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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 人の妖 ――政府首都グリードシティ――
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第18話 俺を無駄にしないでくれ!

 【元老院議事堂 廊下】


 ライト副議長を送った後、私もまた自分のオフィスへと向かっていた。だが、その足取りは重かった。いつもならさっさと戻るのに、今日はなかなか進まない。

 夜の元老院議事堂。人はもう少ない。所々に議員や補佐官、官僚、衛兵がいるだけ。あの中のどれだけの人間が財閥連合と取り引きしているのだろうか? 国際政府はもう完全に壊れてしまったのだろうか……?


「ピューリタン……」

「……ミュート」


 廊下の角っこから栗色の短い髪の毛をした1人の少女が歩み寄ってくる。私の補佐官にして弟子のミュートだ。

 今捕まっているトワイラルだって私の補佐官にして弟子だ。彼が連合政府に捕まったのは……私のせいだ。私のミスで彼は捕まった。


「本当にパトラー将軍をシンシアに送り込むの……?」

「…………」


 私は無言で頷く。私は、私のせいで捕まった大切な弟子を取り戻す為に、私の友人をシンシアに向かわせる。私と財閥連合議員で軍や元老院議会の妨害や反対を防ぐ。もし、失敗すれば、連合政府はトワイラルを処刑する。


「分かった。私もパトラー将軍と一緒にシンシアに行くよ。トワイラルを絶対に連れて帰る」

「……ごめん、ミュート……っ」


 私は逃げるようにして、ミュートの前から去る。本当は私が行きたかった。いや、行くべきだった。なのに、財閥連合議員は、連合政府はパトラーがシンシアに来なかったら、トワイラルを殺すと言う。私がパトラーと一緒に行けば、軍がシンシアに攻め込めば、彼は殺される。

 連合政府と財閥連合の狙いは分かっていた。パトラーだ。パトラーをおびき寄せ、捕えるつもりなんだ。その邪魔になる戦力を共に向かわせてはならない。


 私は扉を開け、自分のオフィスに入る。そして、ロックをかける。まるで逃げるようにして…… ロックをかけると、勢いよくベッドに転がり込む。剣を引き抜き、その刃を睨むようにして見つめる。

 もし、パトラーがシンシアで殺されたら…… グランを、トーテムを、ヴェブを、ナードを、ディルメンを……殺す。あの5人をこの剣で殺し、私も――……



































































 ――SC 2013年8月29日(約2ヶ月前) 【サフェルト海 上空】


 あの日は雨の日だった。たまたま出くわした連合軍と空戦になった。敵は軍艦3隻。私たちは中型飛空艇3隻。ほぼ互角だった。

 だが、その内、連合軍は私を捕えようと、私たちの飛空艇に乗り込んできた。


「ピューリタン、敵の指揮官はバトル=オーディンだ!」

「そうか、乗り込んできたのならそりゃラッキーっ! こっちが捕まえるぞ!」


 私とミュート、トワイラルはバトル=オーディンが乗り込んできたという小型飛空艇格納庫へと急いだ。それが、悲劇を招いた。


[ハハハッ、さぁ来い!]


 6本の腕で6本の剣を使うバトル=オーディン。連合軍の将軍。機械兵の親玉。黒いその身体は見る者を恐れさせる。彼の戦い方は狂乱そのもの。6本の剣で相手を切り刻む。

 私は、ミュートは、トワイラルは彼に挑んだ。彼を捕えれば、連合軍に計り知れないダメージを与えられるのだ。

 だが、――


[おっと!]


 戦いの果て、バトル=オーディンの腕を斬り落とし、その首に剣を付きつけた。その時だった。


[やるではないか! お前たち、コイツを殺せ!]


 バトル=オーディンの後ろから現れた数人の女性たち。連合政府が使うクローン兵のように見えた。だが、少し違った。彼女たちは赤い装甲服を着て、背中のジェット機を使い、空中を飛んでいた。その腕は銃口が2つあるツイン・ブラスターのようになっていた。


「…………!?」


 機械音と共に彼女たちはツイン・ブラスターをコッチに向ける。……そこから先は思い出したくもない敗北だった。


「ピューリタンっ!」

「えっ?」


 連続する爆音と悲鳴。床が砕け、爆発が起こり、兵士が次々と吹き飛ばされていく。激しい攻撃。それが嵐のように飛んでくる。

 私は攻撃で吹き飛ばされ、頭を強く打った。血が滴り落ちる。周りには部下の死体が無数に転がっていた。血と瓦礫のニオイ。飛空艇格納庫は爆炎に包まれていた。


[ハハハッ、どうだ? 降参するか? 泣きながら土下座すれば仲間にしてやってもよいぞ?]

「クッ…… 誰がお前なんかに! お前よりも部下の方が強いんじゃないか!?」

[んだと!? このバカ女をスクラップにしろ! 死体はパトラーのオフィスに送ってやろうではないか!]


 死を覚悟した時、煙の中からトワイラルが突っ込んできた。両手に握られた2振りの剣で、側にいたツイン・ブラスターのクローンを斬り倒す。その時、私の体が誰かに持ち上げられる。ミュートだった。彼女は私を背負い、近くのガンシップまで走る。ガンシップには生き残った数人の兵士が乗り込んでいた。


「大丈夫!?」

「あ、ああ…… ト、トワイラルは?」


 私はさっきまでいた所に目をやる。彼はバトル=オーディンと戦っていた。そんな彼の元に集まるバトル=メシェディ。


「トワイラル!」

「……行け!」

「…………!?」

[ええい、そうはさせるか! ピューリタンを捕え、他の乗員を殺せ!]

[イエッサー!]


 一部のバトル=メシェディがコッチに向かって走り出す。私は剣を引き抜き、戦おうとした。だが、動いた瞬間、身体に痛みが走る。


「もう戦えないんだろ!? ここで全員捕まって殺されるよりかはマシだ! 俺を無駄にしないでくれ!」

「そ、そんな……!」

[黙れ! 黙れ! 黙れ!]

「行ってくれッ!」

「…………ッ!」


 そして、私はトワイラルを見捨てた。生き残った部下と共に飛空艇を脱出した。結果、私とミュートは生き延び、トワイラルはバトル=オーディンに捕まった。


 ……なのに、私は彼を助けに行けない。それどころか、敵の作戦を担ぎ、友人のパトラーをシンシアに向かわせようとしている。私に、軍人の資格も、パトラーの友でいる資格も、部下の上に立つ資格も、――ない。


 私は、シンシアからパトラーとミュートとトワイラルが無事に帰って来たら――













































































 もう、軍人を辞めよう――

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