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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第19話『反逆のアリス』


 油断してしまった。


 ルーカスの呼び掛けに我に返る。


 気づいた時には、マリアの魔法が私を襲っていた。


 マリアはただの魔法使いではない。


 役職で言えば神官だ。


 普通の魔法とは決定的に違うところ。


 それは、魔力の性質である。


 魔力は神への祝詞のりとに変換される。


 それをするとどうなるのか。


 普通の魔法では、太刀打ち出来ないほどの威力になる。


 高火力、低燃費。


 それを実現している魔法だ。


 神官は誰にでもなれる職業じゃない。


 類い稀なる才能を持つものしか扱えない。


 マリアはつくづく凄いな。


 何でも出来てしまうんだ。


 私が嫉妬してしまう由縁。


 困ったことに、連射性能まで高い。


 祝詞を読む都合上、連射速度は低下するはず。


 一体、どうなってるのよ。


 「アリス、次が来るぞ!」


 「分かってるわよ!」


 「義足に魔力を注げ」


 「……間に合うかしら」


 「やらなきゃ分からないさ」


 ──聖なるほむらの守護神よ。


 ──テンペスト・フレイム。


 なぜ、連射が出来るのか。


 それが分かった。


 祝詞を省略してるんだ。


 本来であれば、もっと長いはず。


 まともに魔法が発動する訳がない。


 それでも、やってのけてしまうのか。


 マリアらしい戦法だ。


 「──やァァァァ!」


 ──魔力10%解放。


 あの巨大な炎の竜巻。


 ヴァルの炎とは、やはり性質が違うのか。


 白っぽい炎だった。


 そんな魔法を私は跳ね除けられるのか。


 頑張ってよね私の義足。


 接近する竜巻に蹴りを入れた。


 こんなに強大だと、身体への抵抗も凄い。


 早く打ち消して……。


 私の身体が……持たない!


 義足と魔法の衝突でどうにか打ち消しは成功した。


 「便利なのねその義足」


 「不便だから義足なのよ。頭がおかしいんじゃないの?」


 「アリスにはお似合いよ?」


 「──何ですって?」


 「みっともないって言ってるの」


 「私は自分のことを誇らしいと思ってるけどね」


 「誇らしい?哀れの間違いでしょ」


 「勝手に言ってなさい!」


 魔法が途切れたこの瞬間。


 私はマリアに急接近した。


 ルーカスは制止したけど知るもんか。


 長期戦だと不利なことは分かっている。


 だったら今しかない。


 ──最高速度で突っ走れ!


 マリアまであと1m付近。


 私の奥の手。


 義足の最大解放が出来れば……勝算はある。


 「──届いてェェェェ!」


 魔力を最大解放しようとした時──。


 やっぱりマリアは一筋縄ではいかない。


 簡単に対処されてしまった。


 ──聖なる大地の守護神よ。


 ──ガイア・インパルス。


 地面の防壁が出現した。


 空中には小石が無数に浮遊する。


 これじゃ、攻撃は失敗だろうな。


 咄嗟に身を引いて間合いを広げることにした。


 「──逃げろアリス!!」


 ルーカスの声がする。


 どう危ないのか。


 それが理解出来ていなかったんだ。


 声がした瞬間ではもう遅かった。


 ──ドスッ!


 背中に重たい一撃を貰う。


 「──岩石!?」


 高速で飛んで来た岩に対処なんて出来ない。


 当たった衝撃でルーカスの足元まで身体が吹き飛んだ。


 「大丈夫かアリス!?」


 「……こ……こきゅ……が……」


 ダメージが深刻だった。


 急な衝撃で身体が痙攣している。


 早く立たないと……次が来る!?


