とあるお家の侍女たち見守り隊
「エルビー、はい口を開けて」
そう言って、うちの若様は若奥様の口に甘味を放り込んだ。
たしか、キャラメルというお菓子だったはずだ。
「また若様が餌付けしているわ」
遠く離れないところで待機している私たち侍女は、口元を一切動かさずに小声で話すという主人にバレない仕方で生温い空気の会話を始めた。
もちろん、侍女なのだから顔は笑顔をキープしている。
「あれで仲良くなれると思っているのだから、仕方ないわよ」
「あの手は、妹君に使っていた手でしょ」
「その妹様ももう7歳。餌付けでは通じなくなっているのにね」
「若様に女性の扱いの教育をさせた家庭教師、ハズレじゃない?」
「口が過ぎているわよ」
ここまでの私たち侍女の会話すべてが、口が過ぎているのだが、私らとて私たちの可愛い若奥様が困っているのだから、なんとかしたい気持ちがかろうじて上回っている。
それ以外は、「若様もっと頑張れよ…!(侍女の総意)」の気持ちで構成されているが。
今日も私たちの可愛い若奥様が困った顔して笑っているのを、ここから見守っている。
日傘差し役の侍女が羨ましい限りである。
たしかに、あのキャラメルというお菓子は、ここ最近で口に放り込まれた中で若奥様であるエルビー様がいちばん興味を示したお菓子だ。
その点は、若様を褒めよう。
だからって、毎日放り込まれるエルビー様の身にもなってほしいものである。
あと、レディーの口にものは放り込まないでほしい。
私たちがお仕えしているこの家の跡取りである若様は、脳筋真っ直ぐ武闘派の実力騎士であるが、女性に疎くて大変な目に遭った過去もあるので、若奥様との距離感を掴みあぐねているのだと、私たちもわかっている。
わかっているが、もう少しなんとかならないものだろうか…!?
若奥様のエルビー様は、この家待望の後妻なのだ。
若様が優秀な騎士として戦に駆り出されている間に不貞を働いた前妻様を追い出して、お家総出で見つけ出した可憐で優しすぎるお嬢さんだ。
若様と前妻様との間には子など授かる前に戦に出てしまったのもあって、若様と若奥様は年がそこそこ離れている。
それもあって、妹君のように接する他ないのかもしれない。
戦から帰ってきたら、妻が誰の子かもわからない若様とは似ても似つかない子を産み落としていたのだ。
もしかしたら、私たちにはわからないだけで、若様も前妻様のトラウマを抱えていて、エルビー様を妹扱いする方が楽なのかもしれない。
だからって、このままでいてもらうわけにもいかない…!
若様にも若奥様にもプレッシャーを与えるようで申し訳ないが、この家は次世代の跡取りを待っている。
何もないままではいられない。
というか、ぶっちゃけ、なんであんなに可愛い若奥様が間近にいるのに、1人の女性として見ないのか不思議でならない!
可愛いだろうが、エルビー様はっ!!!!
何が気に入らないんだ!!!!
若様の意気地なしっ!!
…ごほんごほん、今のは侍女の総意じゃないかもしれない。
みんなもう少し優しい目で見守っている気がしないでもない。
私は早く気持ちを掴まえておかないと、二の舞になりません?派閥だから、ちょーーーっと過激なだけよ。
あと、エルビー様が可愛いので、エルビー様を困らせないでほしい。
これだけなのだけれどね。
「ああ、ほら。エルビー様が優しく微笑んでいるわよ、可愛らしい」
「年上で勇敢な旦那様として、慕ってくださっているのにぃ…」
「あの距離感のままでは、本当に兄になってしまうわよ…」
「そうなったらおしまいじゃない…」
今日も駄目かと意気消沈しかけた時、甲高い声が庭に響いた。
「あーーーーー!!!!お兄様、何しているの!?」
我が家のちょっぴり我儘天使、妹のお嬢様の登場だった。
「もう!エルビーお義姉様のエスコートをちゃんとしてよっ!お義姉様は、わたしのお家に来てくれた大事なプリンセスなのよ!」
「いや、あのなぁ」
「お義姉様がプリンセスなんだから、お兄様は王子様なのよ!?ちゃんとしてよ!」
果敢に2人の間に入っていったかと思うと、若様とエルビー様の手をグッと引っ張って、そのままなんと繋がせたのだった。
見守っていた私たちは、自然と息を呑んでいた。
ナイス…!ナイスです、お嬢様っ!!!
この場にいた使用人全員が職務を忘れて、拍手しそうだった。
偉業です、お嬢様…!最高です!!!
そのお嬢様は満足そうに、ふんっと頷いた。
「こんなに可愛いエルビーお義姉様の王子様なんだから、お兄様はいっぱい可愛いって褒めるのよ?わかった?」
お嬢様、救世主ですか…!
ありがとうございます!!
なんの絵本か劇に影響されているかわかりませんが、ナイスですうううう!!!!
我らが可愛い若奥様ははにかみながら、若様を見上げていた。
「ふふふ、なんか恋人みたいで嬉しいです」
はいーーーーー!!!!うちの若奥様可愛いーーーーー!!!!
エルビー様の侍女でよかった〜〜〜〜!!
私たち侍女は、心の中でガッツポーズをしたのだった。
若様、照れて悶えている場合ではありません。
早く、何か答えてください。
あああ、もう〜〜〜〜!!!!
それでも若様はそのあとも手を離すとこなくエスコートしていたので、とりあえず及第点だろうか。
2人の進展はまだまだ先になりそうだが、いい方向に向かっていると私たち侍女は信じておりますよ。
はああ〜〜、今日もエルビー様可愛い〜。
了
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