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綻びの鈴が鳴る村で  作者: まなと
鈴隠し編

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3/4

山鳴りの鈴が呼ぶ頃に

翌日の昼。


昼休みのチャイムが鳴り終わると、窓際の席に四つの机が自然と寄せられていた。


中央には小野原律。その両脇を宮下真琴と篠宮みおが挟み、少し離れたところに、桑田隼が椅子を逆向きにして跨っている。


夏前の教室は、まだ湿気も少なく、どこか浮き足立った空気に満ちていた。


「……だからさ、今年の巫女舞、やっぱ私がやるべきだと思うんだけどなぁ」


真琴が箸をぱちんと鳴らして言う。

みおはお弁当の蓋を押さえながら、小さく笑った。


「えー……私もちょっと興味あるよ? 衣装とか、着てみたいし」


「それな、俺も着てみたい」


律が間髪入れずに言うと、真琴は呆れたように手を振った。


「男子は男子でやればいいじゃん! 私は神聖な舞のほうやりたいの!」


「舞ったところで、おまえ絶対転ぶだろ」


桑田の冷たい一言。


「なんであんたそういうこと言うかなぁ!」


真琴は頬を膨らませ、すぐに反撃する。


「そっちこそ、毎年“資料係”で飽きないの?」


「飽きるとかの問題じゃない。歴史的に重要な儀礼なんだ。記録を残すのも、立派な役割だろ」


「相変わらず堅物だねぇ」


律が笑い、真琴もつられて吹き出す。


そのやり取りを、みおは静かに眺めていた。


おにぎりを一口。

麦茶を一口。

いつも通りの昼休み。

いつも通りの四人。


――なのに。


胸の奥に、小さな違和感が沈んでいる。

重たい何かが、山の向こう側からこちらを見ているような感覚。


幼いころ、研究所跡で拾った赤い破片。

そして、最近になって夢に現れるようになった音。


――鈴の音。


「……そう言えばさ」


不意に、律が言った。


「最近、鈴の音、増えてない?」


真琴と桑田が同時に顔を上げる。


「音? ああ、先生も朝礼で言ってたよね。祭り前だから“清めの鈴”の点検するとか」


「正式には神楽鈴だな」


桑田が頷く。


「村の各所に設置してるらしい。昔はもっと数が多かったって、爺さんが言ってた」


「へぇ〜。なんで今さら?」


律が首を傾げる。


その時、みおの口が、自然に動いていた。


「……なんか、ちょっと怖いよね」


自分でも驚くほど、声が細かった。

三人の視線が集まる。


「怖い? どういう意味?」


律の表情が、少し真面目になる。

みおは一瞬迷い、すぐに笑った。


「いや、なんとなく。最近ちょっと寝不足でさ。夢、変なのばっかり見て」


「それ、普通に体調悪いやつじゃん」


桑田が言うと、真琴が身を乗り出した。


「みおちゃん、大丈夫? 無理しちゃダメだよ?」


「うん、平気」


笑って答える。

麦茶を飲む。

冷たいはずなのに、体の奥がじんわり熱い。


その時――


チリン。


風に混じって、かすかな音がした。

澄んだ、細い金属音。

四人の会話が、同時に止まる。


「……今の」


律が立ち上がる。


「聞こえたよね?」


真琴も周囲を見回す。


「清めの鈴……かな?」


自信のない声。

桑田が眉をひそめた。


「この時間に? しかも校舎裏の方からだぞ」


彼は窓へ歩き、カーテンを開く。

律も隣に並ぶ。


「……山の方だ」


二人の視線の先。

濃い緑の稜線の奥。


その一角に、戦時中の研究所跡地がある。

みおは、立ち上がれなかった。

耳の奥で、音が大きくなる。


チリン。


チリン。


チリン。


まるで、すぐ後ろで鳴っているみたいに。

背筋に冷たいものが走る。


(……同じだ)


あの日。


あの山で聞いた音。


(やっぱり……)


胸の奥で、確信が形になる。


(あれは、私を呼んでる)

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