第2話 やめてよぉっ!
【フランツーシティ 市街地】
私の銃撃で細身く長身の人間型機械兵士バトル=アルファが倒れる。私は部隊の戦闘に立ち、道路の向こう側から押し寄せてくる機械軍団を相手にしていた。
バトル=アルファの隊列が射撃しながらこっちに向かって歩いてくる。バトル=メシェディに比べれば、耐久力も低く、動きも遅いバトル=アルファ。彼らは数だけ。多いだけが強みだった。
「撃てっ!」
[破壊セヨ! 攻撃セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
僅かに地面から浮遊し車輪のない戦車から身を乗り出し、指令を下す1人の男。ここに攻めてきた連合軍の副指揮官グレート中将だ。
連合軍中将軍団“九騎”の1人。たぶん、指揮官としての実力はバトル=オーディンと並ぶほど。九騎というのは指揮能力・身体能力に長けた人間たちだ。
「ええい、ザコを撃つな! 先頭にいるパトラー=オイジュスだけを狙い撃ちにしろ! あの女を殺せば我らがここで死のうとも、国際政府には大打撃を与えられる!」
あっ、ヤバい! さすがにあの数のバトル=アルファに狙い撃ちされたら防ぎきれない! 私は慌てて下がろうとするが、――
「…………!?」
突然、なんの前触れもなく、グレートの首が宙を舞い、地面に落ちる。
「えっ……?」
グレート中将の身体が崩れるようにして倒れる。連合軍も政府軍もその光景を呆然と見ていた。ここにいる誰もが、グレート中将の死亡を理解できていなかった。
その時、連合軍と政府軍の間に出来た間を通って、誰かがこっちに歩いてくる。私はその姿に動けなくなる。まさか、あの人、は……?
「“フィルド”さん……?」
白色の政府軍上級将官が着る服を纏った1人の女性が歩いてくる。赤茶色の髪の毛に、白い肌…… あの人は私の師だったフィルドさんだ。
フィルドさんは元は国際政府特殊軍副長官。3年前に連合軍に捕えられるも、大勢の将兵を殺して脱走。その後は行方が分からなくなっていた。
「あ、あのっ……」
私は声をかけようとした。でも、次の言葉が喉に詰まって出て来ない。やっと会えた。やっと会えたのに……! その間にも、フィルドさんは私の方にゆっくりと歩み寄って来る。
その時、連合軍の方から1発の銃弾が飛んでくる。それはフィルドさんの頬をかする。その途端、フィルドさんは歩くのを止め、連合軍の方に手をかざす。ニヤっと笑みを浮かべると一気に近くのバトル=アルファ軍団を超能力で斬り飛ばす。
「ぜ、全員、連合軍を討て!」
私ははっと我に返り、大きな声で指令を出す。政府軍と連合軍。再び撃ち合いになる。両軍入り乱れ、血と煙、悲鳴と怒号が辺りに満ちていく。
私もサブマシンガンでバトル=アルファや上位機種のバトル=ベータを撃っていく。バトル=ベータは四足歩行する人間型ロボットだ。両手がマシンガンになっていて、激しく射撃をしてくる。
「パトラー将軍! 大丈夫ですか!?」
「クロノス、フィルドさんは!?」
「はい、フィルド副長官は、――」
そこまで言った時だった。ロケット弾が目の前に着弾し、私たちは後ろに吹き飛ばされる。爆風がスゴイ。
吹き飛ばされた私たちはすぐに起き上がろうとする。だが、目の前にフィルドさんがやってくる。彼女は私とクロノスを見ると、またニヤリと笑う。
「フィルド副長官、ここいては危険です!」
クロノスが彼女に歩み寄った瞬間だった。彼の上半身と下半身が丁度、体の胴で斬り裂かれ、真っ二つになる。おびただしい血が私とフィルドさんの白い服を赤く染めていく。クロノスの上半身が下半身から離れ、私のすぐ側に倒れ込んでくる。
「え、えっ……?」
私は全く意味が分からなかった。私の部下のクロノスが、私の師のフィルドさんに殺された。私の師のフィルドさんが、私の部下のクロノスを殺した……
「な、なんで……?」
「きさまぁッ!」
この光景を見た別の兵士がフィルドさんに向かって突進して来る。まだ若い将校だった。たぶん、3年前は軍にいなかった人だと思う。
顔に血を付けたフィルドさんは、彼をクロノスと同じように下半身と上半身で真っ二つに斬り殺す。それだけじゃない。近くにいた兵士が次々と斬り裂かれていく。連合軍機械兵士も政府軍兵士も関係なかった。
「うぁ!」
[破壊――!]
「フィルド副長官っ――!」
「ぐぇっ!」
[攻げ――!]
連合軍と政府軍の戦場であった大通りは大混乱に陥る。混乱が混乱を呼び、場は騒然となる。フィルドさんはパニックに陥った軍勢を次々と殺戮地獄に叩き落す。
「や、やめて…… やめてよぉっ!」
私もみんなと同じように冷静さを失っていた。目に涙を溜め、殺戮の限りを尽くすフィルドさんに向かっていく。
でも、それよりも前にどこからかロケット弾が飛んでくる。それらはあちこちに着弾し、爆発と共に青色の煙を蔓延させる。煙幕だ!
その時、フィルドさんの胸を3発の銃弾が貫く。撃ったのは政府軍兵士だった。その姿は煙幕に消える。胸に手をやり、苦痛の表情を浮かべるフィルドさんも消えていく。
私が最後に見たのは、いつも見てきたあの赤茶色の鋭い瞳だった――