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綻びの鈴が鳴る村で  作者: まなと
鈴隠し編

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13/17

鈴が告げる順番

夕闇が村を包みはじめた頃。


山口刑事は、村役場裏の細い道に立っていた。

目の前には、佐伯正弘――鈴ノ木村の村長。


柔らかな笑みを浮かべ、いつも通り穏やかな声で話している。 


「刑事さん。村は小さい。噂はすぐ広がります、あんまりしつこいと、ねぇ」


山口は腕を組んだまま、視線を逸らさない。


「だからこそ、隠しきれない」


「隠す、とは?」


「平成の初めから続いている不審死。全部“事故”か“自殺”で処理されている」


空気が冷える。


「偶然にしては多すぎる」


佐伯は微笑みを崩さない。


「山は危険ですよ。昔から」


「それにしては、時期が揃いすぎている」


山口の声は低い。


「鈴祭りの一週間前」


一瞬だけ、佐伯のまばたきが遅れた。


「……それは偶然でしょう」


「上から圧がかかっている。俺はそう見ている」


沈黙。

遠くで、カラスが鳴いた。


「刑事さん」


佐伯は一歩近づく。


「村には、村の守り方があります」


柔らかな声音。

 

だが、そこに含まれるものは温度を持たない。


「守るために、見ないほうがいいこともある」

 

山口の眉がわずかに動く。


「俺は警察だ」


「ええ、承知しています」

 

微笑みはそのまま。


「だからこそ、深入りなさらないほうがいい」

 

その言葉は、忠告にも、警告にも聞こえた。

山口は視線を外さず言う。


「俺は独自に調べる。五年前どころじゃない。もっと前からだ」


 佐伯の笑みが、ほんの少しだけ薄れた。


「……祭りは、滞りなく行われます」


 それだけ言って、村長は背を向けた。

 その背中を見つめながら、山口は小さく呟く。


「何を守ってるんだ、あんたは」


 山から、かすかな鈴の音が聞こえた気がした。



 家に戻っても、みおの胸のざわめきは消えなかった。

刑事の言葉。

平成初期から続く事件。

警察内部の圧力。

五年前どころではない。

 

この村は、長い時間をかけて何かを隠している。

静かな家の中で、その思考だけが大きくなる。

 

ふと気づく。

洗濯物を取り込んでいない。

二階の自室に上がり、カーテンに手をかける。

何気ない動作だった。


シャッ、と音がして、夜の庭が現れる。

 

最初は、影にしか見えなかった。

物干し竿の下に、黒い塊。

 

……椅子?

 

その上に、誰かが座っている。


誰かが、いる。


思考が追いつかない。


月が雲間から顔を出す。

 

青白い光が、庭を照らす。


はっきり見えた。


椅子に固定された男。

 

両手は後ろで縛られ、足も拘束されている。


頭は力なく前に垂れ、微動だにしない。


 佐伯正弘。


 村長。


 昼間、穏やかに微笑んでいた顔。


 それが今、命の気配を失っている。

 衣服は乱れ、強い力を受けた痕跡が残る。

 自らそうなった姿ではない。


 他殺。


 その二文字が、ゆっくりと脳裏に浮かぶ。

 どうして。


 どうして、ここに。


 なぜ、私の家の庭。


 見せしめ?


 警告?

 それとも。


 ――選ばれた。


 心臓が跳ね上がる。


 喉がひりつく。


 足が震える。


 チリン。


 どこからか、鈴の音がした。


 風はない。


 庭は静まり返っている。


 虫の声も止んでいる。

 世界が、息を止めている。


 みおは後ずさる。

 視線を逸らせない。

 村の頂点だった男が、今、彼女の庭に座らされている。


 まるで――


 次はお前だ、と告げるように。

 チリン。

 再び、鈴が鳴った。

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