第2話『人殺しアリス』
──ルーカスと出会って二ヶ月が経つ。
ケガの療養も順調ですっかりと完治した。
義足にもある程度慣れてきている。
日常生活をするだけだったら魔力も1%程度で済むらしい。
意外と便利で助かっている。
ルーカス邸にしばらくお世話になりっぱなしだ。
いい加減、出ていかなきゃ。
国王管轄の義肢装具士だっけか。
私の存在は居るだけで迷惑になるはず。
ルーカスに被害を出す訳にはいかない。
それに、これは私の復讐だ。
巻き込んでしまうのもいけないこと。
いつ別れを切り出すか。
どうも考えがまとまらない。
一体、どうしたら良いものか……。
「もう充分に身体を動かせるね」
「そのことなんだけど……」
「どうしたんだい?」
「そろそろここを出て行くわ」
「そうか、行ってしまうのか」
なんて寂しそうにショックを受けているんだ。
そりゃ、行くに決まってるだろう。
いつまでもこんな優しい場所に留まる訳にもいかない。
そんなに行ってほしくないんだろうか。
確かに友達がいなさそうではあるけれど。
決してバカにはしていないのだけれど。
結局、これも甘えや逃げの類だ。
私の復讐心が薄れてしまうから。
私は目的を成さなければいけない。
決心が鈍る。
だから私は、ここから出なきゃならないんだ。
「成すべきことをしてくるわ」
「それは大変立派だね」
「これ以上……迷惑はかけられないもの」
「そうか……どこへ行くんだい?」
「ガゼル様に会ってくる」
ガゼルに会わなければ、真相が分からない。
それに所在のあてもある。
ガゼルは決まった夜の刻。
屋敷の庭園で夜空を眺める習慣がある。
そこを狙うしかない。
死んだはずの私が現れたらなんて弁明するんだろうか。
見ものだな。
ガゼルの出方次第で今後の方針を決めていく。
文字通り、国ごと敵に回すかもしれないってこと。
ルーカスならことの重大さに気づくはず。
行ってこいと背中を押してくれるだろう。
「──そうか、なら僕も行くよ」
何も分かっていなかったみたい。
どうして後をついてくるんだ。
私と同行したら反逆罪にだってなり得る。
ルーカスの意図が全く読めない。
何を考えてるんだ。
「私の復讐よ。同行したらどうなるかぐらい分かってるでしょ?」
「さぁ、どうでしょうな」
「とぼけないでよ。真面目な話しをしているんだから」
「義足にはメンテナンスがいる」
「……うん」
「万が一にもオーバーフローしたらどうするんだ?」
「……自分でどうにかするわよ」
「歩けないのにか?」
「それは……」
もっともらしいことを言われて丸め込まれた。
現状、義手は貰っていない。
私が受け取りを拒否したんだ。
この地獄のような屈辱を忘れないように。
あえて装着していない。
それ故に、義足が外れたら地を這うにもやっと。
そんな状態なら今度こそ私は死ぬ。
かと言って同行するのも都合のいい話しだ。
私の生死など、どうでも良いだろうに。
どうしてこうも首を突っ込みたがるのか。
別に私はもう死にたい訳じゃない。
あのナイフはいらない。
もう私は立ち上がれるんだ。
その過程であり、私の復讐が叶わぬ時。
死んでも仕方ないと割り切っている。
気持ちは嬉しいがおせっかいだ。
「なんでそこまでするの?」
「なんでって言われても僕はもうアリスと共犯者だろう」
「……最悪の場合、ルーカスも殺されるわよ」
「僕も腹を括っているつもりだ」
「その行動理念はどこからくるのよ……」
「国のやることには僕も思うことがある」
国王に対して、多少の鬱憤が募っているようだった。
それが何なのかは、聞かなかった。
「それにアリスのことを助ける訳じゃない。見届けたいんだ、君の復讐をね」
「するのは、あくまでサポートだけってことか」
「もちろんさ。アリスの復讐の邪魔はしない」
「だから、私たちは共犯者であり……」
「傍観者でもあるってことだよ」
致し方無しにルーカスと手を取った。
義足である以上、サポートは受けないと私の復讐は終わってしまう。
物事は成るようにしかならない。
ルーカスと行動することが最善。
決められた運命だったと割り切る事にしよう。
目的を決めて行動に移ることにする。
ルーカスにガゼル邸の警備の気を引かせる作戦だ。
アビスを生き抜く術のあるルーカスなら簡単なこと。
その隙を狙って私が庭園に侵入する。
