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地獄に堕ちた公爵令嬢〜裏切りと婚約破棄の復讐につき、あなたを殺します〜  作者: 久方久米


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第1話『地獄』


 ──アリスが人殺しだったとは……。


 ──婚約を破棄させてもらう。


 婚約者の公爵であるガゼル・テイルナーがそう言った。


 公爵令嬢である私、アリス・ローゼンは無実の罪を着せられて、おまけに婚約破棄までされてしまった。


 なぜ、そんなことになってしまったのか。


 思い出すだけでも、怒りが込み上げてくる。


 それは、結婚式の日も近くなってきた頃。


 私の屋敷に大人数の兵士と兵団長がやって来た。


 只事じゃないことぐらいすぐに理解した。


 事情を聞こうと兵団長に歩み寄る。


 だけど、兵団長は私の話しを聞く気もなく兵士達が総出で私の身柄を拘束した。


 「──いきなり何をするんですか!?」


 「貴族であるアルバート殺人の罪で身柄を拘束する」


 「そんな人……知りませんよ……」


 「罪人が語るな。国王様の命令によりこれから裁判を執り行う。覚悟しておけよ」


 大人数の男に抵抗なんて出来る訳がない。


 そのまま私は、裁判所まで連行された。


 ただの裁判所なら無実を主張していれば良かったのだけど……。


 この裁判所は、有罪か無罪かを決める場所ではない。


 私に待ち受けていたのは、死刑裁判。


 ──有罪。


 ──死刑が確定している者。


 その容疑者が最後に受ける裁判。


 話しを聞きつけて来たのか、婚約者のガゼルも傍聴席にいる。


 私は、ガゼルを心底信頼していたんだ。


 公爵であるが故にある程度の便宜は図ってくれる。


 そう信じていたのに……。


 ──裏切られた。


 ──何の迷いもなく。


 心配をするでもなく、冷徹だった。


 あんなにも愛し合っていた婚約者に人殺しだと決めつけられたんだ。


 こんなに悲しいことがあるか。


 そもそもアルバートなんて貴族は何者なのか。


 悲劇を受け入れることが出来ない。


 「私を……信じられないのですかガゼル様」


 「──アリスよ、君は死刑になるべきだ」


 全ては、もう終わってしまったらしい。


 誰も私の言葉なんか信用しないのだ。


 こうなっては、死を受け入れる他はない。


 私が無実だということは、私自身が一番分かっている。


 だとしたら……。


 私は何者かに嵌められた。


 そういうことになる。


 傍聴席も騒めきだす。


 そろそろ、私の刑が言い渡されるのだろう。


 ──人殺しアリスをアビス送りの刑に処す。


 刑が確定した。


 アビスとは、地獄の迷宮なんて呼ばれているダンジョンのこと。


 そこへ送り込まれたら、誰も生還した者はいないらしい。


 当然、魔物だって生息している。


 貴族同士の殺人を公にしたくなかったのだろう。


 私は魔力こそは持っているが、魔法が使える訳じゃない。


 体裁のいい事実上の死刑だった。


 判決を下された、当日の夕暮れ時。


 兵団長に連行されてアビスのゲートに到着。


 私を待っていたのか。


 そこには、国王とガゼル。


 ガゼルと腕を組む女。


 幼馴染のマリアがいた。


 「マリ……ア……!?」


 「あらアリス。まさか人を殺してしまったなんて」


 「違う……殺してない!」


 「今更みっともないのよ。ガゼルは私が幸せにしますわ」


 「マリアまで私を裏切るの……」


 「仲良しごっこはお終いよ。アリスは目障りだったのよね。大人しく死んでちょうだい」


 幼馴染でもあり、親友だと思っていたマリアまでにも、こんな仕打ちを受けるだなんて……。


 人間関係の全てを失ってしまった。


 ──絶対に許さない。


 ──絶対に許せない。


 このアビスから生還出来たなら私は……。


 ──こいつら外道に復讐してやる。


 兵団長に蹴り飛ばされ、私はアビスゲートに堕ちていく。


 落下の瞬間のこと。


 ──国王。


 ──ガゼル。


 ──マリア。


 その3人は、私を見て笑ったのだ。


 そうか、私を嵌めたのはお前たちだったのか。


