照れたら負けゲーム《シオン&シュゼル+ヘリオス》
最後の標的はシュゼルです。
シオンはヘリオスにおすすめの本を渡そうと部屋を訪れたが、ちょうどウィスカと甲板に行っているらしく不在だった。
部屋に残って剣の手入れをしていたシュゼルから簡潔に伝えられ、シオンは残念そうに近くの椅子に座る。
「すぐ戻ってくるだろうし、待ってていい?」
「構わない」
本を開いて待とうとしたが、何となく集中できない。
ふと視線を上げると、シュゼルの姿が目に入った。
(……本当に、恐ろしく整ってるわよね)
今まで様々な人と会ってきたが、ここまで洗練された人間は見たことがない。
顔立ちだけでなく、雰囲気も所作も気品に溢れている。
平民を装っていることが逆に不自然に思えるほどだった。
シオンの存在を気にすること無く作業を続ける横顔を見て、ふと思う。
彼は常に冷静沈着で、滅多に感情を動かさない。
ヘリオスに対してだけは妙に過保護だが、他の人に対しては冷たい印象すら感じた。
嫌っているのではなく、基本的に「興味がない」という態度だ。
だからだろうか。
「……一番想像できないのよね」
独り言のつもりが、シュゼルの耳に届いたらしい。視線が向けられる。
「何がだ?」
「あんたって照れたりするの?」
唐突な問いに首を傾げ、淡々と返す。
「私にも感情はある。だが、そのような状態になった記憶はあまりない」
「自分を客観視しすぎなのよ」
「そう感じるのなら、そうなのだろう」
(……やっぱり淡々としてる)
彼の自己評価は、常に他人から見たような客観的な意見が多い。
自意識というものがあまりないのかもしれない。
考えてみれば、誰もが見惚れるようなその容姿にさえ、自分では興味がないようだった。
「照れさせるゲームで絶対負けなさそう」
「全く意味がわからないのだが」
「まあ、そうよね」
軽く肩をすくめながら立ち上がり、シオンは彼を正面から見つめた。
不思議そうにしながらも、シュゼルは目を逸らさない。静かな視線が絡む。
(……近くで見ると、本当に反則級ね)
透き通るような青い瞳はまったく揺らぐこと無く、ただシオンに向けられている。
その容貌を、改めて間近で眺めてしまったことに、今更後悔が押し寄せてきた。
じわじわと頬に熱が集まり始めたシオンに、シュゼルが口を開いた。
「……何故君が赤くなっている?」
無表情のまま指摘され、シオンは慌てて距離を取る。
「な、何でもないわよ!あんたの顔が無駄に良すぎるからでしょ!?」
「それは褒めているのか? 怒っているのか?」
「冷静に質問しないで!」
「……えっと、何事?」
散歩から戻ってきたヘリオスが首を傾げた。
そこには真っ赤になって声を荒げるシオンと、平然としたシュゼル。状況がまるでわからない。
「……何でもない」
シオンが深く溜め息をつく横で、シュゼルは「おかえり」と穏やかに言った。
その表情は先ほどまでの無表情と違い、柔らかい。
(……やっぱり、ヘリオス相手にしか感情が出ないのね)
先ほど見かけた、珍しい鳥の話を楽しげに語るヘリオス。
それを優しい顔で聞くシュゼルを見て、シオンは小さく呟く。
「……ヘリオスなら照れさせられるのかしら」
「何言ってんだ?」
横で毛づくろいをしていたウィスカが首を傾げる。
シオンが事情を説明すると、ウィスカはふっと笑った。
「簡単だな。ちょっと見てろ」
「え?」
ウィスカはヘリオスの膝にひょいと乗る。
ヘリオスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその頭を撫でながら聞いた。
「どうしたの?」
「お前、シュゼルのことどう思う?」
唐突な問いかけに、ヘリオスは目を瞬かせながら答える。
「どうって……すごく頼りになると思ってるよ。頭いいし強いし優しいし。剣を振る姿なんて、無駄がなくて綺麗で、見惚れるくらい——」
「ヘリオス、……もう十分だ」
止めに入ったシュゼルは俯き、顔を腕で覆う。
頬も耳も真っ赤に染まり、今にも湯気が出そうだった。
「……さすがだわ」
「何が?」
無自覚なヘリオスに、シオンは乾いた笑みを浮かべた。
(これは……人に見せちゃ駄目なやつね)
静かに本を渡して部屋を出る。
珍しいものを見てしまった、と少し楽しみながら、シオンは心の中で結論を下した。
「……破壊力が強すぎる。国一つ落ちそうよ」
「照れたら負けゲーム」シリーズはキャラごとの独立したお話なので、導入が似ている部分もあります。
でも、それぞれの個性や関係性の違いが出ると面白いかなと思って書きました。
・ベルナルド編:余裕状態から、まさかの反撃を喰らう(ヘリオスは巻き込まれ役)
・ノクス編:自爆気味に照れて、最後はベルナルドに掻っ攫われる
・シュゼル編:まったく動じない無表情から、ヘリオスの天然爆弾で撃沈
三者三様の“照れポイント”を楽しんでもらえたら嬉しいです。




