第30話 ダーク・サンクチュアリってなに?
「んーっ、感動的!」
急にマディアンが拍手する。台無しだ。
「で、ケイレイトの件は? っていうか、なんでピューリタンは死んだとウソを言った?」
「おー、パトラーたんが怖くなったねぇ。ピューリタンのウソ・死亡説は彼女の依頼だからさ」
「ピューリタンの?」
「ごめん…… マディアンを差し向けたのは、私のせいなんだ。私はもう死んだことにして欲しかった。それさえ信じてくれれば……私は自らの首を斬るつもりだった」
ピューリタンは、私の渡したハンカチで涙を拭いながら言った。じゃ、あそこで本当に私が信じたらピューリタンは……
「そんなこと、しないでっ……!」
「ごめん……」
私はぎゅっとピューリタンの手を握る。失いたくない。もう、誰も……
「ケイレイトはヒーラーズ・グループのヴァイスや他の連合政府リーダーたちによって無罪が主張され、今も七将軍の1人なんだよね。当然、裏じゃ大きなおカネの取引があったんだとは思うよ」
……賄賂か。連合議会も国際政府元老院議会と同じように、腐っているんだな。国際政府元老院議会だって、企業や利益団体からの違法献金が問題になっている。
「でも、ヒーラーズのヴァイスって生きてるのか? 私が1ヶ月前、セネイシアに会った時、“ヴァイスはもういない”とか言ってたけど?」
「ん~、セネイシアの言葉が真意かどうかは分からないケド、真実の可能性が高いね。だって、ヴァイスはもう1年もダーク・サンクチュアリに引きこもり、連合議会にも直接出席しないからね」
「前々から思ってたけど、ダーク・サンクチュアリってなに?」
ダーク・サンクチュアリ――闇の聖地? 連合政府も変な名前付けるんだな。ちょっと意外かも。
「その質問は範囲外だけど、まぁ、教えて上げるよ。感謝してね」
やっぱり自分で調べようか?
「ダーク・サンクチュアリはホープ州の山奥から入れる巨大な地下世界さ。今のヒーラーズ・グループの本部要塞。司令艦5隻、コア・シップ20隻、軍艦40隻によってその入り口は封鎖され、厳重に守られているんだ」
……かなりの大兵力で守っているんだな。しかも、地下要塞じゃ簡単に攻撃できない。一番厄介なパターンだ。
「光の射さない地下世界にも、ヒーラーズ・グループの大軍が潜んでいるってウワサもある。特に七衛士の強さは尋常じゃないらしいね」
「…………!」
シンシアの時に会ったあの4人……! 確かにバトル=オーディンを瞬殺(結局、死ななかったケド)したコマンダー・レーリアの強さは尋常じゃない。ハンターZ型もこれまでのハンターとはケタ違いだ。
「七衛士は全員クローンさ。そこはさすが、ブラックな医療連盟を名乗るだけはあるよね。……もっとも、セネイシア本人がロボット・人間嫌いってのもあるんだろうけど」
「えっ?」
「だから、セネイシアは大敵であるナノテクノミアに、――! おっと、ここからは4つ目の質問の答えになっちゃう。ここまでだね」
……4つ目の質問ってなんだっけ? クェリアの不倫疑惑だっけ? おっと、不倫じゃなくて交際だっけ?
「じゃ、ボクの役目はここまでだね。バイバイ、パトラーたん!」
「あ、ちょっとっ……!」
彼はそのまま羽織っていた紫色のマントをひるがえすと、あっという間に消える。ワープしたのだろう。空間のパーフェクターなのだから、それぐらいワケない。
「……まぁ、目的も果たせたし、そろそろ軍事総本部へと戻ろ――」
スロイディア将軍がそう言おうとした時だった。最下層の奥――暗黒層へと通じる道の方からイヤな風が吹いてきた。それと同時になにかの雄叫びまで――
「な、なんだ?」
「むむっ……」
「……グリード=グールかも知れない」
ピューリタンがポツリと言う。グリード=グールは人間だった者たちだ。それが、なぜか魔物へと変貌した。滅び去った魔物だと思われていたのに、それがなぜか首都の下で蘇りつつある……
「私がここにいた頃、何度もグリード=グールの声を聞いてきた。正直、怖かった。死んでも、アイツらの餌になんかなりなくなかった。だから、私は死ねなかったんだ……」
「グールは人間の肉を食べる魔物だ。死体でも食べるからな。恐ろしい魔物だ」
「でも、なんでグリード=グールって増えてるんだろう? 暗黒層でなにが起きているんだろう?」
私はまだ遠くの不気味な声を耳にし、僅かに震えながら言った。グールの声は精神攻撃にもなる。おぞましいパワーを含んでいる。
「……パトラー、ピューリタン、覚悟はあるか?」
「えっ?」
「今から調査に行くのも1つの手だ。ただ、将軍3人でも、危険を伴う。それでもいいなら、行こうではないか」
今から首都暗黒層に行き、ナゾのグール発生原因を調べる、か。私はピューリタンの方を向く。彼女も私の方を見る。お互いに頷き合う。
「行こう」
「最下層の人々だって人間だ。私たちは人々を守る為にいるんだ!」
「……いいだろう」
そう言うとスロイディア将軍は最下層より更に下の暗黒層へと向かって歩み始める。グールの雄叫びが響く首都の最深部。政府の力が完全に及ばない地下世界。人すらいない無人の世界。そこへ、私たちは足を進め出した。




