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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第14話『回復術師のプライド』

【ルミナス視点】


 ──アリス様の為に前線に駆け出した。


 敵の最前線に立って、ボクは言葉を失った。


 それは、無謀と思えるほどの戦力差にある。


 戦力差10倍。


 敵兵は多少なりとも低級魔法を使う。


 対してウチの兵は魔法なんか使えない。


 これでは……ただ蹂躙されるだけじゃないか。


 だけど、ここを突破される訳にもいかない。


 アリス様からこの戦場の指揮を任されたんだ。


 必ず死守してみせる。


 ボクの可能性を信じてくれたみんなの為にも。


 今までの回復では、この戦い……。


 全くといって通用しないだろう。


 ──高速自動回復魔法。


 使うしかないみたいだ。


 そうでなければ、戦線を維持出来ない。


 後はボクの魔力量次第だ。


 常に三十人を回復させるとなると、どれくらい持つのか。


 未知数だよ……。


 ヴァルモニアさんとの約束もある。


 ──誰一人として死なせない。


 ボクが倒れたら部隊は全滅。


 それまでに……どうかアリス様。


 この戦いに勝利して下さい。


 ボクも命を懸けます。


 それはこの前線の兵士にも言えることだけど……。


 こんな無能なボクを拾ってくれたこと。


 感謝してもしきれないよ。


 始めよう。


 ボクの戦いを。


 これは、誰も失わない為の戦争だ。


 「おいルミナス……あの数じゃ無謀だ」


 「分かっていますそんなこと!」


 「じゃあどうするんだ」


 「今まで通り戦ってください」


 「それで解決になるんか!?」


 「皆さんはボクが絶対に死なせません!」


 ──自動高速回復魔術発動。


 ──フルオート・リジェネレーション。


 ありったけの魔力を放った。


 兵士の人にも発破を掛けられちゃったな。


 無理もないと思う。


 所詮、ボクはポッと出の新人。


 信じろっていうのも無理な話だ。


 ボクには戦闘力がある訳でもない。


 戦況を有利にする力もない。


 思いつきも閃きも全くない。


 それでもボクは──。


 「──アリス様のために……ボクを信じろ兵士ども!」


 総員の全てを一喝した。


 それは、仲間の士気を上げるためのこと。


 君たちは、レジスタンスなんだろ。


 どんな逆境でも戦っていたんだろ。


 虐げられても立ち向かう英雄だろ。


 こんなところで諦めてどうする。


 大丈夫だよ。


 ボクがついてるから。


 「ヤケクソだァァァァ。逝くぜ野郎どもォォォォ!!」


 予想よりも遥か高く士気が上がった。


 たった一瞬のこと。


 素直なボクの気持ちをぶつけただけ。


 その言葉が兵士たちの心を震わせたんだ。


 今のボクたちなら……。


 やってやれないことはない!


 「ボクのことは構うな。全軍進撃せよ!」


 ──うおォォォォ!!!!


 勇敢なる戦士たちが進軍を開始した。


 とは言ってもこの数の兵士。


 不利であることには変わらない。


 それでも……。


 この戦場を開け渡してなるものか!


