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綻びの鈴が鳴る村で  作者: まなと
鈴隠し編

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11/17

五年目の沈黙

翌日の朝。


教室は、静かだった。

誰も騒がない。

椅子の脚が動く音さえ、どこか遠慮がちに響く。

篠宮みおは席に座り、周囲を見回した。

窓の外では、春の光が校庭を照らしている。

なのに、この教室だけ、空気が重い。


律が死んだ。


その事実だけが、言葉にされないまま、全員の間に置かれていた。

前の席で、宮下真琴が机に両手をついたまま動かない。

肩が、わずかに震えている。


「今年は、律が……」


掠れた声だった。


「また、誰かいなくなるのかと思うと……」


「やめろ」


隼の声が、低く落ちる。


「そういうの、やめてくれ」


真琴が顔を上げた。目が赤い。


「だって……今年で五年目だよ」


数人が、びくりと肩を揺らした。


「その前だって――」


「違う」


今度は、はっきりした声だった。


「あれは事故だ。それ以上でも何でもない」


真琴が睨む。


「本当にそう思ってるの?

毎年、同じ時期に誰か死んでるのに?」


誰も、動かなかった。

隼は歯を食いしばる。


「……やめろって言ってるだろ」


「怖くないの?」


返事は、少し遅れた。


「俺だって、怖いよ」


机を叩く音が、乾いて響く。


「でも今、そんな話するなよ……」


それきり、教室は沈黙した。

みおの指先が、机の上で冷たくなる。


五年目。


毎年、同じ時期。

事故――?

胸の奥が、じわりと冷えた。

おそるおそる、口を開く。


「……どういうこと?」


二人の視線が向く。


「五年前からって、何があったの?」


真琴が、はっとする。

少し迷い、声を落とした。


「みおちゃんは、知らないよね、最近引っ越してきたもんね」


小さく息を吸う。


「鈴ノ木村は、ずっと――」


ガラッ。


扉が開いた。

全員の視線が、そちらへ向く。

田辺先生だった。

教室の空気を見て、表情がわずかに硬くなる。


「席につけ」


静かな声だったが、誰も逆らわない。

真琴は口を閉じ、隼は目を伏せた。

先生は教壇に立ち、少し間を置く。


「……昨日の件についてだが」


誰も息を立てない。


「学校として、詳しい説明はできない」


視線が教室を一周する。


「憶測や噂を広げないように。いいな」


その言葉のあと、すぐに出席簿を開いた。

チョークの音だけが、教室に残る。

みおは、真琴を見る。

もう、何も言う気配はない。

隼も、前を向いたまま動かない。


――止められた。


そのとき、また幼い頃の思い出がよみがえった。

研究所跡での出来事。拾った美しい欠片。


でもどうして、あんな光景が頭に浮かんだ?


崩れた建物。

山の奥。

光る欠片。

鈴の音。

考えて、そして気づく。


――おかしい。


私は、この村に来たのは数ヶ月前だ。

山に入ったことなんてない。

まして、あんな場所、見たこともないはずだ。

研究所なんて、知らないはずだ。


それなのに。


あの光景は、まるで――

自分の記憶みたいだった。

みおは小さく息を呑む。


(……どうして)


そして、心の奥で、言葉が浮かぶ。


――初めて来た、はずなのに。


教室の窓の外では、春の光が変わらず降り続いていた。

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