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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第3話『反逆者』


 ──オーバーフローを舐めていた。


 予想以上に身体へのダメージを残していたみたい。


 肋骨が数カ所ほど折れている。


 ルーカス邸でまた療養する羽目になった。


 魔力を放出し過ぎたツケが重すぎる。


 強力ではあるけれど、使い方が難しいんだろうな。


 この義足と向き合っていかなきゃ。


 私の復讐への道のりは長い。


 ルーカスはというと……。


 せっせと義足造りに営んでいた。


 こんなに沢山作って何がしたいんだ。


 私の義足とあまり似てはいないようだけど……。


 もしかして、シンプルな義足なのかもしれない。


 攻撃に特化しているものでなく、誰かの生活を守るため。


 生活の補助をする為のものなのか。


 ルーカスは忙しいみたいだ。


 声をかけるのに躊躇してしまう。


 「──今日は目覚めが遅かったね」


 気を遣われて挨拶をされてしまった。


 手を煩わせてしまったのが申し訳ない。


 「えぇ……少しはマシになった」


 「それは何よりだ」


 「そんな量の義足どうするの?」


 「依頼があってね。今日はこの義足を依頼人に届けるのさ。待っている人たちがいるからね」


 含みのある言い方。


 そんなにも四肢を失っている人がいるのか。


 貴族であった私は、今まで戦いになんて無関心だった。


 こんな屈辱を受けるまではね。


 私と同じ思いをしている人がいるだなんて……。


 考えるだけで背筋が凍りそうだ。


 ルーカスもそれを分かっているはず。


 でなければ、あんなにも真剣に義足や義手なんて造るはずもない。


 国に思うことがあるって言ってたっけ。


 もしかしてこのことなんだろうか。


 「どうかな、今日は少し付き合って貰えないか?」


 「──付き……合う!?」


 「勘違いしないでくれ。依頼人と会うのに付き合って欲しいと言ったんだ」


 「別に勘違いなんかしてないわよ!」


 ──驚いた。


 急に付き合ってなんて言われたらビックリもする。


 確かに、デートの誘いにしては雑だったかな。


 ルーカスが私に好意なんて持っていない。


 そう言い聞かせるようにしておこう。


 「歩く程度ならどうにか大丈夫よ」


 「充分だね。ならば今から出かけよう」


 「外出は危険じゃないのかしら」


 「大丈夫、ある意味安全だからね」


 行き先の説明はしてくれなかった。


 どうやら、行けば分かるとのこと。


 そう遠くないらしいけど……。


 ルーカス一人では行けない場所なんだろうか。


 私が必要だと言うけれど、なんか胡散臭い。


 ただ着いて行くことにした。


 彼が普段何をして、何を見てきているのか。


 それを知りたい私もいる。


 何だか、少し意識してしまっているようだ。


 私はなんでそんなことが気になるんだ。


 不思議な感情が渦巻いていた。


 「──貧民街であってるの?」


 「そうだね。依頼人はこの先の家だ」


 壊れた瓦礫の山。


 飢えた子供の死体。


 血生臭い壁。


 虚ろに睨む老人。


 村とは呼べぬ惨状だった。


 ある意味安全とはこのことか。


 こんなところに貴族がいる訳がない。


 私が何不自由無い生活を送っていた反面、民はこんなにも疲弊していたなんて……。


 私は知らなかったんだ。


 圧政でこうなってしまったのか。


 すぐに理解した。


 国から少ししか離れていない場所。


 ここで村人たちは懸命に生きていた。


 「少し歩かせ過ぎたかな」


 「そんなことない。私は平気だから」


 「ではもう少し頑張ってもらおう」


 平気だとは言ったけど、景色がまるで変わらない。


 道と呼べない場所も歩いた気がする。


 そろそろ疲れてきてしまった。


 「あとどれぐらいなの?」


 「──もう着いた。あれが、依頼人の家だ」


 予想はしていた。


 家と呼べるものじゃない。


 木の枝でボロ布を引っ張り、屋根を作っているだけ。


 雨風を凌ぐ余裕すらない。


 テント……と言うにはあまりにも不恰好だった。


