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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第13話『友を殺して』


 戦いは、更にヒートアップしていた。


 格段にヘリオスの剣撃が鋭くなる。


 ちょっとした隙に魔法を放ち、剣で応戦していた。


 これが本気の殺し合い。


 ヴァルも負けじと炎を展開していた。


 軽く剣撃を捌き、ヘリオスに少しずつダメージを入れる。


 ヴァルが慎重に攻撃しているんだとすぐに分かった。


 「この化け物め……」


 「もうへばったのかよ」


 「まだまだぁー!」


 ヘリオスも限界が近い。


 切羽詰まったのか、何やら様子がおかしくなる。


 何を始めるつもりなんだろう。


 それは、抜刀の構えだった。


 何か嫌な予感がする。


 これは……。


 「──最後の奥の手だ」


 「おいおい、トチ狂ったか!?」


 「もうこれ以上は戦えそうにないからな……」


 「そうかい、かかってきな!」


 この一撃で決まる。


 そう私は確信した。


 ヘリオスも本気なんだ。


 どんな奥の手が飛び出すか、分かったものじゃない。


 それを真っ向から迎え撃つヴァル。


 手に汗握る瞬間だった。


 ヴァルなら……大丈夫よね。


 「ブラスター・ブレードォォォォ!!」

 

 「──魔力全解放だと!?」


 まさに命懸けの大技だった。


 ヴァルと同じように剣に風をまとわせる。


 風の力を借りて勢いよく、ヴァルに斬りかかった。


 この時に私は、異変に気づく。


 風の影響かは分からない。


 ヴァルの炎が風魔法で少しずつ掻き消されている。


 そして──。


 全ての炎が消し去ってしまった。


 こんな大事な局面で無防備になってしまう。


 魔法が使えないヴァルにとって、これは絶望的だ。


 ヴァルが……死んじゃう!?


 「今すぐそこから逃げなさい!」


 この暴風の中、私の声なんか届かない。


 もう私には、何も出来ないんだ。


 こんなところでヴァルを失う訳にはいかない。


 でも……これは逃げようがない。


 「終わりだヴァルモニア!」


 ヴァルの身体は、剣で引き裂かれた。


 その光景を目に焼きつける。


 嫌だ……こんな終わりなんてないよ。


 こんなにも呆気なく、大切な人を失うなんて……。


 絶望して膝から崩れ落ちた時──。


 「──いいや、終わったのはお前だよ」


 「ヴァルモニア!?」


 切り裂かれたヴァルは、煙の様に消えていた。


 まるで魔法のようだ。


 どういう理屈で……なんて知らない。


 いつの間にか、ヴァルはヘリオスの背後を取っている。


 「なるほど……見ていたのはお前ではなく蜃気楼か」


 「残念だよヘリオス。こんな幕引きなんて」


 「悔いはない。殺してくれ」


 あの魔剣には、対象に幻影を見せる能力があるらしい。


 心配して損したじゃない。


 こんなに取り乱したのは久しぶりだ。


 私の……絶望の涙を返してほしい!


 生きていてくれて良かった。


 たったそれだけのことなのに。


 こんなにも気が抜けてしまうのはなぜでしょうね。


 「不本意ではあるだろ」


 「当たり前だ……」


 「地獄でまた会おう」


 「そいつは勘弁してくれ。お前とはもう懲り懲りだ」


 「──じゃあな、親友」


 戦いはこの時、決した。


 ヴァルが大きく魔剣を振り上げている。


 そのまま、ヘリオスの首を刎ねた。


 躊躇なんて微塵もなく……。


 親友……だったのか。


 目的の為と言えば、それまでのこと。


 でも……それで本当に良かったの?


