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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第6章 街の闇 ――科学都市テクノシティ――
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第34話 私が恐怖を感じている?

 【科学都市テクノシティ 西部市内】


 私は黒い刃を有する長剣で、何百ものグールと、市民を斬り殺していた。どうせグールになる無駄な命。変異して、余計な力をつけるぐらいなら、今ここで死んでいた方がいいじゃないか。

 一通り、周りにいた命という命を片付けると、剣にべっとりと付いていた血を振り払う。黒い壁に、液体がかかる。

 私は剣を鞘に戻し、再び歩き出す。狭く暗い街路地。こんなところでグール斬りと人斬りやってても仕方ないか。



「…………」


 黄色と赤色の光――都市の異常事態を表す、異様な明るさがある大通りに出た時だった。今まで通ってきた道から背筋が凍るような寒気を感じ、私は素早く振り返る。

 そこにいたのは、1人の女性だった。肩や腕、首回りに鋼の鎧を装備し、白いマントを羽織った俯き加減の女性。赤茶色をした腰まで伸びる長い髪の毛。同色の瞳…… ああ、なるほど。


「……クローン・フィルドか」

「…………」

「ずいぶん、変わった服装をしているな。逆に目立つぞ? ……まぁ、最近は傭兵が闊歩している“ゴミみたいな街”もあるぐらいだから、気にしない人間はしないだろうがな」


 そう言いながら――私と私の軍によって壊滅したサラマシティを思い出しながら、剣を引き抜いて行く。ゴミクローン1人を斬ったところで面白みもないが……

 それよりも、この街で斬っておきたい人間がいた。1人はメディデント。もう1人は――


「私は忙しいから、数秒で消してやるよ。――これから“役に立たない将軍”も消したいので……」


 私はニヤリと笑いながら、彼女に近寄って行く。――私はパトラーを殺すつもりだった。この騒乱は丁度いい。どさくさに紛れて殺すことが出来る。そして、彼女の後釜に、私の部下を就けるつもりだった。そうすれば、軍部での私の力が強まる。強まれば、もっと早く、もっと過激な方法で戦争を、終わらせられるんだ……


「……できるかな?」

「――は?」


 そのクローンは剣を引き抜くと、目にも止まらないほどの速度で私のすぐ前の前まで迫ってきた!


「う、うわっ!?」


 それは今までのどの敵よりも素早い動きだった。私の首を目がけて剣が振られる。私は後ろに飛び、間一髪で避け、なんとか態勢を持ち直す。

 クローンは白い刃をした剣を握ったまま、こっちに飛んでくる。だが、2度目は見切れた。私は横に飛び、更に剣で迫ってきた彼女を斬ろうとする。だが、――


「ハハハハ!」

「…………!」


 見えない何かが飛んできた! それは振り下ろされた私の剣に当たる。当たって、弾かれる。その衝撃に危うく手を放しそうになる。

 クソッ、今の攻撃、超能力だ。超能力の斬撃だ。しかも、私を狙ったものじゃない。剣を弾き、狙いをブレさせるものだ。

 弾かれた間に、クローンはすでに距離を取っていた。彼女の後ろには、――私の後ろも、か――、逃げ惑う大勢の市民がいた。そして、グールやバトル=アルファも。


「いやぁっ!」

「死にたくない!」

「怖いよぉっ!」


 泣きながら逃げ惑う子ども。ジャマなヤツらだ。どうせ、コイツらも死ぬだろうに。何とか逃げ出し、助かろうとする大人。どうせお前たちもグールになる。


「……政府特殊軍も腐ったものだな」

「はぁ? なに言ってるんだ、私は国家を守る為に、戦っているんだぞ?」

「ほう…… それで市民を殺すのか」

「そもそも彼らは連合政府市民だ。国際政府の敵だ。いや、国際政府市民であっても、国を危うくする存在は――消す!」


 そう言うと、今度は私がクローンに向かって行く。このクローンも連合政府軍人だ。国際政府の敵――


「もはや狂気だな」


 そうポツリと言うと、クローンは手を振り、何かを飛ばす。白い尾を引く魔法弾――衝撃弾か! 私はその衝撃弾に向かって剣を横に振り、斬り裂こうとする。

 だが、その衝撃弾と剣が触れ合った途端、それは爆発する。いや、爆発は想定内。想定外だったのは、その後――


「…………!」


 辺り一帯に響き渡る爆音。空気が激しく振動し、私の身体は吹き飛ばされる。近くにいたグールや市民、バトル=アルファも吹き飛ばされる。

 私の身体は、近くのシールド電光掲示板を粉々に砕き、そのまま建物に激しく叩き付けられる。他に吹き飛ばされた市民は身体を強く地面や壁に叩きつけ、倒れ込む。二度と動くことはなかった。


「クッ……!」


 私は全身がバラバラになりそうな身体の痛みに耐えながら立ち上がる。まさかここまで強いクローンがいるなんて……!