それ以上の助けはいらない。
後は私が考えて行動しなきゃならないんだ。
人任せなんかにしていられない。
決行は今日、今夜の夜更け。
どんな結末になるのだろう。
おとり役が終われば、私に干渉しなくてよい。
それだけの取り決めをして、ルーカス邸から出て行くことにした。
♦︎
「この庭園はいつ見ても美しいわね……」
夜更けがやってきた。
ルーカスは、上手くやっているらしい。
門番も兵士も皆が出払っていた。
ガゼル邸への侵入も容易なこと。
後は姿を現すのを待つばかり。
いつまでも、おとりが通用する訳じゃない。
すぐに兵士が異変に気付くだろう。
戻って来てもおかしくない。
時間はかけられない。
気を引き締める為、一旦空を見上げた。
星が綺麗だな。
そう、ふけっていると──。
「アリス……なのか……!?」
ガゼルが現れた。
幽霊でも見たって様子。
至って健康なんですけどね。
「お久しぶりですねガゼル様」
「君はアビスに落とされて死んだはずだ!」
「──仄暗い地獄の底から這い上がって来ました」
死んだとされた無罪の女が生きていた。
ガゼルもさぞ困っただろう。
貴族の挨拶として、スカートを少し持ち上げる。
深々と挨拶をしてやった。
少しだけ義足が見えてしまったか。
ガゼルが動揺していた。
「その脚はどうしたんだ……!?」
「これ……ですか?」
義足をガゼルに見せつけてやった。
気にすることがまずそこか。
本当に呆れるな……。
自分たちが、私にどれほどの仕打ちをしたか分かっていないんだ。
「アビスで魔獣に喰い潰されましたので……それだけのことですよ」
ついでに失った腕も見せつける。
ガゼルが青ざめていくのが薄々と分かった。
どうせ生きながらえた命だ。
誰にも知らずに隠れていれば良かったんだ。
本来であればそんなところ。
私は、わざわざ姿をガゼルに晒しにきたんだ。
彼の視点からすれば、復讐に来たと考えるのが普通。
──命を狙われている。
そう解釈するだろう。
どんな言葉を吐くのだろうか。
それ次第で対応も違ってくる。
「──アリス……申し訳なかった」
謝罪の言葉だった。
欲しかったのは、そんな安い言葉じゃない。
それは、何に対して謝っている。
理解の出来ない言葉だった。
欲しかったのは、謝罪じゃない。
本当に欲しかったものは──。
私の身を案じる言葉。
──生きていてくれて良かった。
その言葉一つだけだったんだ。
ガゼルは最初から、私が死んでいようがどうでも良かったって思っていたんだろう。
私に興味など無かった。
なんか、どーでもよくなっちゃったな。
「それだけ……ですか」
「バカなまねはよすんだ。復讐に何の意味がある」
「もう……いいですよガゼル様」
対話をしようとすらしなかった。
ガゼルは、自身の保身に走っている。
もう決定的だ。
私は私の復讐の方針を決めた。
──私の幸せを奪った奴らは全員殺す。
例え、初恋であったガゼルでさえも。
私は、ただの悪女になろう。
元々は、人殺しの冤罪から始まったんだ。
これ以上の悪い噂なんてされないだろう。
──道は決めた。
──ここから、私の物語を始めよう。
「復讐をしに来たのではありませんよ」
「じゃあ、なんだというんだ!」
「──あなたを殺しに来たのですよガゼル・テイルナー」
「やはり……そうなるのか」
「というか、みんな殺すことにしました」
「さすがは……人殺しだな」
「えぇ、ですから私の幸せ……返してください」
「でもどうやって殺すんだ。君は魔法が使えないだろ」
もちろんそうだ。
まともにやったらガゼルから返り討ちを受ける。
まともであれば……。
抗う術はある。
ルーカスから授けられた義足。
魔力を放出した蹴りを放てば、いくら熟練したガゼルの魔法だって対抗することが出来るはず。
義足がオーバーフローするその瞬間まで。
耐えてくれることを信じて……。
「君じゃ殺せない。楽には殺してやらんぞ」
──ブラスト・フォース。
ガゼルが魔法を詠唱した。
中級魔法であり、それなり大きさの火球。
当然、そんな魔法を生身で受けてしまえば死ぬ。
ガゼルは、本当に殺しにきていたんだ。
何の感情もなく、ゴミを処分するような目つき。
冷たい眼差しで私に魔法を放った。
蹴り以外、私に出来ることがない。
やってやる。
こんなところで死にたくない。
死んでたまるか!!