 薄っすらと涙を流すヴァルと目が合ってしまった。


 こればかりは、あまり見て良いものじゃない。


 涙を拭く時間を与える為に、私はしばらく背を向けた。


 「なんだ……居たのかよ」


 「ずっと見てたわよ」


 「……こっち向けよ。気持ちの整理はついたから」


 「……。バカ……」


 「何だって?」


 「バカって言ったのよ。バカバカ!」


 「泣きながら殴ってくるやつがあるか!」


 いつものヴァルに戻っていた。


 その眼に後悔なんか有りはしない。


 かつての友を殺した後だというのに。


 他人の私から見たって精神的に辛い。


 それなのに、もう前を向いて進もうとしていた。


 ──友を殺して。


 ヴァルはどう思っていたの?


 本当に殺して良かったの?


 私なんかが言えることじゃない。


 だけど、心に寄り添えることぐらい出来るのよ。


 ヴァルの胸の内はどうなんだ。


 「良かったのかしら」


 「良かったさ」


 「それはどうして?」


 「友達のまま殺せて良かったよ」


 「……後悔がないならそれでよし!」


 悲劇を悲劇で終わらせないため。


 どうせ敵対するのなら自分で殺したかった。


 ヴァルはそう語るけど、本当は辛いことを知っている。


 ならば、せめて──。


 私もその気持ちに応えなくてはならない。


 これから……私の出番なんだ。


 負ける訳にはいかない。


 戦う前にちょっとだけ、ヴァルを労ってやろう。


 「この戦い、大義であった」


 「もったいない言葉だぜアリス」


 「私も頑張るから」


 「絶対に負けんなよ。他の連中も踏ん張ってる」


 「私だけダメでしたでは、洒落にならないわね」


 「当たり前だろうが」


 「みんなが切り開いた道を全力で駆けてくるわ」


 「マリア殺害は俺たちの悲願だからな」


 「ここさえ乗り越えれば……」


 「──活路は開く!」


 労うつもりが、激励されてしまった。


 甘やかされるのは、あまり好きじゃない。


 これより、最終戦が始まる。


 因縁の宿敵であるマリア。


 魔法使いとしても一流。


 しかも、国王の娘ってのが引っかかる。


 一筋縄でいかないんだろうな。


 あのヘリオスが使ってた奥の手。


 あれは、マリアにもあると思っていた方が良い。


 対して、私にはこの義足だけ。


 追い詰めたと思っても、一発で形勢逆転される可能性。


 戦術を組み込んで戦わないと、負けるのは私の方だ。


 気を引き締めておこう。


 「もう行くわ」


 「ちょっと待てよ。俺も行くぜ」


 「そんな暇ないでしょ?」


 「前線のことか。それなら大丈夫だろ」


 「なんでそんなことが言い切れるのよ」


 「俺には分かるんだよ!」


 「ヴァルまで着いてくるなんて……」


 「ルーカスと一緒さ」


 「手出し無用よ?」


 「分かってるって。女の喧嘩は女がするもんだ」


 だから喧嘩じゃないって言ってるでしょ。


 そんな生優しいものじゃない。


 ──女と女の殺し合い。


 私を嵌めたこと。


 私を裏切ったこと。


 全部まとめて後悔させてやる。


 私の復讐心は消えてはいない。


 この戦いで魅せてもらったから。


 これまで、どんな逆行にも立ち向かってきた。


 人の醜さを知った。


 人の恐ろしさを知った。


 人の温かさを知った。


 人の優しさを知った。


 あの地獄とも言えるアビスに堕ちてから私は変わった。


 今の私なら……きっと出来る。


 力無き者が強者に挑む。


 それは、きっと普通のことではないんでしょうね。


 これもきっと一つの試練。


 国王軍との戦いは、もっと過酷になるんだ。


 ルーカスだって導いてくれる。


 ヴァルも力を貸してくれる。


 ルミナスは私を支えてくれている。


 私たちが正義……なんていうつもりはない。


 歴史からしたら、ただの悪役だろう。


 悪役で結構だ。


 だけどね、みんながいてくれるから。


 私は戦おうと思えたんだ。


 あと変な知り合いも増えたっけ。


 上手くやってると良いけど……。


 暗い夜道の先にある敵陣営。


 そこを目指して乗り込むことにした。


 そこにマリアがいる。


 逃げ回る生活は、もうごめんなのよ!


 あんたの首は私がもらう。


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