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黒い夢と白い夢Ⅲ ――攻撃の科学――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 人の妖 ――政府首都グリードシティ――
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第15話 賛成多数により、本案を可決とする

 混沌の世界は、なにも戦場だけではない。


 いや、むしう、本当の混沌は、“そこ”にある。


 ――世界の、全ての中心地。


 腐敗と汚職の元老院議会。


 そこにある混沌は、もっとも醜いものだろう――






















































































 【政府首都グリードシティ 元老院議事堂】


 私は唇を噛みしめながら元老院議会場から出ていく。


「おっ、あの子は……」

「政府特殊軍ピューリタン将軍の、――」


 元老院議員やその補佐官、衛兵が私の方を見て、ヒソヒソと何かを話し始める。クッ……

 ここにいる人たちの多くが、どれだけ私の出した議題に対し、真摯に向き合っているだろうか? いや、どれだけの人が賛成してくれているだろうか? ――ほとんどいないよね。


「おお、君は“ミュート准将”じゃないかね、フフッ」

「……財閥連合のトーテム議員じゃないですか」


 黒色のスーツを着た男が私に話しかけてくる。彼の後ろには2人の財閥連合グランド・ガード。彼らもスーツを着ているけどガードマン。その身体能力は政府軍人に匹敵する。


「ご戦友が捕まったことはもちろん知っていますぞ。生きていることを願いたいですが、すでに1ヶ月。希望は――」

「そうですね」


 私はテーテムの話を途中で遮り、さっさとその場から離れる。財閥連合選出の元老院議員。連合政府の母体企業選出議員のクセに!

 1ヶ月前、フランツーシティの戦いが起きる直前、私の友達は連合軍に捕まった。今、フランツーシティ西海岸の先にある監獄島シンシア支部に収監されている。

 シンシア支部の施設長官はコマンダー・ウォールという女クローンらしい。サドスティックな性格で、以前、クローン兵の1人を鞭で打ち殺したことがあるらしい。

 その結果、彼女はクローン部隊の親玉であるキャプテン・フィルドに捨てられた。ところが、その事件を気に入ったバトル=オーディンに拾われ、今やコマンダーとなってシンシア支部を任されていた。


「――トワイラル……」


 彼が捕まって1ヶ月…… トワイラルは准将だった。准将1人の為に、警備の厚いシンシア支部への攻撃は出来ない。それが、元老院議会の意向だった。



◆◇◆



 【首都グリードシティ 元老院議会 議場】


[賛成多数により、本案を可決とする――]


 元老院議会場に拍手が巻き起こる。クェリアの提議した軍事予算追加案が可決した。サラマシティの人々を虐殺したあの女の案が通った。

 一方、国際政府特殊軍将軍のピューリタンが出したシンシア支部攻撃案は否決した。シンシア支部への攻撃。捕えられたトワイラルの救出。それは否決された。


「……私でも反対に1票だな」


 私の側にいたクラスタが言う。彼女は元々、連合軍の将軍。シンシア支部についてもそこそこ知っていた。

 クラスタによると、シンシア支部は監獄要塞らしい。司令艦、軍艦、コア・シップによって島は包囲され、厳重に守られている。簡単には侵入できない。


「……トワイラルだって一生懸命戦ってきたのに」

「それは私だって認めるさ。でも、シンシア支部への攻撃で、1人が助かっても、1000人の将兵が死ぬ」

「合理的じゃないから助けないんだ?」

「それが元老院議会の考えなんだろうな」


 私とクラスタはそんな事を話しながら元老議会場から出て行く。他の元老院議員たちも次々と退出していく。みんな、合理的に判断したのだろう。トワイラル1人を助けるのは、コスパが合わないって。



◆◇◆



 【首都グリードシティ 元老院議事堂 廊下】


 わたしは赤いじゅうたんが敷かれた廊下を歩く。辺りには多くの元老院議員や代議員、親衛兵や親衛騎士たちがいる。


「ライト=オイジュス副議長、お疲れ様でした」


 白銀の髪の毛をし、青い装甲服に身を包む1人の女性が私に声をかけてくる。軍事予算案追加法案を出したクェリア将軍だ。

 国際政府特殊軍将軍という地位は、就任と共に元老院議員にもなる。つまり、元老院議会で案を出したり、案に対して賛成・反対の票を投じる事も出来る。

 元老院議員は、自分の2名の代議員(=補佐官)を任命できる。パトラーはクロノスとクラスタを任命していた。ピューリタン将軍はトワイラルとミュート。クェリアも2人の部下を代議員に任命している。


「戦況はどうですか?」

「あまり良いとは言えませんね。レーフェンス州がキャプテン・フィルドの軍勢によって陥落。更にファンタジア州、クロント州を支配するサファティの軍勢がプレリア州の南半分を制圧。我らは再び大陸南部を奪われかねません」


 クェリア将軍はその後も各地の“よろしくない戦況”を話し続ける。わたしの賛成票を得たいのだろう。わたしは副議長。わたしが軍に回すおカネを増やそう、と言えばそれは議員の多くが同調する。その逆も然り。


「シンシア支部攻撃はどう思いますか?」

「……わたしは否決も已む得ないし、かと思いますが……」


 シンシア支部の防衛は厳重だ。数万の兵を送り込まねば勝ち目はない。だが、勝ったところで海の孤島と、捕まったトワイラル准将しか手に入らない。……効果が少ない。1人と、なにもない島の為に多くの兵士に死ねとは到底言えない。

 娘とピューリタン将軍はシンシア支部攻撃を熱望している。その気持ちは痛いほど分かるのだが…… ……トワイラル准将が生きている保証すらもう少ない。


「では、私はこの辺りで失礼いたします」


 そう言うと、クェリア将軍は去って行く。……シンシア支部攻撃は反対票を投じた。だが、それと同時に彼女の軍事予算案追加にも反対票を投じた。軍事費を無暗に増やせば勝てるワケではない。我々の使命は戦争の集結、平和と自由の再生であって、戦争に勝つ事ではない。

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