第17話『再会』
もう小隊長は死んだ。
今のところ、戦線はルミナスが繋ぎ止めてくれている。
今が絶好の好機。
残す関門はあと一つなんだ。
この先にマリアはいる。
これからは、誰の邪魔も入らない。
殺し合いには、相応しいタイミングだ。
ガードナーのやつ……。
ルミナスに迷惑をかけてなきゃ良いけど……。
要らない心配だったのかもね。
敵陣の門の前までやってきた。
緊張してきたな。
なんだこの空気の圧迫感は……。
マリアは、それほどの狂気を孕んでいるんだ。
「アリスらしくないね」
「この震えのことかしら」
「緊張しているのかい?」
「……抑えられない怒りに震えているだけよ」
「本当にそうだと良いけどね」
「何よその含みのある言い方」
「油断するなよ。マリアは手強い」
「分かっているわ」
ルーカスが忠告するなんて珍しい。
マリアが強敵であることなんて知っている。
ヴァルが繋いでくれたバトンは絶対に落とせない。
さぁ、勝負をしましょう。
私の復讐とマリアの悪意。
執念と意地のぶつかり合いを──。
ヴァルとルーカスに敵陣の城門を開いて貰った。
姿を現しなさい。
私の宿敵──。
裏切りのマリア──。
突入してすぐのこと。
宿敵と私は対峙した。
「なぜあなたがこんなところに……!?」
「ご機嫌ようマリア。顔色が悪いんじゃない?」
「アリス……どうして生きているの?」
「──地獄の底から這い上がってきたのよ」
「信じ……られないわ……」
「なんで戻って来たか分かるわね?」
「たかが、アビスに堕としただけじゃない」
「たかが……ですって!?」
──実に半年振りの再会。
マリア……募る話しは山ほどあるのよ。
自分がやった行いに悪びれる様子もない。
酷いことをしたって自覚がないんだ。
この女……どこまでも腐っている。
期待するだけ可笑しなものよね。
多少は人の心でもあるのかと思ってた。
私が間違いだったんだ。
マリアには、何を言っても無駄だ。
自分より立場の低い者には容赦がない。
ゴミを見るような……その冷たい視線。
平気で人を裏切り、命を奪う。
──この女は外道だ。
絶対に殺す。
殺しておかないと、また私の様な犠牲者が増える。
それだけは、ダメなのよ。
復讐者は、私一人だけでいい。
他の誰かが復讐に命を燃やすなんてことはさせない。
私が全部……背負ってあげるから。
「この際だからハッキリと言っておくわ」
私の覚悟とその決意。
身をもってしれ。
私はあなたを──。
「──殺しに来たわ」
「本当に……ふざけたゴミ虫よね」
何やらマリアが焦っていた。
ガゼルの時もそうだ。
──死人が蘇った。
そういう認識にもなる。
事実、そうなんだけどね。
地獄に落ちた私。
黄泉を彷徨い生還した。
復讐を糧に生き永らえる亡霊。
そんな者に出会したら……。
ここは、戦場だ。
場所が場所だけに、正気でいられないはず。
往生際の悪い女だ。
「我が国の軍を殲滅させたのはアリスだったのね」
「……殲滅ですって!?」
「小隊が全滅したのよ。どんな小細工を使ったの?」
「さぁ、私には分からないわね」
──これは、朗報だ。
ルミナスが戦い抜いた。
圧倒的な戦果。
これで、マリアの軍は崩壊。
増援の見込みも薄い状況。
それでいて、私の手の内も何も知らないんだ。
攻撃力不足を懸念していたんだけど……。
奇跡が起こった。
実際のところ。
私だってどう殲滅したかは知りはしない。
ルミナスが頑張ってくれた。
そう思うことにしておこう。
「マリアの軍が弱かったんじゃない?」
「……何ですって!?」
「たたが、三十人の軍すら倒せないのはなぜかしら」
「安い挑発なんかしちゃって……」
「無能と決めつけた者に下剋上される気分はどう?」
「まぁ……いいわ。弱い軍は要らないもの」
「開き直るのかしら」
「あんなのただの捨て駒よ。替えはいくらでもいる」
「やっぱり、マリアは狂ってるわ」
「そうかしら。当たり前のことだと思うけど」
マリアは中隊を用意していない。
今から呼んだって間に合わないだろう。
でも、何故なんだ。
なんでそんなに平然として居られる。
よほどの自信の表れか。
あるいは、無策のバカなのか。
あのマリアが無策……なんてことはない。
何かがある──。
そう思っていた方が自然だろう。
何を隠しているんだマリア。
さっきの焦りは、どこに消えたのよ。
「──ガゼルを殺したのはアリスだったりするの?」
「そうよ、良い死に様だったでしょう」
やっぱり国で問題になっていたらしい。
国王の娘の婚約者。
その男が無惨にも暗殺されていた。
誰の犯行か分からないままね。
私は簡単に自白する。
いつまでも認知されないのは、私だって困ってしまう。
次はお前だ──。
その認識を持ってもらいたいってのもある。
私が復讐者だ。
死に怯えて震えてるがいい。
私が全てを殺す。
ただ素直に白状したのではない。
これは私なりの宣誓。
誓いに他ならない。
「結局は人殺しアリスなのね」
「マリアも人殺しでしょ。お互い様よ」
「私は違うわ」
「……不思議なことを言うのね」
「だって兵士や貧民は人間じゃないのだから」
「マリア……あなたそれ正気で言っているの」
「下等生物は死んで当然よ」
「……あんたってやつは……」
どこで狂ってしまったのよ。
人間に上も下もない。
皆が平等であり、懸命に生きているんだ。
私も貧民街の暮らしを見てきた。
あなたたちが奪ったのよ。
生きる者たちの権利を──。
故郷に生きる者の街を──。
生きるために必要な資源を──。
なんで笑ってそんなことが言えるんだ。
ふざけるなよマリア。
あなたたち国が人を殺すんじゃないか。
魔法が使えない者は殺します。
貴族でない者は殺します。
貧乏な者は殺します。
その先に何がある。
酷い争いを生むだけじゃないか。
だから反乱軍が創設されたんだろ。
勝ち目がなくても、生存のために。
許してなるものか。
見過ごしてなるものか。
私にも復讐以外で戦う目的が出来た。
もう貧民街を国の犠牲にはしてはいけない。
──これは私の人生を賭けた反逆だ。
「おいアリス……もう我慢ならねぇぜ」
「言ったでしょヴァル。手出しは無用よ」
「やっぱりマリアは狂ってる。大丈夫なのか!?」
「大丈夫よ。必ず勝つから」
「負けそうになったら引きずってでも撤退するからな」
「その時は……お願いするわ」
言いたいことは全て言った。
ここからが最終決戦である。
ヴァルの怒りも伝わってきた。
あれだけ、コケにしたらそりゃそうか。
思い知らせてあげる。
弱者は時として、強者をも超える力があることを。
ルーカスにも下がるよう説得した。
「僕はサポートだと言ったはずだ」
「ルーカスの手を借りる訳にはいかない!」
「手を貸す訳ないだろ。僕は傍観者だからね」
「ずっと屁理屈を言いっぱなしね」
「……構えろアリス。魔法が来るぞ!」
別に何かをしてくれる訳じゃない。
でもなぜだろう。
なぜだか安心してしまうんだ。
ルーカスが隣にいてくれる。
たったそれだけのことなのにね。
自然と私はルーカスの手を握っていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、『ブックマーク』と下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
※感想、レビュー等、お気軽にお願いします。




