぱいだった。会議の内容はほとんど頭に残らずに終わった。


 夜、私は個室に戻って早々にベッドに寝転がる。色々と疲れた。肉体的疲労はそんなにはない。精神的疲労は大きい。それが身体にだるさを感じさせる。

 私は黒いブーツと靴下を脱ぐと、布団の中に潜り込む。まくらを抱き締め、寝ようとする。でも、めをつぶると、あの光景が蘇る。クロノスが斬り裂かれ、おびただしい量の血が飛び散るあの光景が。


 政府特殊軍の将軍は弟子を1人、取る事が出来る。その弟子は、特に決まってはないが、13歳から15歳ぐらいの子供を取る事が多い。

 私は今から6年前、14歳の時に、フィルドさんの弟子になった。当時、21歳だったフィルドさんは将軍の地位に就いたばかりだった。

 フィルドさんとは色々なところに行った。淫魔サキュバスの討伐作戦。オロチ討伐作戦。ゴブリン討伐作戦。特にこの3つは記憶に色濃く残っている。

 その頃はまだ連合政府なるものは存在しておらず、戦争もなかった。世界は平和だった。まさか、戦争が起きるなんて、当時は考えてもいなかった。


「フィルドさん……」



◆◇◆



 【連合政府支配域 監獄島シンシア支部】


 それは真夜中だった。機体の左右に翼を有した1機の黒い小型飛空艇が、島の崖に設けられた着陸場にやってくる。機体後方が開き、1機の機械が出てきた。バトル=オーディン将軍だ。

 その身体は大きく傷ついていた。胸に剣で突き刺されたような傷まである。装甲の至るところがひび割れている。


[コマンダー・ウォール! 拷問はどうなった!]


 降りてくるなりいきなり怒鳴るように聞くバトル=オーディン将軍。私とオーディン将軍は、黒いレーザースーツを着た私と同じ4人の女クローン兵を伴って、シンシア支部要塞の内部へと歩いていく。

 シンシア支部はコスーム大陸の西に位置する監獄島だった。5隻のコア・シップ、15隻の軍艦、1隻の司令艦によって守られている。


「先日捕えたあの男、――政府特殊軍ピューリタン将軍の部隊に所属する男ですか?」

[そうだ! アレは政府首都防衛を破る鍵だぞ!]


 オーディン将軍は歩きながら、怒鳴りながら話す。この機械、連合政府のメイン部隊である機械軍を象徴する機械だが、実は敗戦が多く、将軍の地位を危うくしていた。

 先日、クローン部隊の象徴キャプテン・フィルドが将軍となった。一方、オーディン将軍はフランツーシティにおける戦いで、強みの生物兵器ウォゴプルを失った。“これ”の降格は遠くないかも知れない。


[首都を守るキャンセル・シールドさえ、消せれば一気に攻め込めるのだ!]

「……でも、将軍の部隊は大丈夫ですか? これまでの戦いで壊滅状態なのでは?」

[黙れ! 兵などすぐに調達できる! ぐずぐずしていれば、九騎の連中が将軍の地位を狙いだす! そうなる前に、――!]


 九騎というのは連合軍の中将たちだ。今、6人いる。ここの防衛艦隊の司令官ログリムも九騎の1人。この前、死んだグレートも九騎の1人だ。

 そんなことを話している内に、拷問室へとたどり着く。黒に近い灰色の扉が左右にスライドして開く。その途端、血の匂いが薄らと漂ってくる。くさっ……

 部屋の中には、上半身裸の若い男が、両手首を鎖で繋がれ、吊り下げられていた。その後ろには女クローン兵が鞭を持って立っていた。


[吐いたか?]

「いえ、まだです……」


 バトル=オーディン将軍は男の顔を無理やり自身の方に向けさせる。男は疲れ切った顔をしていた。疲労が色濃く出ている。


[お前の情報によって、ラグナロク大戦は終わる。3年も続いているこの戦争、終わらせたくはないか?]

「……し、らない……」


 男は力なく、小さな声で言う。その途端、オーディン将軍は拳に電撃を纏わせ、彼の腹部を突く。男の悲鳴が拷問室に響き渡った。





 【シンシア支部 最高司令室】


 拷問を終え、私とバトル=オーディン将軍は最高司令室へと戻る。結局、あの男は口を割らなかった。まだ生きているとはいえ、いずれ心が壊れるな。すでにその兆候は出ている。


「オーディン将軍、サフェルトシティ攻撃中のアクセラ中将より援軍の要請が入っておりますが……」

[アクセラからか。いいだろう。俺が直々に大軍を率いて向かおうではないか]


 バトル=オーディン将軍はすぐさま、席を立って部屋を出ていく。アレも手柄を立てようと躍起になっている。……まぁ、手柄がなければ、地位を失うんだが。


[コマンダー・ウォール、あの男の拷問を続けろ]

「イエッサー」

[それと、“あの祭り”には俺は不参加と返答しておけ]

「あの祭り?」

[……ホフェット主催のアレだ]

「ああ、アレですか。分かりました」


 私がそう言うと、バトル=オーディン将軍はさっさと部屋から出ていく。

 あの祭り…… 連合政府が主催する“奴隷祭”だな。“悲鳴と泣き声の木霊す楽しい祭り”に出ないとは変わった人間もいるものだ。おっと、バトル=オーディン将軍は人間じゃなかったな。ふふっ……

 【今章で死亡した人物】


◆クロノス

 政府特殊軍パトラー=オイジュス率いる部隊の副官。階級は中将。2丁のハンドガンで戦っていた。「夢Ⅰ」・「夢Ⅱ」にも登場。


◆ウォゴプル

 巨大生物兵器。ゼリー状のモンスター。強力な物理・魔法攻撃で集団戦にも対応。「夢Ⅰ」にも登場。


◆グレート

 連合軍中将。バトル=オーディンの部下。「夢Ⅱ」・「夢Ⅲ」で登場。

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