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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第10話『罠にかかった者』


 ──戦況報告をもらった。


 ルミナス率いる兵軍は、敵兵と拮抗しているらしい。


 敵兵戦力は三百人。


 それを三十人で拮抗しているなんて……。


 戦力差は十倍。


 善戦してくれていた。


 やはり、ルミナスの功績は大きいみたいだ。


 報告兵の話しである。


 敵兵からの噂らしい。


 反乱軍が無敵になったと言われているみたいだ。


 ルミナスの回復力が凄すぎて、敵も困っている。


 そんなブッ飛んでいる報告。


 ルミナスの活躍は凄い。


 だけど、決め手にも欠けている。


 この拮抗状態が、いつまで保つのかも分からない。


 ──致命的な攻撃力不足。


 痺れを切らして小隊長が出張ってくると厄介だ。


 早期決着を急がないと、この戦争は厳しいか。


 「少し気持ちを整理するわ」


 「いいのかい。もう敵陣営まで近いのに」


 「いいの。少し待って」


 移動を開始してしばらく経つ。


 流石に気疲れしてしまった。


 気持ちを落ち着かせるのも大事だ。


 本来なら善戦している。


 これじゃダメなんだ。


 もっと考えろ私。


 私は指揮官なんだ。


 この足りない決定力をどうカバーする。


 ミス一つで全てが終わってしまう。


 間違わない為に。


 誰も死なないように。


 私は思考を辞めちゃダメなんだ。


 「考えはまとまったかい?」


 「まとまる訳ないじゃない」


 「それはどうして?」


 「32人の命を預かっているのよ」


 「それは大変だ」


 「だけどそれじゃダメよね」


 「……成すべきことがあるならそうすればいい」


 「分かっているわよそんなこと」


 ──走りだそう。


 答えはその先にある。


 充分に気持ちは落ち着いた。


 焦ってばかりでいられない。


 ルーカスと話したらスッキリした。


 そのまま敵陣営に進むことにした。


 「こんなところにも罠があったのね」


 「アリスが指示したんだろう」


 「そうだけど……」


 敵陣営からまだ離れたところ。


 穴の空いた道があった。


 もう罠にかかった跡が残っていた。


 きっとこの穴には敵兵がいる。


 捕虜にして、情報を聞き出すか。


 危険なら殺してしまった方が都合が良い。


 とりあえず穴を覗き込むことにした。


 「誰かいるの?」


 「たーすけてくれー!」


 「誰よあなた」


 「君が誰だよ」


 「私はアリスよ」


 「そうかアリスか。オレをここから出してくれー!」


 ──変なやつだった。


 怪しさが際立っている。


 敵兵のような感じでもないけど……。


 もしかしてスパイだったりするんだろうか。


 「ルーカスはどう思う?」


 「怪しいね。普通こんな単純な罠にかかるかな」


 「策士かトビキリのバカよね……」


 ルーカスの見解は一致した。


 シカトして先に進もうか。


 正直言って、悩ましいものだった。


 「おーい出してくれー!」


 「あなた名前は?」


 「オレはガードナーだ」


 「冒険者?」


 「傭兵だよ!」


 「信じられないわ。なんで傭兵がこんな罠にかかるのよ」


 ──傭兵。


 報酬さえ払えば、どんな戦場にも駆けつける兵士。


 それなりに鍛えられた特別な人ってことだ。


 それを生業にしているのにこの体たらく。


 ますます信用ならない。


 「パンが落ちていたから拾いに行っただけだ!」


 なんて低俗な罠を私の軍は仕掛けたんだ。


 引っかかる方もどうかしている。


 鳥ぐらいしか引っかからないだろ。


 「拾い食いはお腹を壊すわよ」


 「そういうこといいから早く助けろって!」


 「あなた傭兵なんでしょ。役職は?」


 「──オレは盾役だ」


 「盾役?なんだか地味ね」


 「大きなお世話だコノヤロー!」