 でも、この私がクローンごときに負けるハズがない! どうせあれだけの力を使えば、体力の消耗は激しいだろう。


「さァ、どうする?」

「…………!?」


 私の前に、あのクローンが立ちはだかる。体力を消耗したような感じが全くない。彼女の覇気は全く衰えてない。むしろ、まだ余裕そうだった。

 クローンが私に手をかざす。


「…………!」


 彼女が私に手をかざした途端、肩や太もも、腹部、胸に強い痛みが走る。しかも、この痛みは物理的なものじゃない。剣で斬られたかのような痛み。――斬撃か!?

 私は力を失ったのように膝をつき、その場に倒れ込む。なんとか地面に両手を付き、今にも壊れそうな身体を支える。


「電撃と斬撃。一瞬だったから分からないだろう?」

「ぐッぁ……!」


 私は攻撃を受けた自分の身体に目をやる。蒼色に緑のラインが入った装甲服の半分近くが砕け、肌や中の服が露出している。しかも、おびただしい量の血が流れている……

 この装甲服は防御に特化したものだ。やや重量があり、柔軟な動きも出来ないが、それでも防御力はトップクラスだ。その装甲服を砕く程の力……


「政府特殊軍将軍・四鬼将クェリア――それも今日までかもな」

「……な、なにを……!」


 私は頬に血を滴らせながら顔を上げる。その途端、腹部に強烈な打撃を喰らう。また壁に勢いよく叩きつけられ、残った装甲服の一部が崩れ落ちる。激しく咳き込み、口から血が出る。

 フラリと地面に倒れ込みそうになった時、今度は脇腹に打撃が飛び、更に別方向から斬撃や打撃が次々と襲ってくる。

 私は抵抗らしい抵抗をすることも出来ないまま、まるで集団の攻撃を受けているかのように、攻撃を受け続ける。何度も、血を吐き、意識が飛びそうになる。



「お前が四鬼将になるとは私は思わなかったぞ」


 ようやく攻撃がやんだ時、彼女の冷たい声が耳に入る。この時、私はすでに呼吸するだけで精一杯だった。冷たい地面に、血まみれの身体を虚しく転げ、もはや何も出来なかった。

 私は四鬼将だ。政府特殊軍将軍の中でも、最上級の実力を誇る。その私が、彼女によって叩き伏せられている。


 心の中に広がる恐怖。自分が崩れていく。強く、美しく、気高かった私が崩れる。恐れられ、畏敬され、嫉妬され、尊敬される私が崩れる。

 でも、それ以上に怖かったことがある。――このままだと私は殺される……! イヤだ、死にたくない! 死にたくない!


「うっ、ぅあッ……」

「なんだ、震えているのか?」


 違う! 私は……! 私が恐怖を感じている? そんなこと、あり得ないハズ……なのに……


「強さだけというのは、頼りなりないな」


 そう言うと彼女は、白いマントをひるがえして、私の前から去って行く。地面に転がった私の剣を軽く蹴り転がす。私がラグナロク大戦中、ずっと使って来た剣だ。その剣は虚しく冷たい音を立てて転がった。


 政府特殊軍将軍の私がクローンに負けた。四鬼将の私がクローンに負けた。無敗の私がクローンに負けた。……クローン?

 身体の痛みと出血多量で、意識が遠のき始める。消えゆく視界。今は小さくなった彼女の姿。……彼女は、本当にクローンか?


「ちが、う……」


 フランツーシティでグレートを殺したのは、フィルドの姿をしたクローンだった。サラマに現れたフィルドもクローンだった。シンシアでログリムを殺したコマンダー・ウォールもクローンだ。

 でも、今のはクローンじゃない。このテクノシティにいるのは――






































































 ――クローンたちのオリジナルにして、“かつて四鬼将だった”フィルドだ。

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