僕が好きな人
「告白されたんだって!?」
放課後、隣のクラスの深雪は僕の教室に駆け込んでくるなり、大声でそう言った。僕は周りに聞こえていないか気にしながら人差し指をたてるジェスチャーをする。
「付き合っちゃえばいいじゃない」
ほんの少しトーンを落として、深雪は言う。
「んな、他人事な」
とっさにそう答えた。僕は、深雪の言葉をどう否定しようか迷った。あの子のことを悪く言いたくはない。実際とてもいい子なのだ。だけど付き合えない。僕は他に付き合いたい人がいるからだ。思うのに、答えることはできなかった。
「他人事なんかじゃない」
とっさの一言が墓穴を掘って、深雪の笑顔が消えた。その真剣な目からは確かに、その言葉通りの思いが伝わってきた。それでも僕は。
「付き合えないよ」
僕は、深雪が僕の真意に気付いてくれるように期待しつつ、その大きくて黒い瞳をちらりと見た。
「相手が中学生だから? 年なんか関係ないよ。それにたった三歳差でしょ。なんの問題があるって言うの?」
ああ、通じていない。昔からこの幼馴染は、鈍感なところがあるのだ。あの子もまたそうだ。僕が深雪を好きなことを察してくれればいいのに。
本当は、僕が今ここで深雪を好きなのだと、直接言えたならいいのだけど。それができない。できなくて、心がすれ違ってしまう。
実際この話で深雪の機嫌を損ねてしまっている。僕は何より深雪の笑顔が見たいのに。
「深雪は僕のことが嫌いなのか?」
ふと尋ねてみた。きっと、深雪は否定するだろうと思う。そうしてほしいと願った。まだ記憶のないような小さい頃からの幼馴染と、未だにこうして一緒にいるのは、嫌われてはいない証拠なのだと思う。
「そんなことあるわけないでしょ」
僕は心底ほっとする。こんなふうに深雪に直接気持ちを問うのは初めてで、嫌われていないだろうと言うのも、僕の勝手な推測で自分自身に言い聞かせていただけだった。
「私のものにしたいくらい大好き!」
僕は前身の血液が顔に集まるのを感じた。これは、予想外の答えだ。今なら言えるかもしれない。ずっと言えなかった言葉を。幼馴染という関係に甘えて、越えられなかった一線を今なら越えられる気がする。
「なら」
僕と付き合ってくれないか?と言おうとすると、間髪入れず深雪は続けた。
「だから、なおさらあの子と付き合ってほしいの」
満面の笑みで言う。僕の見たかった笑顔で、そんな残酷なことを。
「だって、そうしたら将来……」
そこまで言って、深雪はドアの音に振り向く。
「青木先輩、一緒帰りましょう?」
語尾にハートをつけて、あの子が入ってきた。中学生は普通怖がって、高校生の校舎には入ってこないのだけど、この子はクラスにまで入ってくる。周りをあまり気にしていないのだ。
クラスメイトたちは、その美少女に注目した。そして数人は妬むような目で僕を見た。
ああ神様、僕はこのもう一人の幼馴染、つまり深雪の妹と付き合わなければいけないのでしょうか。