みかん婚約破棄
王子は、リリアの皿を見た。
「おまえ、みかんの白い皮をむかないのだな」
「はい。面倒なので」
舞踏会が静まり返った。
王子は、勝ち誇った顔で言った。
「婚約破棄だ」
理由がくだらなすぎて、誰も止めなかった。
リリアは、手の中のみかんを見た。
白い皮をむかない。
ただそれだけで、捨てられるらしい。
なら、もういい。
「うざ」
リリアは、みかんを外皮ごと噛んだ。
ばりっ。
会場に悲鳴が上がった。
「白い皮どころか、外の皮まで!?」
「なんという悪役令嬢……!」
王子が青ざめた。
「おまえ、自分が何をしているのかわかっているのか!」
「はい。みかんを食べています」
「皮ごとだぞ!」
「悪役令嬢なので」
そのとき、隣国の皇太子が立ち上がった。
彼はリリアの前でひざまずいた。
「美しい」
「え」
「白い皮どころか、外の皮まで受け入れる君が好きだ」
会場がざわめいた。
「みかんを皮ごと食べる令嬢に求婚を!?」
「隣国では、あれが美徳なのか!?」
皇太子は、リリアだけを見ていた。
「結婚してくれ」
王子が震えた。
「ばかな……白い皮をむかない女に、価値が……?」
リリアは二個目のみかんを手に取った。
もう、むかない。
白い皮も。
外の皮も。
元婚約者の顔色も。
リリアは王子に言った。
「もう遅いです」
ばりっ。
おわり




