第16話 “また”単独乗り込み作戦?
【首都グリードシティ 元老院議事堂 パトラー専用オフィス】
私とクラスタは私の専用オフィスへと戻る。
政府首都にある元老院議事堂は何も元老院議会場やその他公的機関だけがあるワケじゃない。広大な敷地面積を有し、100階以上もあるこの建物には、元老院議員や代議員、高位軍人のオフィスもある。オフィスと自宅を兼用にしている人がほとんど。私も、私のお父さんも自宅とオフィスが一緒になっていた。
「おかえり、パトラー」
ケイレイトがイスから立ち上がって言う。ケイレイトとは闘技場からずっと一緒だ。表向き連合政府の捕虜として私の管理下、軟禁状態にある。
「シンシア支部の件はどうなったの?」
私は首を横に振る。
「……否決か」
シンシア支部攻撃の案はもう出せそうにない。クェリアを始め、多くの将軍・元老院議員が反対だ。……確かに理に叶ってると言えば叶ってるんだけどね。
シンシア支部はバトル=オーディンが管理する島だ。ケイレイトが管理しているワケじゃないから、彼女ではどうしようも出来ない。
「戦争が活発化してきているから兵団が出払っている。兵の数が足りない」
クラスタがコップに水を注ぎながら言う。
フランツーの戦い前後から戦争は再び活発化。ほとんどの将兵が首都から出撃し、大陸各地に散らばっている。今、首都にいるのは2、5、11、12の4兵団だけだ。
兵が足りない。……兵が足りないのなら……
「少数でも……トワイラルは助けられる」
「……“また”単独乗り込み作戦?」
「もちろん」
私はやや笑みを浮かべながら頷く。これまで何度も1人で乗り込んできた(中には複数で乗り込んだこともあるケド)。今度もその作戦になりそうだ。
「でも、どうやって封鎖艦隊を突破する? シンシアは軍艦の艦隊で封鎖されている」
「……えっと」
クラスタからの鋭い指摘。そうだ。そこまで考えてはいなかった。シンシア支部は司令艦を旗艦に、コア・シップ5隻、軍艦15隻で封鎖されている。しかも指揮を執るのは九騎の1人、ログリム。
「私がなんとかするよ」
「…………!」
そう言ったのはケイレイト。そうだ、彼女は連合軍の将軍。彼女となら上手く封鎖艦隊を突破できるかも知れない。
「ケイレイトを使う、か。でも、ログリムになんて言うんだ? “私はケイレイトだ。トワイラルを解放する為に来た。通せ”と言ったところで裏切り者として海に沈められるのがオチだと思うが?」
「も、もちろん、そうだけど…… えっと、なんて言おう……?」
クラスタがため息をつく。やれやれ、と言いたげな顔だ。
「……クラスタ、何か作戦ある?」
「もちろん」
クラスタは得意げに言う。彼女は元々、連合軍の将軍(この部屋には元含めて連合軍将軍が2人も……)。かつては天才的な戦術で国際政府を追い詰めていた。
「ケイレイトが捕えられたことは連合軍ではもう知られ渡っているハズ。だから、それを利用しよう。まず、――」
◆◇◆
【元老院議事堂 グラン・オフィス】
俺たちは元老院議員グランのオフィスに集まっていた。彼も俺も財閥連合という巨大企業選出の議員だ。コマンド総督を支える縁の下の力持ちってとこよ。
黒髪をした爽やかな男性が部屋に入ってくる。グランだ。コイツは考える事がエグイ。以前は密かに首都市街地を爆破し、首都に危機感を募らせ、軍事予算案追加案を可決させたことがある。
「みなさん、お待たせしました。いやぁ、申し訳ない。コマンド総督からのメッセージがやっと届きましたよ」
「ほぅ、やっとか」
窓側のイスに座るグラン。俺とディルメン、ナード、ヴェブの4人は窓側にあるイスに座った彼の方を向く。
グランが机のコンピューターを操作する。すると、青色の立体映像が机に映し出される。映っているのはコマンド総督だ。
[財閥連合から選ばれた者達よ、バトル=オーディンとログリムからの依頼だ]
バトル=オーディンとログリムか。あの2人はパトラーの首を欲していたな。まぁ、それはコマンド総督や我らも同じだ。我らは何度もパトラーに煮え湯を飲まされてきた。
[トワイラルを餌にパトラーをシンシアに向かわせよ。彼女の側にはクラスタもいる。必ずや彼女たちは疑われない方法でシンシアに到達できる。だが、シンシアに行ったが最後、ログリムはパトラーを捕えるだろう。そして、彼女たちは拷問され、我らの怨みをその身に刻む]
グランがニヤリと笑う。俺もニヤけそうになった。あのパトラーが我らの策で、痛い目を見るのか。それはなんとも愉快な話……
[シンシア支部攻撃には反対せよ。分かるな? パトラーとクラスタだけをシンシアに向かわせるのだ。見えない形でそれをサポートするのがオーディンからの依頼だ。成功すれば、莫大な報酬金が支払われる。絶対にしくじるな……]
そう言うと、コマンドの立体映像は消える。メッセージはこれで終わりのようだ。これは愉快な話だ。パトラーが死ぬほど辛い目に合う。泣きながら我らへの怨みと許しを叫ぶかもな。そして、オーディンが莫大な報酬金を……
「トワイラルを使って娘をシンシアに送り込む気か。それは国際政府元老院副議長として、パトラーの親として、見逃せないな。財閥連合選出議員にして連合政府のスパイたちよ」
「…………!?」
我らは一斉に後ろを振り返る。このオフィスの出入り口にいたのは……パトラーの親にして元老院副議長のライト=オイジュスだった。




