第13話 私の部下なんだ!
「クェリア将軍、一部の賞金稼ぎは逃げましたが、生き残りは全て殺害しました」
「メディデントとコマンドはどうした?」
「すでに逃げ去ったとの報告があります」
「そうか…… 残りはクディラスに任せ、我らは撤収するぞ。部下を乗艦させよ」
「イエッサー!」
命令を承けているのはクェリアの副官カーコリア中将だ。彼は白色のガンシップに乗り込むと去って行く。残りの兵士たちも次々とガンシップに乗り込んでいく。
[――こちら、B区間。敵国民、傭兵共は1人残らず死亡]
「よくやった。サラマシティ北部上空に私の旗艦がある。そこに部下を集めよ」
[イエッサー]
私とケイレイト、クェリアを乗せたガンシップも浮上する。私もケイレイトも手錠をハメられ、何も出来ない。下手なことをすれば斬り殺されかねない。
サラマシティが遠くなっていく。市内からはたくさんの煙と炎が上がっていた。そこから飛んでくる白色に緑のラインが入ったガンシップ。
クェリア率いる第12兵団のシンボルカラーは緑だ。第12兵団の兵力は10万人ほど。私の第11兵団の20万よりも少ない(第11兵団のみんな大丈夫かな……? フランツーに置いてきちゃったけど)。
第12兵団は少数精鋭の部隊だ。これまでにも何度も勝ってきている。勝率だけで言えば全兵団の中でもトップクラスだ。……戦い方は最低だけど。
「こちら、クェリア。これより全部隊撤収する。格納エリアの扉を開けよ」
[イエッサー]
サラマシティの上空に浮かぶ巨大な大型飛空艇プローフィビ。無数の窓ガラスから見える光は、空の星のようにも見えた。飛空艇全体から見れば、とても小さなハッチ(扉)も、私たちから見れば大きいものだ。
「降りろ」
私とケイレイトはクェリアに半ば無理やり降ろされる。銀色の目立つ飛空艇内を進み、エレベーターや長い廊下を歩き、やがてこの飛空艇の最高司令室に入る。
「ランディ、部下の乗艦は完了したか?」
「はい、クェリア将軍。降下させた第12兵団の兵員3万3000名、撤収しました」
「よし、直ちに首都グリードシティに向かえ」
「イエッサー!」
しばらくすると、飛空艇が動き出す。窓から外を見ると中型飛空艇2隻がこの飛空艇のすぐ左側を飛んでいた。たぶん、右側にも2隻、飛んでいるのだろう。合計で4隻の中型飛空艇が……
「私たち、どうなるんだろう……」
ケイレイトがか細い声で言う。無理もない。クェリアといえば残虐非道で名の通った将軍だ。血将のクェリアとまでいわれるほどなのだから……
「以前のように……“あの子”が助けに来るってことは?」
実は数ヶ月前もケイレイトは政府軍に捕まった。その時はクォット将軍率いる第1兵団とピューリタンが率いる第10兵団が彼女を護送した。でも、その途中でクナっていうフィルドさんのクローンが彼女を助け出し、護送は失敗に終わった。
「……たぶん、来ないと思う。クナはアレイシア本部にいるから……」
ケイレイトは力ない声で言う。アレイシア本部は確かに遠い。サラマシティの遥か南にある。
「私、拷問されるのかな…… 怖い、イヤだ……」
怯えるケイレイト。彼女はそっと私に抱き着いてくる。その身体は震えていた。拷問は酷い。私もなんとかケイレイトは助けて上げたかった。……とは言っても、私も捕まっているのだから、どうしようもない。
「拷問がイヤなら、知ってる事、全部吐けばいいだろう?」
最高司令席に座っていたクェリアが顔を少しだけ後ろに向け、私たちに言う。……確かにそりゃそうだけど……
「本物のフィルドはどこにいる?」
「…………!」
ケイレイトは一瞬ビクッと身体を震わせるが、そのまま黙り込んでしまう。……ってケイレイトはフィルドさんの居場所を知っているのか!? 本物のフィルドさんの居場所。それは私の方が知りたかった。
その時、飛空艇内に警報が鳴り響く。えっ? な、なに!? まさか本当にクナが!?
私は最高司令室の窓から薄らと明るくなり始めている外を見る。1隻の大型飛空艇が飛んできていた。ただ、アレは政府軍の飛空艇だ。
「な、なんだコイツら!? どこの部隊だ!?」
「この艦隊、第11兵団です! ……パトラー将軍率いる軍勢です!」
えっ?
「パトラーだと? そいつは今ここにいるだろう?」
クェリアがこっちを睨みながら言う。うん、それは間違いない。クロノスも死んで誰も指揮官不在なのになぜ私の部隊が……?
「公務執行妨害だ。攻撃だ。撃墜しろ」
「…………!? ふざけるな、クェリア!」
私は手錠をハメられたまま、クェリアに飛びかかる。だが、その前にカーコリアに押し倒される。コイツ、邪魔だっ!
第12兵団の大型飛空艇1隻と中型飛空艇4隻が進んでいく。第11兵団の飛空艇は大型1隻しかない。しかも指揮官不在。勝敗はもう付いている。
「撃ち方用意っ!」
「や、やめて! 撃たないでっ! 私の部下なんだ!」
「連中はもはや国際政府軍ではない。ただの反乱軍――敵だ」
クェリアは冷たく言い放つと、再び前を向く。だいぶ飛空艇に接近していた。至近距離で撃てばシールドを張っていても、長くはもたない。たちまち破壊され、墜落する……!
「一斉砲撃――」
「やめてぇっ!」
「クェリア将軍ッ!」
操縦席の士官が突然、叫ぶ。クェリアが命令を出す直前だった。
「どうした?」
「右から2隻の中型飛空艇が現れました! 所属は同じく第11兵団です!」
「…………!?」
「将軍! 左からも中型2隻が現れました!」
「後ろから大型1隻、中型2隻! 前方から中型2隻! 合計で大型2隻、中型8隻の艦隊です! いずれも第11兵団所属の部隊です!」
え、えっ!? フランツーにおいてきたのは大型1隻、中型4隻。なのに、ここにいる軍勢はそれを上回っていた。
「そんなバカな! フランツーの第11兵団がここに来たのか!?」
「いえ、フランツーシティの軍勢に特に動きはありませんでしたが……」
「クェリア将軍、通信が入っていますが……」
「……繋げろ」
最高司令室の中心に設置された台のような立体映像投影機から青色をした立体映像が映し出される。そこに映し出されたのは、1人の女性だった。
「第12兵団のクェリアだ」
[どうも、クェリア将軍。私は第11兵団所属のクラスタ]
クラスタ……! 彼女はクロノスと同じく私の副官だった。でも、彼女は首都グリードシティにいたハズ。それがなぜここに……?
「そのクラスタが何用でここに?」
[私たちの指揮官とケイレイトを引き取りに来た]
「……パトラーとケイレイトを? どこの誰の命令でやっている?」
クェリアは額に汗を滲ませながら言う。例え、クラスタが誰の命令でやっていなくても、危機的状況に変わりはない。包囲された12兵団の艦隊。勝ち目はない。
[政府元老院の命令だ。ケイレイトの護送を命じられている]
「…………。……いいだろう」
クェリアは悔しそうな表情を浮かべながら言うと、通信を一方的に切る。そして、拳を握りしめながら言った。
「カーコリア、その女2人を11兵団に引き渡せ」
「しかし……」
「命令だ」
「イ、イエッサー」




