第27話 闇よりの使者です
コマンダー・ウォールを殺害したバトル=オーディンとその軍勢は私たちの周りに集まってくる。いつの間にか凄い数になっている。完全に周りを囲まれている。
バトル=アルファやバトル=ベータを中心にバトル=メシェディやバトル=ガンマ、バトル=ベーゴマーまで集まっている。
[ここまでだったな、パトラー=オイジュス!]
「そ、そうかな?」
私は剣を引き抜いて言う。……とは言うものの特にいい作戦もない。さすがに万事休す。本当にここまでかも知れない。
例え、このまま小型飛空艇に乗り込んでも、飛空艇もろとも破壊されておしまいだ。空中を見れば、何人ものバトル=フィルドが飛んでいる。あのレーザー光線なら、簡単に飛空艇を木端微塵に出来るだろう。
[……あっ、将軍]
[なんだ?]
[ガンシップが1隻――]
そのバトル=アルファが言い終らぬうちに、黒いガンシップが飛空艇格納庫へと入ってくる。着陸すると、機体側面の扉がスライドして開き、誰かが降りてくる。中から出て来たのは、エメラルド色の装甲服に白いマントを纏った1人の女性――クローン兵と黒いフードを被った、10代前半ぐらいの年齢と思われる1人の子供。
[誰だ?]
「……闇よりの使者です」
子供――少年が言った。
[ほほう、闇よりの……面白いことを言うではないか! だが、ここは貴様のような子供が来る場所ではない!]
子供が……? いや、違う。あの子、普通じゃない。あの黒いガンシップは連合政府のものだ。何より、後ろに従わせている女性はクローン兵だ。
「ケイレイト将軍、お助けに参りました」
「えっ……? 私を……?」
「ええ、そうです。……コマンダー・レーリア、彼らを破壊して」
「はい、マイ・マスター」
今まで後ろに控えていたクローン兵――コマンダー・レーリアが進み出る。彼女は腰に装備していた剣を引き抜く。刃が青かった。なんだアレ……?
[ははッ! 珍しいものを持っているではないか!]
バトル=オーディンも2本の剣を引き抜き、両手に握り締める(6刀流じゃないってことは手を抜いているのか……)。
「ふむ、バトル=オーディンとコマンダー・レーリアじゃほぼ同等……かな」
「そんな事はありません、“セネイシア卿”。私の方が機械の親玉より勝っています」
「そうだね。でもさ、あの機械、ずる賢いから、ね?」
「……見事なご賢察。私も同感です」
……確かにバトル=オーディンはずる賢い。自分が危なくなるとすぐに逃げたり、味方を呼んだりする(正々堂々戦えっ!)。
「コマンダー・アーカイズ、コマンダー・フェール、ハンターZ、出てきて…… ケイレイト将軍を助けるんだ」
少年――セネイシアの呼びかけに、ガンシップからまた別のフィルド・クローンが出てくる。そして、その後ろには黒い装甲で身体を覆った大男まで。……ハンターA型と似ているケド、……コイツ、かなり強い!
「セネイシア閣下、このコア・シップ、沈めてもよろしいですか?」
ガンシップから出てきた髪の長いフィルド・クローンが言う。彼女はメイド服。どう考えても戦闘向きじゃない。顔も大人しそうな顔をしている。でも、言っていることは真逆だ。
「コマンダー・フェール……僕やみんな、ケイレイト将軍が死ななきゃいい、かな?」
そう答えるセネイシアの背後にいるもう1人のクローン。さっきのメイド服の子がコマンダー・フェールなら、顔以外を全て銀色に青色のラインが入った装甲服で覆ったクローンはコマンダー・アーカイズか……
「コマンダー・アーカイズ、君はケイレイト将軍の保護を」
「イエッサー!」
そう強く言うと、コマンダー・アーカイズはヘッド・アーマー被り、全身を完全に装甲服で覆う。そして、背中に背負ったジェット機を起動させ、こっちに飛んできた!
コマンダー・アーカイズは私のすぐ目の前に着地し、私の頭にリボルバーを付きつける。今はシールドを張っていない。発砲されたら……!
「う、うわっ!」
「ケイレイト将軍を大人しく渡せ。さもなくば、お前の頭を木端微塵にするぞ」
「やめて! アーカイズ!」
側にいた叫ぶようにして言うケイレイト。
「私を……連れていってもいいから、パトラーたちを見逃してあげて!」
「……命令はあなたの保護。こんなゴミに用はありません」
そう言うと、アーカイズはケイレイトを抱き締め、再び飛んでいく。一瞬の出来事だった……
[ぐぉおぉぉッ! こ、この女を、殺せッ!]
バトル=オーディンの声。私ははっと我に返ってそっちを振り向く。早くもバトル=オーディンは劣勢だった。6本の腕の内、4本を失い、その胸には大きな傷が出来ていた。まるで剣で突き刺されたかのような傷跡だ。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
一斉に軍用兵器たちがコマンダー・レーリアに群がる。だが、彼女の後ろから炎の竜が飛ぶ。魔物――いや、違う! コマンダー・フェールの魔法だ!
メイド服のコマンダー・フェールは涼しそうな顔で炎の竜を操り、それを軍用兵器の大軍に向けて突っ込ませる。その途端、コア・シップが崩れるんじゃないかと思うような音が鳴り響く。激しく揺れる。熱風が襲う。あの子、本当にコア・シップを沈めれそうだ!