 落胆したけど、なんだか閃いた。


 元々はタンク役が欲しかった。


 盾役ならば似たようなことが出来るのでは……。


 そんな浅はかな期待をしてしまうのも事実。


 「聞いても良いかしら?」


 「何だよー早く出してくれー」


 「盾役って何が出来るの?」


 「そりゃあれだ。盾を出すんだよ」


 「他には?」


 「ターゲット集中もあるぞ!」


 「それは凄いのかしら?」


 「ヘイトを集めるからな。敵が寄ってくるぞ!」


 「なんだかあなた弱そうね。本当に傭兵?」


 「うるせぇーな!立派な傭兵ですよ!?」


 なんだかあんまり期待出来ないかな。


 致命的な攻撃力不足も解消出来る訳じゃない。


 けど……いないよりはマシか。


 ルミナスの部隊に投入してみようかしら。


 少しは戦力になってくれることを期待して。


 「そんなに言うならあなたを雇いたいわ」


 「おいおいアリスさんよ。オレは高いぞ。やめておけ」


 「お金はあまり持ってないわ」


 「じゃあ、雇えねぇじゃねーか!」


 「銅貨一枚でいいかしら?」


 「安過ぎるわコノヤロー!」


 「じゃあ、いくらなら納得するのよ」


 傭兵の相場は高いのか。


 命を懸けている職業だものね。


 安かったら釣り合わないか。


 でもこんな胡散臭い男に金なんか払いたくない。


 というか、ここは貧民街だ。


 金なんかある訳ない。


 「別に金じゃなくてもいいんだぜ?」


 「じゃあ、どうするの?」


 「──オレに惚れろォォォォ!!」


 死ぬほどくだらないセリフが貧民街に木霊した。


 「お断りですわ芋ザルさん」


 カウンターで返してやった。


 やっぱり、変人だったみたい。


 相手して損した。


 私は先を急いでいるんだ。


 ルーカスは腹を抱えて爆笑していた。


 他人事だと思って呑気なこと。


 ちっとも面白くないわ。


 もうバカは放置する。


 そこで大人しく、のたれ死ねばいい。


 「じゃあね、変人さん」


 「ちょっと待てって。冗談だってばぁー」


 「まだなにか用があるの?」


 「だからここから出してくれってー!」


 「嫌よあなた怪しいもの」


 「悪い傭兵じゃないよ」


 「キモい傭兵ね」


 「キモくねぇーよ。ナイスガイだろうが!」


 「出してあげるから私にもう関わらないで」


 「冷てぇーなぁー。よし分かった。雇われてやろうか?」


 「お金なら無いわよ」


 「金なんかじゃねぇ。仕事が終わったら腹いっぱい飯を食わせてほしいんだよ」


 「そんなにお腹減ってるの?」


 「三日も食ってない……」


 だからあんな幼稚な罠に引っかかるのか。


 ──条件も安い。


 ──しかも、後払い。


 最悪の場合は払わなくて良い訳だし……。


 この条件、呑んでしまった方がお得よね。


 「貧民街の食事は美味しくないわよ?」


 「このさい腹が膨れればそれでいい」


 「……決まりね。あなたを雇うわガードナー」


 「そうかい毎度あり」


 「さっそく前線に出てもらうけど大丈夫よね?」


 「雇われたんだからそりゃ行くさ」


 「頼もしいのね。じゃあ早く上がって来なさい」


 「だからオレを助けてくれって!」


 不安は残るけれど、傭兵を雇ってみた。


 ルーカスは渋い顔をしていたけどね。


 何だか初めてのような気がする。


 ルーカスの思惑通りにはいかないのよ。


 私だって自分で考えて行動するんだから。


 善は急げって言うじゃない。


 ガードナーを前線に案内しよう。


 黙って送り込んだら、ルミナスが驚く。


 変態が来たって騒ぎ出すかもね。


 傭兵の実力も見ておきたいけど……。


 送り届けるだけの時間しか残らないはずだ。


 そこは我慢しておこう。


 変な出会いだったな。


 ルーカスは内心、賛成はしていないでしょう。


 きっと大丈夫よ。


 イレギュラーが入れば、戦況が見違えるほどひっくり返るかも知れないじゃない。


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