 だけど、マリアは攻撃の素ぶりを見せない。


 何だあの飛び交う岩と防壁は。


 こちらの出方を伺っているみたいだ。


 ショック状態からは、何とか抜け出せた。


 打撲の影響で頭はクラクラする。


 そろそろ決着をつけなきゃ……。


 私の身体がもう限界を迎えそうだ。


 「復帰出来たのか!?」


 「何とかね。経ってるのがやっとよ」


 「あれは……どうするんだ?」


 「悪いけど私はもう走れないわよ」


 「近づくだけで死は確定か……」


 二重の防壁に、迫って来た敵を排除するカウンター。


 もう打つ手は無くなった。


 接近が出来ない以上、もう戦う術がない。


 逃げる体力も残っていない。


 ──私は……もう負けたんだ。


 悔しいな。


 こんなに頑張ってもダメなのか。


 みんな頑張ってくれたのに。


 最後に脚を引っ張ったのは私だ。


 これでも、私は責任ぐらい取れるのよ。


 幸い、マリアの軍は全滅してる。


 私が囮になれば、みんなの逃げる隙は出来るはずだ。


 ルーカスに撤退命令を出そう。


 あなたまで死ぬ必要はないんだから。


 「ルーカス……撤退よ」


 「正気なのか?」


 「もう……私には無理だから……」


 「諦めるのか」


 「そうよ。こんな状況なら諦めもつくわ」


 「それはどうして?」


 「私はもう動けないわ」


 「そうなのか」


 「あの防壁を突破する力もない」


 「なるほど」


 「今なら逃げる時間がある。私をおいて逃げて」


 精一杯に虚勢を張る。


 私に出来ることはそれだけだ。


 ルーカス……あなたと出会えて楽しかった。


 来世があったらまた会いましょうね。


 これから私は死んでしまうけど。


 私のような愚か者が居たことだけは……。


 どうか忘れないでね。


 ──最後は笑って死のう。


 復讐は出来なかったけど、思い出はたくさん。


 私にとってはかけがえのないものだった。


 復讐に心を燃やしてから私は大きく変わったな。


 我ながらそう思う。


 感謝ぐらいは言ってやろう。


 そんな時──。


 ルーカスは口を突いて出た。


 「──まるで君は近づきさえすればまだ戦えると言っているように聞こえるよ」


 戯言のようなその言葉。


 「そうかもね。でも不可能よ」


 現実的な言葉じゃない。


 そんなことを考えてもいなかった。


 ──そうよ。


 近づきさえすれば、まだ私は戦える。


 それを言ってしまえばただの負け惜しみだ。


 敗者は死んでこの世から去るのが運命。


 だから……もうどっかに行ってよルーカス!


 「僕がマリアの元まで飛ばしてやる」


 「──はぁ!?何を言ってるの?」


 「僕にも魔法があることを忘れないでもらえるかな」


 「魔法ったって何なのよ……」


 カバンから取り出したのは、ナイフとむちだった。


 ナイフはアビスに堕とされた時の所持品。


 自決用のナイフ。


 なんで今更ナイフなんか……。


 鞭だってよく分からない。


 そんな物で一体どうするってのよ。


 「今のアリスにはこのナイフが必要だ」


 「……どうして今なのよ」


 「今の君になら扱えるはずだ」


 「ルーカスまで狂ったのかしら」


 「持って行けば分かるよ」


 手荷物だけ持たされる。


 そして、ルーカスは魔法を放った。


 とても緩やかな荒々しくない魔法。


 そして、その例の鞭は私に向かって来た。


 ──ウィップ・ベルト。


 「……え、ちょ──!?」


 「後は義足を使ってどうにかしたまえ」


 「──えェェェェ!?」


 無理矢理に鞭で身体を引っ張っられた。


 そして、そのまま──。


 私の身体は、マリアに向かって投げ出された。


 ルーカスめ……。


 やり方が強引過ぎるのよ。


 バカさ加減には、本当に呆れちゃった。


 でも、何だか吹っ切れたよ。


 私はまだ戦える。


 正真正銘、これがラストアタックだ。


 身体が地面に着いた瞬間、勝負は決してしまう。


 動けないのは、変わりようのない事実だからね。


 もう逃げない。


 ルーカスが背中を押してくれたから。


 私の持てる全力で相手してあげるわ。


 ──反逆のアリスをみくびらないでよね!

 

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