──魔力30%解放。
覚悟を決めた蹴りで魔法とぶつかり合う。
「──いけェェェェ!!」
感じたことのない衝撃が身体を走る。
魔力のぶつかり合いは全部身体へ。
反動として返ってくる。
あと少しだけ、耐えて欲しい。
筋肉が震える。
骨がきしむ。
意識が飛びそうだ。
私の出来るありったけを全てぶつけた。
「魔法が消えただと……!?」
ガゼルの魔法を打ち破った。
怯んでいるこの隙を狙う。
動いてよ私の脚。
限界のその先に走りだせ。
「──てぃやァァァァ!!!!」
──魔力50%解放。
義足のオーバーフロー限界値。
死角からガゼルの懐に周り込んだ。
──これで最後。
渾身の蹴りを胴に打ちつけた。
ガゼルは、不意に現れた私に反応すら出来なかった。
防御魔法を使う隙もなく、身体は真っ二つに切断される。
人間の身体なんて、容易くこの義足は潰せてしまうのか。
ガゼルの意識なんてある訳もない。
さようなら、私の初恋。
地獄を生き抜いた私、婚約破棄の復讐につき。
私は、ガゼルを殺したんだ──。
蹴った衝撃で身体が吹き飛ばされた。
この義足は、加減をするのが苦手らしい。
私だってまともに反動を受けてしまって、身体がピクリとも動かないでいる。
義足も外れた。
例のオーバーフローだろう。
やり過ぎちゃったし、仕方ない。
ただし、このままって訳にもいかない。
騒ぎを聞きつけて、兵士たちが戻ってくるはず。
そうなっては、せっかくの復讐も台無しだ。
「ねぇルーカス見てるんでしょ。手を貸して」
試しに呼んでみた。
作戦通りならルーカスはもう撤退している。
こんなところにいる訳がない。
そう思いながらも結局は口に出していた。
返事は無い。
まぁいいさ。
私の復讐に一矢報いることが出来ただけ上出来。
捕まって殺される。
それで終わりなんだ。
「──遅れてすまない!」
ルーカスの声がした。
どうして戻ってきたんだ。
捕まるリスクだってあったはず。
息を切らしながら真っ直ぐ私に駆け寄ってきた。
「無茶をし過ぎだよアリス」
「そうね」
「──生きていてくれてよかった」
──これだ。
私はこの言葉が欲しかったのだ。
どれだけ苦しかったか。
どれほど辛かったか。
感情の爆発で情緒が乱れ涙を流す。
「私……やったよ」
「何をしたんだい?」
「ガゼルを殺したの」
「そうなのか」
「私の復讐……叶ったよ……」
「良かったじゃないか」
ルーカスが抱きしめてくれている。
背中をいっぱいさすって頷いてるだけ。
それだけのことなのに、それが妙に嬉しかった。
ガゼルを殺したとこに後悔はない。
私の復讐がやっと始まったんだ。
だけど、変な妄想もしてしまう。
夢だけ見ている少女であれば良かった。
普通に恋をして。
ごくありふれた結婚をして。
家族が増えて、子供に悩まされたりして。
でもそれは、もう無理な話し。
貴族殺しの冤罪をかけられた私。
婚約破棄までされて全てを失った。
その私が復讐者になり貴族を殺す。
なんて皮肉が効いているんだろう。
結局、私は──人殺しアリス。
名前に遜色ない悪女だな。
「進むべき道は決めたのだろう?」
「ちゃんと決めたよ」
「ならもう何も言うことはない」
「……少しぐらい何か言いなさいよ」
「やり遂げてみせろアリス・ローゼン。人生を悲劇で終わらせるな。復讐の果てにきっと笑えるはずだ」
普段は、こんなにも強い口調で喋らない。
初めてだったんだ。
こんなにもルーカスが感情的になっているなんて。
それが何となく、誇らしいものなんだって思えた。
義足を装着してもらう。
ルーカスが私を抱えて走り出した。
「さて、済んだことですし退散しますか!」
「ちょ……肩だけ貸しなさいよ。抱っこしないで!?」
裏道を使ってその場を離脱する。
兵士からバレぬよう逃走。
そのままルーカス底へ帰宅した。
ガゼルの死体が発見されて今頃、国中で混乱に陥っていることだろう。
まさか、死んだとされる女が殺したなんて思うまい。
それでいい。
復讐の魔の手は、悟られないに越したことはない。
いつか黒幕に辿り着く。
出来ればその時まで暗躍していたい。
──裏切った者。
──冤罪をかけて嵌めた者。
その全てを私は、断罪し殺してみせる。
かつて描いていた幸せを取り戻す。
そんないつかのその時まで。
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