 この恨み、地獄でしっかり蓄えて必ず復讐してやる。


 深い深い闇の底、私は深淵へと堕ちていった。


♦︎


 「やっぱり暗いな……」


 落下の衝撃で右腕を骨折した。


 灯一つも無い洞窟で出口を探さなきゃならない。


 どこへ進むべきか。


 私が進んでいるのが前なのか。


 後ろなのかすら分かりはしない。


 食糧だってない。


 持たされたのはナイフ一本だけ。


 自決用かな。


 兵団長もある程度の慈悲はあったんだろう。


 魔獣に殺されるぐらいなら、といったところだろうか。


 生きて帰還したい。


 それだけを考えて道なき道を進むことにする。


 進めるだけ進んだ。


 体力のある限り。


 だけど、運命は残酷だ。


 魔獣と鉢合わせてしまった。


 大型の狼に似た何か。


 牙は鋭く、激しく飢えている様子。


 逃げなければ……。


 考える頃にはもう遅かった。


 魔獣の口は、八つに裂けて大きく広がる。


 私の左腕を丸ごと包み込み、容赦なく噛み砕いた。


 言葉にならない声で叫んだ。


 肉が削ぎ落とされ、骨がゴリゴリと砕ける音。


 正気でいられる訳もない。


 痛みで地面にのたうち回るのが、私の出来る精一杯。


 私の左腕を餌として貪っている隙。


 今しかない。


 全力で逃走する。


 心拍数が上がる。


 止血もしなくては……。


 左腕は魔獣に喰われた。


 右腕は骨折している。


 私は満足に止血すら行えない。


 腕を喰われた時点で私はもう助からないってこと。


 「私……死ぬかもな……」


 独り言を言ってしまった。


 体力も限界だ。


 大量出血で目眩も目立ってきた。


 岩を背もたれにして座り込む。


 意識を失いそうになった頃。


 私の左腕を喰った魔獣が再び現れる。


 流れた血の匂いを追って、ここまで来たんだろう。


 まだ腹が満たされないのかよ。


 魔獣ってのは、随分腹ペコらしい。


 魔獣は再度、口を八つに広げている。


 今度は右脚を一口で包み込む。


 一瞬で脚を噛み砕いた。


 捻り取られる右脚。


 もう叫ぶ気力もなかった。


 このまま私は死ぬ。


 残りの腕や脚もこんな魔獣に喰い尽くされる。


 ただの肉になるんだ。


 何も抵抗出来ない。


 何も成さない。


 復讐すら出来ぬまま。


 復讐の焔が消えかける時──。


 「君……大丈夫か!?」


 知らない男の声がした。


 こんなアビスに人がいたとは驚いた。


 だけど、人がいたところで大したことでも無いな。


 その男も狼の魔獣に喰い殺されるだろうし。


 私の意識が少しずつ薄れていく。


 これが死──なんだな。


 全てを諦めて、私の視界は黒に染まった。


♦︎


 ──目が覚めた。


 私はアビスに落とされたはず。


 気がついたら見知らぬ木造の部屋。


 ベッドで眠っていたみたい。


 「私は死んだはずじゃ……」


 あれはただの悪夢だったのか。


 殺人の冤罪も婚約破棄も何もかも。


 だけど、私の身体が現実を突きつけた。


 ──左腕がない。


 ──右脚も失っている。


 夢でも何でもない。


 私はもう自分で立つことも出来なくなっていた。


 「──クソッ!!」


 自然と涙が溢れていた。


 どういう理由かは分からないけど、決死でアビスを生還したっていうのに、脚まで失っては復讐どころじゃない。


 冤罪を着せられ、裏切られ。


 しまいには、腕と脚を奪われた。


 なんて私は──惨めなんだ。


 もう復讐なんて無理だ。


 いっそのこと、自決用のナイフで首を刺すか。


 少し考えた時、アビスで聞いた男の声がした。


 「──やぁ、やっとお目覚めかなお嬢様」


 「あなた……誰……?」


 「僕はルーカス。素材集めで洞窟にいた者だよ」


 「洞窟ですって!?」


 「そうだよ。それがどうかしたのかい?」


 「あれはアビスよ。ただの洞窟じゃない」


 「もちろん知っているよ。死ぬ人も多いからね」


 「じゃあ、私を助けたのって……」


 「そうだよこの僕だ」


 冴えない男だった。


 とてもあの魔獣を倒せるような容姿なんてしていない。


 一度落とされては、生きて帰れないとされているアビス。


 そのダンジョンを平然と素材集めと言った男。