 そこに座り込んでいた男が一人。


 その男が村長らしい。


 頭髪は失われて、身体は痩せ細っていた。


 白い無精髭を蓄えている老人。


 ルーカスと目が合って話しかけてきた。


 「久しいなルーカス」


 「そうですねジジカさん。例の物を持って来ました」


 「いつもすまないな。迷惑をかける」


 「気にしないで下さい。ジジカさんの頼みならいつだって駆けつけますよ」


 ひいきにしている取引先なんだろうな。


 私が出てくると厄介かもしれない。


 フードを深く被り、顔を見られないようにした。


 「若いものが無茶をやりよる」


 「まだ戦っていたのですね」


 「そうだとも。だけどそろそろ潮時かもな」


 「どうしてです?」


 「魔法も持たぬ我々が国と戦争は無理があったんだ」


 「……そんなに死にましたか」


 「──死んだ。幹部も数人しか残っていない」


 「……悔しいですね」


 国を相手に戦争をしていたみたいだ。


 その悲惨さは、現状を見れば明らか。


 一方的に蹂躙されていた。


 物資も食糧もなく。


 事実上の敗戦。


 あの国王がやらかしていたんだろ。


 人を虫けらのように殺し、悦に浸る。


 私も国王の被害に遭った一人だ。


 私が復讐に魂を焦がす哀れな女。


 この民たちも我慢ならなくて戦いを挑んだのだろう。


 気持ちは良く分かる。


 「──お前さん、誰だ?」


 感情を殺して話しだけを聞く。


 違和感を感じたのか、ジジカに声をかけられてしまった。


 戦争相手の貴族だと知られたらマズいか……。


 フードを脱ぐ勇気がない。


 「大丈夫だよアリス。ジジカは悪い人じゃない」


 信用するか……。


 ルーカスも隠しきれないと思ってのこと。


 堂々とジジカに挨拶をした。


 「アリス・ローゼンです」


 「おい、ルーカス。なぜ貴族なんか連れてきた」


 「リベリオンに必要だからです」


 「ふざけているのか」


 「全くふざけていませんよ」


 「我々同胞は貴族共に殺されたんだぞ」


 「分かっていますよそんなこと」


 険悪なムードになってしまった。


 ジジカも力無き眼で私を見つめている。


 こんなことなら来るんじゃなかった。


 後悔先に立たずとはこのことか。


 こうなることぐらい、ルーカスも分かっていただろ。


 何で私が必要だったんだ。


 リベリオンって組織がこの貧民街にあるってのも初耳。


 私に何をやらせたいんだ……。


 「まぁ良いか。我々の敵はまずガゼルなんだ」


 「ガゼルですか?」


 「アイツの指揮でうちの村は崩壊した」


 「なるほど……」


 「差し違えてでもガゼルは殺さねばならない」


 「そのガゼルですが、つい最近死にましたよ」


 「──なんじゃと!?」


 「誰が殺したと思います?」


 「まさか……」


 「アリスですよ」


 ルーカスが自慢げに私を名指しした。


 あまり大っぴらに言わないでもらいたい。


 誇ることでもないことぐらい分かってる。


 でも……そうなのか。


 ガゼルはこんなこともしていたのか。


 悪人を極め過ぎだろ。


 人の生死に無関心な男だったのも頷ける。


 被人道的な殺しもしていたなんてね。


 正真正銘のクズだった訳だ。


 「アリスよ……本当なのか?」


 「私にも因縁のある男でした」


 「そうであったか……」


 「でも……ガゼルを殺したことに後悔はありません」


 「気に入ったアリス。強いお人だな」


 「ジジカ様ほどではありませんよ」


 「是非、うちの反逆者共に会ってやってはくれぬか?」


 「──反逆者?」


 国と戦っているこの村の組織。


 レジスタンスのことだろう。


 私は、ありのままをジジカに伝えた。


 彼らにだって因縁があったであろう。


 せめてもの慰めになれば。


 そういう願いもある。


 私はその会合を了承した。


 ルーカスはこれが狙いだったのか。


 何となくだけど、意図は分かったような気がする。


 この先のことは、きっと自分で考えろって言うんでしょ?


 私の復讐ですもの。


 私のやりたいようにやらせてもらいます。


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