第7話『遭難者』
「まだ昼間よね。この森はなんで真っ暗なの?」
「ゴーストでもいるんじゃないか」
──死者の森というらしい。
その森は、まるで光を打ち消す暗闇だ。
現世から離れているかの様な。
有りもしない錯覚をしてしまうほどだった。
そんな森に私とルーカスはやってきた。
そのはずなのに、ルンルン気分で森に侵入するルーカス。
ゴーストはお前だよ。
そう言いたいけどグッと我慢した。
ルーカスの話しでは、この森の最深部。
そこに冒険者が立ち往生してるってこと。
どこでそんな情報を仕入れてるんだ。
私とヴァルの話しを盗み聞きしてただけじゃないか。
情報収集をする余地なんて無かったはず……。
どこまで、先を見通しているんだ。
逆に恐ろしいよ。
ストーカーの素質があるのかも。
言ってやったら落ち込むといけない。
可哀想だから、言わないでおいてやろう。
ルーカス曰く、魔物や魔獣は、冒険者がある程度まで始末しているとのこと。
通りで接敵しない訳だ。
魔獣の匂いや気配は全く感じられない。
群れで襲われたら対処出来ないし、好都合。
そのまま最深部に向かおうとするけど……。
なぜだか、ルーカスの歩みが止まった。
辺りを見渡している。
草むらの状態のチェック。
争いの跡を発見していた。
何かを感じ取ったのかな。
その分野において私は疎い。
ルーカスの判断を聞いてみよう。
「不思議に思わないかい?」
「そんなこと私に言われても知らないわよ」
「血痕が一つも見当たらないんだ」
「そんなに不思議なことなの?」
「そりぁ、不思議だね。魔獣と酷く争った跡がある」
「そんなこともあるんじゃないの」
呆れられてしまった。
悪かったわね察しが悪い女ですよ。
ルーカスが何を言いたいのか。
それは、最深部に向かうまでに冒険者は無傷で魔獣を倒し突き進んでいたって証拠になる。
大立ち回りをしていた。
苦戦していたはず。
なのにどうして無傷であったのか。
私はそれで閃いた。
「この先に……ヒーラーがいるのかしら」
「可能性は高いね」
「けど……もしかしたら違うのかも」
「それはどうして?」
「その冒険者たちってこの森を脱出出来るはずじゃない」
「向かったよりも敵が少ないからね」
「そうなのよ。わざわざ遭難なんかするのかしら」
嫌な予感がした。
この森から出たくても出られない理由。
それはどんな状況なんだろう。
最深部で強敵が現れた。
戦闘になりパーティが崩壊。
生き残りだけでは、安全に森から出られなくなった。
そういうこともあり得るのかもしれない。
事態は意外と深刻な状況なんだろうか。
勝手な推測をしてしまった。
先を急ごう。
きっと困っているはずだ。
拾える命は、拾うに越したことはない。
それで私が救われたように。
命さえあれば、また前を向いて歩ける。
折れてしまった心だってなんとかなってしまう。
──今度は、私が救うんだ。
どうか無事であってほしい。
「ここが最深部かしら」
「合っていると思うよ」
「戦闘の跡が無いわね」
「そうだね。少し考え過ぎだったかな」
「何も無いならそれで良いじゃない」
「……いや、そうでもなかったらしいよ」
ルーカスは、茂みの先に指を差す。
差した方向に視線を向けてみた。
やっぱりいたのか。
一人で震えていた冒険者らしき人物だった。
救助に来たっていうのに私たちに全く気づく様子も無い。
うずくまっていた。
ただひたすらにすすり泣く少年。
どうして仲間がいないんだろう。
まさか……魔獣にやられたのか。
なんて声を掛けてあげれば良いんだ。
ルーカスは行動する気が全くない。
私がどうにかしなきゃならないのか。
男の子のあやし方なんか、私は知らないんですけどね。
私に頼り過ぎじゃない!?
それどころか、人の慰め方も分からないってのに……。
投げやりなルーカスに苛立ちを覚えた。
けど……やるしかないのよね。
ヒーラーの勧誘なんかまたの機会でよい。
一番大事なことは、この少年の救助。
安全なところまで避難させることだ。
状況整理も行いつつ、速やかにこの森を脱出しよう。
少年に駆け寄ることにした。
「ケガはないかしら」
「どこもケガしてないよ」
「それは良かったわ。どうしてこんなところにいるの?」
「動けないんだよ……」
「何か……あったのね」
「ボクは捨てられたんだ」
「──捨てられた!?」
「お前なんか要らないってさ」
「冒険者パーティのことで合ってる?」
「そうだよ。ボクは追放されたんだ……」
喧嘩した……って訳でもないのよね。
パーティを追放なんて、この男の子は一体何をしたんだ。
いや、違うんだろうな。
きっと、この男の子は何もしていない。
状況を見るに明らかなこと。
この過酷な状況で仲間を置き去りなんて……。
普通は絶対にそんなことしない。
それが出来るやつは、ただの外道だろ。
殺すつもりで放置したに違いない。
信頼していた者に裏切られる。
その気持ちと怒りは痛いほど良く分かっているつもりだ。
──私がそうであるように。
そのおかげで私の復讐は成り立っている。
子供がこんな重荷を背負わなければならないのか。
他人のことなのに怒りが込み上げてきた。
いっそ、そいつらも殺してやろうか。
言葉にしてしまいそう。
だけど、私が言ってはいけないな。
それは、私がするべきことじゃない。
自身で答えに辿りつく必要がある。
こういうのをお節介と言うんだ。
私もルーカスにやられているからよく分かる。
「一人でよく耐えたわね」
「耐えてたんじゃない。どうしようもなかったんだ」
「逃げることも出来たはずよ?」
「逃げれないよ」
「それはどうして?」
「ボクは戦えないから……」
「戦えない?」
「ヒーラーなんだ。攻撃魔法なんて持ってない」
そういうことだったのか。
それが自力で脱出が出来なかった理由って訳ね。
魔力切れに陥ったら死──。
だから、こんなところで行き詰まった。
動くことにも躊躇してしまうだろう。
同時にルーカスの思惑に上手く合致していのかも。
分かっていたんだ。
遭難者がヒーラーだってね。
やってくれるじゃない。
勧誘しろって言っている様なものだ。
この男は一体、どこまで見透かしているのか……。
「私たちと一緒にここから出ましょう」
「嫌だよ……もう誰も信じれないよ」
「君……名前は?」
「ルミナスだよ」
「ルミナスね。別に信じなくてもいいんじゃない?」
「なんでさ。もう裏切られたくないよ……」
「ルミナスを裏切るやつらなんか放っておきなさい」
「なんでお姉さんはそんなに強いんだよ……」
「私も……酷い裏切りを受けたことがあるからね」
警戒心を解いてもらうのが先決だろう。
あまり見せたいものじゃないけど……。
失った右脚をルミナスに見せてやった。
トラウマを植え付けるようなやり方をするけどね。
気分の良い物じゃないけど許してほしい。
知ってほしかったんだ。
──どんなに苦しくても。
──どんなに辛くても。
生きてさえいれば、乗り越えることが出来る。
まだ希望はあるんだと。
今はまだ分からないかもしれないけどね。
いつか、心から信じてくれる人が現れるから。
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