 敵と交戦の最中。


 ボクの軍の兵士は簡単に傷をもらってしまう。


 百人規模の狙撃魔法部隊が簡単に狙い撃つ。


 ──腕が引きちぎれる兵士。


 それだけならまだマシだ。


 四肢を全損する者。


 恐怖のあまり失神する者。


 ──この戦場は地獄そのものだった。


 ボクは魔法ってやつを舐めていたんだ。


 魔法は人を救うためにあると教えてもらったことがある。


 それがなんだ──。


 魔法は人を簡単に殺してしまうじゃないか。


 ボクの常識と認識はすぐさま崩壊した。


 ダメだ……。


 このままでは、全滅してしまう……。


 嫌だ……。


 諦めたくない……。


 やれることは全てやる。


 魔力切れなんて知ったことか。


 例えボクが廃人になったとして。


 それで救われる命があるのなら。


 ──奥の手を使う。


 魔力のリミッターを外す。


 魔力暴走で脳が焼き切れるかもしれない。


 もう……そんなのはお構い無しだ。


 目の前で仲間が無惨にも殺されるよりずっと良い。


 「──死なせるかァァァァ」


 みんなのケガが完治した。


 不思議そうにしていたけど、そんな暇は無いよ。


 どんな傷だって癒す。


 それが、回復術師だ。


 吹き飛んだ腕や足も瞬く間に完治。


 ここからが我らがアリス軍は勢い付いた。


 敵からしたら、もう訳が分からないはずだ。


 確実に殺しているのに死なない兵士。


 無限に立ち向かってくる兵士。


 亡霊のようだと嘆く者もいた。


 自分たちだけが、疲労を伴っている状況。


 ──奇跡が起きたんだ。


 あの弱いと思って下に見ていた反乱軍。


 その勢力が今、国王の軍たちと拮抗している。


 下剋上の始まりさ。


 このまま……持ち堪えてくれ……。


 いつ魔力の限界がくるか分からない。


 「おい顔色が悪いぞ……大丈夫か!?」


 「心配は入りません。敵兵の状況は?」


 「奇跡としか言いようがねぇ……」


 「まだ上手くやれているんですね」


 「少し休めよ無茶し過ぎだ!」


 「ダメです戦線が崩壊します。ボクに……構わないで」


 いつか来る限界が怖い。


 限界が来たらどうなるんだろう。


 これまでの人生。


 こんなにも魔力を酷使することなんてなかった。


 頭がズキズキする。


 脳が焼けるように熱い。


 視界も少しだけボヤけてきた。


 だけど、この魔法を止める訳にはいかない。


 なんだかこんなにも辛くて苦しいのに。


 とても気分が良くなってきた。


 夢にまで見た冒険者になった日。


 何もかもが新鮮だった。


 楽しくもあったけど……。


 仲間に裏切られたのだけは、心に深い傷を残した。


 捨てられた理由は何だったっけ。


 そうだ、何もしていなかったんだった。


 実際にはそんなことはないんだけどね。


 単純なことだったんだ。


 全力で物事にぶつかっていなかったこと。


 それが原因だったんだと思う。


 だから、今この瞬間が一番楽しい!


 命を削っている戦いであるのにも関わらず。


 今にでも倒れそうなほどなのに。


 心臓の高鳴りは止まりやしない。


 もっと……もっとだ。


 魔力を使い果たすほどの回復を──。


 「マズいぞ、負傷者が出た!」


 「バカやろうが。構ってる暇はねぇぞ!」


 魔力の精度が落ちてきた。


 拮抗していた戦線は、今では敵軍に押され気味だ。


 自動回復のおかげで少しずつは敵軍を減らしていたはず。


 それなのに、まるで敵の勢いは止まらない。


 百人は殺しているはずなのにどれだけタフなんだ。


 さすがは、国王の軍。


 全く歯が立たなかった。


 もうそろそろ、ボクも限界だろう。


 あぁ、楽しかったな。


 誰かに必要とされて。


 国にも反逆してみたりしてさ。


 アリス様なんて、すっごく可愛いかった。


 お姫様みたいな人。


 ほんの少しだけでも側に居れて良かった。


 これで最後──。


 ──命を燃やして……ありったけを。


 「──うわァァァァ!!」


 残っている全ての魔力。


 最大出力で回復に回す。


 ほとんどがヤケクソ。


 乱雑に魔力を垂れ流した。


 術式も安定しなくなる。


 回復量が半分以下になってしまった。


 これ以上、下回ったら戦線の維持はもう無理だ。


 ボクの出来ることはここまで。


 「──アリス様は……褒めて……くれるかな……」


 もう大地に立っていられなくなった。


 思わず、しゃがみ込む。


 呼吸も苦しくなってきた。


 酸素が脳に上手く回っていないんだ。


 この後のことは、アリス様に任せよう。


 出来ることなら……。


 まだアリス様にお仕えしたかったな。


 ──ブチッ──。


 脳の神経のようなものが切れる音がした。



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