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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 街の闇 ――科学都市テクノシティ――
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第38話 実現しない夢だな

 わたしは地面を転がりつつも、なんとか体制を整える。相手は大型の剣を持った連合軍の中将・リーグだ。彼の剣は普通の剣じゃない。刃がギザギザだった。剣というより、ノコギリに近かった。


「スロイディア、やるではないか」

「クッ……」


 リーグは九騎の中でもかなり強い。ほとんど身体能力で中将・九騎の地位を得たようなものだ。それ故、実力は将軍のバトル=オーディンやケイレイトを超える。連合軍・七将軍で対等に戦えるのは、メタルメカやプロパネ、アヴァナプタ、キャプテン・フィルドだろう。


「サキュバス王国での惨劇は聞いているぞ、リーグ」

「ほう、そりゃありがたい。この剣で斬り裂かれた哀れな女たちの悲鳴を聞かせてやりたいものだ」

「…………」


 リーグは5ヶ月前、この大陸の遥か南にあるサキュバス王国に攻め込んだ。いや、リーグだけじゃない。他にもログリムやグレート、アヴァナプタ、プロパネらも一緒だったらしい。

 そこでリーグら連合軍は虐殺の限りを尽くした。サキュバスと呼ばれる人間女性と同じ姿をした生き物を虐殺ジェノサイドした。何十万人というサキュバスが死んだらしい。

 その後もリーグが司令官となって、サキュバスを殺し、誘拐を続けている。この大陸の支配地で処刑を行っている。


「残虐なお前の行為もこれまでだ」

「ハハッ、サキュバスと人間の女は違うだろう? あいつらは人間の亜種だ。言っちまえば魔物だろう?」


 リーグが剣を両手で振り上げる。大きく、重量のある剣。威力は強いが、速度は遅い。ただ、一度でも直接当たれば、死を招く。


「パトラーやクラスタの怯える顔、泣き叫ぶ姿が見てみたいものだな。女の怯え泣き叫ぶ声を聞くために、俺は無理を通してサキュバスの残党狩りを申請したんだぜ?」

「……で、わざわざここに来た理由はなんだ?」

「パトラーを捕え、惨殺する為だ。まぁ、クラスタやピューリタンらでもいいがな」


 歪みきった男だ。もはや狂っているとしか言いようがない。こんな歪んだ狂気の男でも連合軍・中将、か。連合政府も狂っているな。

 わたしは剣を持ち、再びリーグに斬りかかって行く。


「スロイディア、お前を殺せば、わたしは七将軍の1人になれるだろう」

「それはそれは…… 実現しない夢だな」

「ほう……」


 ……とは言え、コイツはバトル=オーディンと共に政府将軍のプトレイ将軍を殺している。腕がいいのは確かだ。


「4ヶ月前の“キャスティクスの戦い”で救えなかった政府特殊軍の将軍共! お前たちもあの時、死ぬハズだった!」


 わたしの剣とリーグの剣が触れ合い、火花を散らす。激しい金属音が何度も鳴り響く。一瞬でも気を抜けば、命を取られる。

 キャスティクスは正直思い出したくもない戦いだ。あの戦いでヴェストン副総督、プトレイ将軍、ディフィトス将軍、ビザンティア将軍の3人が死んだ。開戦以来、最悪の戦いだった。























































◆◇◆
























































 ――SC 2013年8月 【大陸南東部 サフェルト州 キャスティクス】


 ビリオン・ポート本部での戦いから半月。連合軍は大陸南西部での支配権を失おうとしていた。幸にして、キャプテン・フィルドとケイレイトがクローン軍を率い、北国へと進撃していた。大陸南東部は手薄になっていた。


「スロイディア、久しぶりだな」

「……ビザンティア」


 大型飛空艇内の最高司令室。長年の友だったビザンティア将軍がわたしたちの側に寄ってくる。この時、最高司令室には、わたし、ビザンティア将軍、プトレイ将軍、ディフィトス将軍、ヴェストン副総督の5人がいた。


「パトラーたちがビリオンを倒してくれたおかげで南東部は陥落しそうだな」

「そうだな。だが、連合軍もわざわざ援軍を出したって情報がある。バトル=オーディン、メタルメカ、プロパネ、アヴァナプタの4将軍だとさ」


 プトレイ将軍のセリフを、私は上の空で聞いていた。もはや、勝てると確信していた。それは、ここにいる全員がそう思っていただろう。プトレイ将軍も、軽く言っていた。


「アレイシア支部の守りは?」

「あー、コマンダー・レスとコマンダー・ライカの2人。クローン兵3万」

「はは、そうかそうか」


 会議終了後、わたしは窓から外を眺める。何十隻もの白色の飛空艇が飛んでいた。大型飛空艇20隻、中型飛空艇60隻。総兵力56万。勝てると思っていた――





 あの会議から3日後、わたしたちは敗北した。突如として行われた連合軍の強襲。黒色の艦隊が“海中”から現れた。わたしたちは、援軍は空から現れると予測していた。だが、……海中だった。

 海の中から突如として現れた軍艦の大艦隊はたちまち、海岸付近で陣を張っていたわたしたちを焼き尽くした。

 司令艦4隻、軍艦40隻の軍勢。飛空艇数ですらわたしたちが勝っていたのだが……


「スロイディア将軍、敵は大軍です! 大至急、後方まで部隊を下がらせ――あ、ぐッ!」

「…………!?」


 めちゃくちゃだった。就寝時間帯に行われた強襲で、兵士たちはパニック状態に陥った。しかも、その夜は風の強い日だった。海上に停泊させていた飛空艇の艦隊は風に煽られ、焼き尽くされていく。

 上空の飛空艇は次々と撃ち落とされ、海上・陸上の軍勢に降ってくる。勝利を約束された軍勢の停泊地は、阿鼻叫喚の世界へと変貌していく。


「ひぃぃッ! 連合軍は何百万という大軍だぞ!」

「キャプテン・フィルドやケイレイトは北国へ行ってなかったんだ!」

「連合政府グランド・リーダーのティワード直々の出撃だ!」

「敵の軍艦は100隻を超えている!」


 恐怖が恐怖を呼ぶ。ありもしない恐怖が更なるパニックを呼び、混乱は全ての呑み込む。わたしたちは、恐怖と混乱の渦に呑まれていく――

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