「オーディン将軍、あれは、あの集団は、医療連盟「ヒーラーズ・グループ」所属の――」
そう言うのはシンシア支部にいたクローン兵。彼女の言葉が終わらぬうちにその身体は吹き飛ぶ。周りの軍用兵器も一緒に吹き飛ばされる。
[と、ということは、アレがヒーラーズの、“七衛士”か……!]
ボロボロの身体で立ち上がるバトル=オーディン。すでに格納庫は火の海と化しつつあった。気が付けば、ほとんどの軍用兵器がやられていた。
「そうですよ、バトル=オーディン将軍。すでにあなたを筆頭とする“連合軍・七将軍”は時代遅れです。これからの連合軍は、僕たちの時代です」
[黙れ! 最近になって沸いた青二才どもに連合軍を乗っ取られてたまるか!]
そう叫ぶバトル=オーディンを背に少年は歩き出す。
「劣化した連合軍。権力闘争に明け暮れる連合議会。腐敗した連合政府を、僕らが立て直して上げます。その新連合政府に、あなたはいないでしょうが――」
セネイシアと入れ替わるようにして漆黒の装甲を纏う大男。ハンターZ型。
[今の今まで国際政府軍と戦い続けたのは、この俺やプロパネ、メタルメカ、アヴァナプタ、ケイレイト、キャプテン・フィルドだ! 貴様ら地下世界の――ダーク・サンクチュアリに閉じ籠り、日和見していたヒーラーズごときに、連合政府を――!]
ハンターZ型の鋭い拳が、バトル=オーディンの胸を貫く。そのままハンターZ型は、バトル=オーディンを遥か遠くの格納庫の壁まで吹き飛ばす。機械の親玉は格納庫の壁を砕き、コア・シップの奥へと消えていった。
「連合政府を、乗っ取る気か?」
「……パトラー=オイジュス。あなたとはいつか刃を交えるかも知れませんね」
黒いフードを被ったセネイシアはチラリと顔を見せ、言った。
「ヒーラーズ・グループの総帥はヴァイスのハズだ。彼は――」
「そんなの、もう、いない――」
「えっ……?」
もう、いない? 私はその意味を詳しく聞こうとした、だが、その前にセネイシアとその仲間たちは長距離用の飛空艇に乗り込むと、さっさとコア・シップを去って行った。
ヒーラーズ・グループの総帥にして連合政府リーダーの1人ヴァイスは、――いない? 死んだのか? その疑問を残しつつも、私たちは小型飛空艇へと入る。
絶望の最中に開かれた希望の道。だが、開いた者たちは何者? 連合政府もまた壊れ始めているのか? そして、彼らの目的は? ただ単に連合政府を乗っ取るだけ――?
【連合軍・七将軍】
連合軍を率いる7人の将軍のこと。七将軍とはいうが、現在は6人しかいない。
現行のメンバーは、バトル=オーディン、ケイレイト、メタルメカ、アヴァナプタ、プロパネ、キャプテン・ヒュノプス(新規)。
離脱したメンバーは、クラスタ(失脚)、デスピア(死亡)、ピロテース(死亡)。
【七衛士】
連合政府加盟企業の1つ医療連盟「ヒーラーズ・グループ」のセネイシアが勝手に編成した7名の集団。連合軍・七将軍に取って代わろうとしているらしい。
今回、姿を現したメンバーは、コマンダー・レーリア、コマンダー・フェール、コマンダー・アーカイズ、ハンターZ型。
◆コマンダー・レーリア[女性/19歳/剣闘士]
緑色の装甲服に白色のマントを纏ったフィルド・クローン。主要武器は刃が青色の剣。
◆コマンダー・フェール[女性/16歳/魔導士(メイド)]
メイド服を常に来ているフィルド・クローン。強力な魔力を有し、魔法を使って戦う。
◆コマンダー・アーカイズ[女性/21歳/戦闘士]
銀色に青色のラインが入った装甲服を着て戦うフィルド・クローン。多種多彩な武器を使用。装甲服にも、様々な隠し武器がある。
◆ハンターZ型[無性/20歳(素体年齢)/狂戦士]
これまでハンター系生物兵器の最上位にあったスウィーパー(ハンターD型)をより高度に改良して生み出された最強の生物兵器。
◆コマンダー・ソフィア[女性/20歳/戦術士]
メガネを付けたフィルド・クローン。本人の戦闘能力は他の七衛士と比べると低いが、知能の面では最も上。戦う時は魔法発生装置を内蔵した特殊な剣で戦う。
◆コマンダー・クリア[女性/13歳/召喚士]
七衛士最年少のフィルド・クローン。最年少故か、一番明るい性格の持ち主。コマンダー・フェールと似て強大な魔力を有しているため、魔法攻撃が主流。だた、彼女の場合、魔物や軍用兵器・生物兵器を召喚して戦う。
◆キャプテン・エデン[女性/21歳/親衛士]
七衛士筆頭のフィルド・クローン。全ての七衛士の中で最大の戦闘能力を有する。クローン・リーダーにして七将軍のキャプテン・ヒュノプスよりもその能力は高いとされる。




