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綻びの鈴が鳴る村で  作者: まなと
記憶返し編

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17/17

九年前 ― 六歳の夏

蝉の声が、空を軋ませていた。


山あいの村は、夏だけ少しだけ騒がしくなる。

石段の手前を、三人の子どもが歩いていた。

小野原律、六歳。


先頭を行く。

日に焼けた腕をぶんぶん振り回し、振り返る。


「ちゃんとついてこいよ。迷子になるなよ?」


声変わりもしていないくせに、言い方だけは大人ぶっている。


宮下真琴がくすりと笑う。


「りっちゃんこそ、転ばないでよー?」


明るい声。

けれど笑いながらも、ちらりと山の奥を見る。

桑田隼は最後尾で、虫取り網を肩にかけたまま空を見上げていた。


「今年、山は立入禁止だって」


「なんで?」


律が振り向く。


「こっそり聞いたんだけど、研究所があるらしいよ。危ないからって」 


研究所。

意味は分からない。

だが、響きだけが少し格好よかった。

律は鼻を鳴らす。


「へーん。危なくなんかねーよ。俺がいるし」


胸を張る。

真琴がまた笑う。

隼は何も言わず、石を蹴った。


そのとき。

山道の入り口に、小さな背中があった。


白いワンピース。

風に揺れる長い髪。

見たことのない子だった。


少女は迷いなく、立入禁止の札の向こうへ足を向けている。


律の足が止まる。

喉が、からりと乾いた。

理由はない。


けれど――一人で行かせてはいけないと思った。


「おい!」


声が少しだけ裏返る。

少女が振り向いた。

透き通るような目。

瞬きが、やけに遅い。

風が吹く。

蝉の声が、一瞬だけ途切れた。


「どうしたんだ? 一人で山に登るのか?」


できるだけ落ち着いた声を出す。

少女は律を見つめる。

じっと。

じっと。

それから、こくりとうなずいた。


「……うん」


迷いがない。

そこへ行くのが、決まっているみたいに。

真琴が袖を引く。


「りっちゃん、だめだよ。あっち、入っちゃいけないって」


隼も言う。


「やめたほうがいいと思う」



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