 もしかして、相当腕の立つ魔法使いだったのか。


 あるいは、戦士ってのもあり得るか。


 只者じゃないと直感で分かった。


 どちらにせよ、私は彼に助けられたのだ。


 お礼ぐらいしなくてはバチが当たる。


 「その……ありがとう」


 「どう致しまして。人殺しアリスさん」


 「──何で私の名前を知っているのよ」


 「貴族の間では有名だよ」


 「やっぱり私は人殺しのままなのね」


 あれだけ大々的に裁判もすれば有名にもなるか。


 知ってて私を助けたのか。


 物好きを通り越しておせっかいな男だな。


 ルーカスと言ったっけ。


 彼も私を人殺しと思っているんだろうか。


 「私が怖くないの?」


 「ちっとも怖くないな」


 「殺人鬼かもしれないのに?」


 「だってアリスは違うのだろう?」


 「……どうしてそう思うのよ」


 「命乞いをしなかったから。それ以外に理由は無い」


 そうだった。


 私は諦めたんだ。


 生きることを。


 復讐することを。


 大切な物を全て奪われた癖に私は全てを諦めた。


 魔獣はそのきっかけに過ぎない。


 私が悪かっただけなんだ。


 そう心に言い聞かせるしかない。


 「信じてくれる人がいるだけ充分だわ」


 「そりゃ……良かったな」


 「ねぇルーカス。お願いがあるの」


 「どうかしたのかい?」


 「──私を殺してくれないかしら」


 もう生きている理由も意味もない。


 どうせなら、私を信じてくれる人が殺してくれるのならさぞ本望だろう。


 人生の幕引きにはちょうど良い。


 せっかく助けてくれて悪いけれど、しょうがない。


 ルーカスなら分かってくれるような気がした。


 こんな無力な女の子に手間を取らせてごめんなさい。


 あなたになら殺されても悔いはないかな。


 なんて自暴自棄にもなる。


 「嫌だよ。助けた意味が無くなるだろ」


 「助けた意味ってなによ」


 「儚くて美しいと思った。それだけだ」


 「何それ……変なの……」


 ルーカスが照れくさそうに誤魔化していた。


 助けてくれた恩も返せないろくでなし。


 死ぬことも叶いはしない。


 やはり自決しかないか。


 悲観してしまう私がいる。


 手持ちのナイフを探すけど見当たらない。


 もしやルーカスが奪ってしまったのか。


 死なせてもくれないらしい。


 私はこれからどうすれば良いんだ。


 足も腕もなく、抗う力もない。


 無力は私は、ただ絶望するしかなかった。


 「ナイフを返してくれない?」


 「いやだね。今の君には返せない」


 「大丈夫よ。すぐ返すから」


 「サクッと死ぬ気だな。なおさら返せないだろ」


 ダメですか……。


 そうですよね……。


 どうも厄介な人に助けられたみたい。


 かと言って私に現場を変える力なんてない。


 結局のところ死ぬしかないんだ。


 「もういいでしょ。死なせてよ……」


 「それはどうして?」


 「だって私には立ち上がる為の足が無いし……」


 「──それで?」


 「抗う為の腕も無い……」


 「──そうか」


 「私の復讐は無力に終わったの……」


 「──終わってしまったのか」


 頷いてばかりいるルーカスにイラッとしてしまった。


 私の気持ちが本当に分かっているんだろうか。


 心が砕け散った。


 地獄のような場所に落とされて……。


 肉を削がれ、骨を潰される。


 拷問の方がはるかにマシだったと言える。


 もう復讐なんてのは、考えるだけ無駄なんだ。


 君は終わったのだと、見えなき宣告者がささやく。


 それだとしても、ルーカスはまだ私に生きろとでも言うんだろうか。


 ──それは、とても意地悪だな。


 「思うことがあるなら言いなさいよ」


 どうせ、私のことなんか興味ないんだろ。


 またテキトーに頷かれるだけのこと。


 「──まるで君は、脚さえあればまだ戦えると言っているように聞こえるよ」


 「え……」


 解決には至らなくとも妙に的を得ていた。


 立ち上がれない言い訳。


 復讐を諦める口実。


 否定しているのは、結局のところ私だった。


 「そう……かもね。言い訳よね」


 「別にアリスを否定した訳じゃない。過酷な環境がそうさせてしまったんだろ」


