第20話 生物兵器アサシンか……
【シンシア支部 裏口】
クラスタが自身の左腕に装備した小型のコンピューターを使い、ロックを解除をする。電磁シールドが消滅し、入り口が開かれる。私が先頭となってシンシア支部内部へと入って行く。
シンシア支部の内部はこれまでの連合政府系施設とよく似ていた。銀色の壁や床が広がり、天井や床の隅っこに白色の明かりが灯っている。殺風景な廊下が続く。
「パトラー! バトル=メシェディだ!」
クラスタが指差す。黒い長身をした機械の兵士。フランツーシティにもいた機械兵の上位機種だ。柔軟な動きと機敏な動きを得意とする機械兵。
私は先手を打ってサブマシンガンで発砲する。4体いる内の1体が銃弾の雨を喰らって倒れる。更に、ミュートが金属製のボウガン(弓状の武器)を使って、魔法アロー(矢)を飛ばす。それは正確にバトル=メシェディの首を貫く。
[…………! 攻撃セヨ!]
[破壊セヨ!]
残りの2体がこっちに向かって来る。クラスタはスタンロッド型をした魔法発生装置を振る。私とミュート、クラスタに物理シールドが張られる。シールドを張ってないと、銃弾1発でやられちゃうことだってある。
バトル=メシェディ2体がアサルトライフルの銃口をコッチに向け、射撃する。何十発もの銃弾が飛んでくる。私はデュランダルと呼ばれる剣を引き抜き、バトル=メシェディの1体に斬りかかる。
「喰らえっ!」
剣を横に振り、胴体部分を斬り壊そうとする。だが、バトル=メシェディは足をついたまま大きく体を後ろに倒し、攻撃を避ける。そして、素早く元に戻ると、至近距離で発砲する。胸やお腹に銃弾が当たる。痛みが走る。
「クッ!」
次は斜めに剣を振りおろす。今度は避けられなかった。バトル=メシェディは右肩から左の脇腹にかけて斬られ、上半身部分が床に落ち、機能を停止する。
一方、もう1体のバトル=メシェディはミュートの方に向かっていた。彼女は半透明をした紫色の魔法アローを放つ。
だが、バトル=メシェディは空中にジャンプし、更に人間では不可能な程にまで体を丸め、ぐるぐると回転しながら、近寄ってくる。地面に着く直前に元の体制に戻り、上手く着地すると、アサルトライフルの銃口をミュートに向け、走る。
「…………ッ!」
ミュートはもう一度魔法アローを放つ。だが、それも当たらずに同じような動きで避けてしまう。どうにも、バトル=メシェディに飛び攻撃は通用しないようだ。
バトル=メシェディはミュートの顔を蹴り、彼女を床に倒す。そして、彼女に乗りかかると、その肩にアサルトライフルの銃口を押し当てる。あの距離で発砲されたら、大きなダメージになる……!
[破壊セヨ!]
発砲される直前、その首がハネられる。ハネたのは剣を握り締めたクラスタだった。そうだ、元々彼女は連合政府七将軍の1人。その時は剣を使っていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがと!」
ミュートがクラスタに礼を言っている時だった。別方向から何かが走って来る。私がそっちの方向を見た時だった。黒い人型の魔物が飛んできていた。
「うわっ!」
人型のトカゲのような生き物は鋭い爪で私の喉を狙っていた。私は素早くデュランダルを投げ付ける。それは魔物の頭に突き刺さって息絶える。息絶えた魔物は私のすぐ側に落ちて来る。翼や羽がないのを見ると、ジャンプしてきたようだ。
「生物兵器アサシンか……」
「アサシン?」
私は剣を引き抜きながらクラスタの方を向く。元、連合政府の将軍。何か知っているのかも。少なくとも、私はアサシンという生物兵器の名を聞いた事がなかった。
「俊敏な動きをする小型生物兵器。私がいた事は立案がされる程度だったが、実戦投入まで実現したのか。……コマンダー・ウォールのヤツ、まともな神経をしていないな。仮にも自分と同じ姿をしたクローン。アサシンやイェーガーはそれを使って――」
「…………?」
「いや、いい。行こう」
クラスタの意味深なセリフ。それが私の頭に引っかかる。最後まで言わなかったところをみると、言いたくないのか、聞かせたくないのかのどっちかだと思うケド……
私は血を撒き散らして死んだアサシンの不気味な死体を見つつ、その場を後にする。何も敵はコイツらだけじゃないんだ。早いとこトワイラルを連れて、小型飛空艇を奪って逃げよう。
「ねぇ、コマンダー・ウォールってどんなクローン?」
私はシンシア支部を進みながらクラスタに言った。
「コマンダー・ウォールは元々、私の兵団にいた。1年前、コマンダー・ヒュノプス――今のキャプテン・フィルドがまだ少将だった頃、コマンダー・ウォールもまた少将だった。コマンダー・ヒュノプスは指揮官として有能だったから“キャプテン”の名が与えられた」
へぇ、そうなんだ…… ってキャプテン・フィルドはコマンダー・ヒュノプスって名前だったんだ。初めて知ったな……
「当時からコマンダー・ウォールの残虐は度を越していた。特に同じクローンに対しては酷かった。その残虐さもあったが、ある事件で遂に彼女は失脚。その後、オーディンに拾われた」
「ある事件?」
「…………」
クラスタは何も言わなかった。黙ったまま、スタンロッド型の魔法発生装置を握り締めて歩く。ミュートは不安そうな顔だった。たぶん、そのコマンダー・ウォールが管理する施設にトワイラルが捕まっているからだろう。
「大丈夫」
「えっ……?」
「絶対、トワイラルを助けて帰ろう」
「……うん!」
ミュートは力強く頷く。でも、クラスタは険しい表情のままだった。