 「じゃあ、私はどうすれば良いのよ。腕も脚も無い哀れな生き人形でしかないわ」


 「……脚さえどうにかなればアリスは生きられるか?」


 さっきから一体なんだ。


 そりゃ、そうよ。


 復讐を決意する為の脚が欲しい。


 私が私である為に。


 失った幸せを取り返しに駆けて行けるだけの脚。


 だけど、私の脚は回復魔法ではどうにもならない。


 無理な話しなんだ。


 悔しい……悔しいよ……。


 どうにもならないはずなのに、ルーカスの質問の意味が理解出来やしない。


 そうなんだけど、また自然と涙が溢れてしまった。


 私の愚痴ぐらい聞いていけ。


 「私は……復讐に魂を焼き焦がす為の……再び立ち上がる為の……脚が欲しい……」


 「──そうか、少し待っていてくれ」


 ルーカスが席を空けた。


 5分ほどで戻って来たが大きなカバンを携えている。


 何やら自信に満ちている様子。


 一体、何を持ってきたんだ。


 「開けてごらんよ」


 その一言で躊躇しながらカバンを開けた。


 「……これは!?」


 「そう……義足だよ」


 「何でこんな物が……」


 「自己紹介が遅れてたね。僕は国家魔導義肢装具士ルーカスだ。アビスには義足の素材回収に来てたんだ」


 そうだったのか。


 ──脚さえあれば生きられるか。


 その問いの意味を理解した。


 国王の管轄なのがしゃくだけど、藁にもすがるしかない。


 というか、手助けなんてして良いのか。


 反逆行為として立場が悪くなりそうだけど……。


 ルーカスにはルーカスの目的がある。


 そう解釈するしかない。


 「装着してみるかい?」


 「えぇ……」


 ただの義足でないことは分かった。


 魔力を義足に流し込むことで自然な装着感になること。


 大容量の魔力負荷に耐えられなくなったら自動で義足が外れること。


 オーバーフローの安全装置。


 外れないと身体が耐えられないらしい。


 紛れもなく、不自然さも無い立派な脚だった。


 「凄い……何の痛みもなく歩ける!?」


 「そうだろ。世界に一つしかない僕の最高傑作だ」


 「これなら私は……」

 

 「自分の道を歩めるかい?」


 「──もちろんよ」


 「そいつは良かった。ここからが大事なことなんだ」


 「大事なこと?」


 「この義足には奥の手がある」


 「まだ隠し要素があるの!?」


 「義足に魔力を集中させて蹴るだけで大抵の魔獣は討伐可能になる。どれだけ魔力を流すかは自己責任でお願いします」


 「どの程度まで流せるの?」


 「安全装置が付いてるからアリスの魔力量50%ぐらいかなぁ。いかんせん、まだ未知の領域なんだ」


 「もしそれを超えたら……」


 「オーバーフローする。義足が外れるよ。義足が外れるということはその間、アリスは無力な女の子になるって訳」


 外れたら死ぬ可能性がある。


 緊急の時は、覚悟が必要。


 実に私らしいじゃないか。


 復讐を企てる者はそれぐらいの度量がなくては務まらないって訳でしょ。


 戦える力があるだけでもありがたい。


 ルーカスには驚かされてばかりだ。


 アビスに平然と出入り出来るほどの実力者。


 本職が義肢装具士。


 いくら感謝しても足りないぐらい。


 「さぁ、アリス・ローゼンよ。絶望に抗う為の脚を得た。君はその力でこれからどうするんだい。何を成したい?」


 魔法を使うことも出来ない無能な私。


 アビスでは本当に無力だった。


 最愛の人、幼馴染からの裏切り。


 全てを失ったかに思えた。


 私は再び立ち上がることが出来たんだ。


 失ってから分かることもあると知った。


 だからこそ、私が成せばならぬこと。


 それは、全てを灰にするほどの復讐。


 せっかく、あの過酷な地獄を這い上がってきたんだ。


 私を嵌めた奴らは、全て同じ目に合わせてやる。


 これは私の人生を賭けた戦い。


 もう二度と惨めな思いをするのはごめんだ。


 私は悪くない。


 私を狂わせたのはお前たちじゃないか。


 だからこそ、この義足をくれたルーカスに報いたい。


 ルーカスの問いに応えよう。


 ──裏切りの婚約破棄に復讐を。


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