照れたら負けゲーム《シオン&ノクス+ベルナルド》
前の話とは独立してます。
ノクスが定期報告の書類を書き上げて、一息ついていた時。
不意に扉が叩かれ、簡潔に返事をするとシオンが顔をのぞかせた。
「あれ、あんた一人?」
「あの銀髪野郎なら朝からいねぇぞ。つーか部屋にいることの方が少ねぇ」
ノクスの言葉に、シオンは少し困ったように言う。
「この間の情報について確認したかったんだけど。……まあいいわ、急ぎじゃないし」
「首輪でも付けとけよ」
「喜びそうだから嫌」
即答するシオンに、ノクスは眉をひそめた。
「……お前はあいつを何だと思ってだ」
「変態」
ひどい言われようだが、突っ込むのも面倒で口をつぐむ。
たしかにベルナルドならば、シオンの反応を楽しむためなら何でもやりそうだ。
首輪だって例外じゃない。その後、慌てて外そうとするシオンの姿まで簡単に想像できてしまう。
(馬鹿馬鹿しい……)
くだらない光景を思い浮かべてしまったことに自己嫌悪しつつ、ふと視線に気づいた。
目当ての人間はいなかったはずなのに、なぜまだいるのだろう。
「ねえ、照れたら負けゲームって知ってる?」
唐突すぎる問いかけに一瞬言葉を失い、すぐに顔を顰めた。
「……何だよその訳わかんねぇゲームは」
「どんな方法でも、相手を照れさせたら勝ち」
「ルールは聞いてねぇ。それがどうしたのか聞いてんだ」
シオンは肩を竦める。
「この間行った街で聞いたのよ。私は予定がなくなっちゃったし、あんたも暇そうだったから」
「暇人扱いすんな」
「ちなみに、あんたって照れたことあるの?」
そう言って距離を詰めてくるシオンに、ノクスの心臓が跳ねる。
「!? お、おい、近ぇ……っ」
「質問に答えてよ」
「き、記憶にはねぇな……」
裏返りそうになる声を抑えつつ、視線を逸らす。
至近距離の熱に、顔が火照るのを自覚する。
「? 何で赤くなってるの?」
不思議そうに指摘され、ノクスは反射的に睨み返した。
「なってねぇよ!いいから離れろチビ女!」
「は!?チビって失礼じゃない!?あんたこそ男の中では背が低いくせに!」
「う、うるせぇ!とにかく離れろ……」
段々と声が小さくなり、下を向くノクス。
その様子に、シオンは目を細めた。
「……まさかと思うけど、照れてた?」
「!?」
肩がビクリと震える。否定が出てこない。
「やっぱり。……あんまり女の子と話したことないとか?」
「……黙ってろ……」
「わかる気がする。いつも無愛想だし目つき悪いし、怖がられそうよね」
「だ、か、ら!なんでさっきより近いんだよ!?」
距離を詰められるたびに焦りが募る。
迫力に欠ける怒鳴り声を上げるノクスに、シオンは楽しそうに笑った。
「反応が面白いから」
その一言で、ノクスの中で何かが切れる。
「好き勝手言いやがって……覚悟はできてんだろうな」
「え?」
小さな呟きに首を傾げるシオン。
次の瞬間、顎に手が添えられ、顔が一気に迫った。
「!?」
額が触れそうな距離に、シオンは固まった。
視線を絡めたまま、ノクスは低く囁く。
「……こんな距離じゃ、事故が起きても文句言えねぇよな?」
「え? は?? ちょ、何言って……」
小さな声なのに、吐息がかかる。
さすがのシオンも身体が硬直し、触れそうになる——その刹那。
「はーい、そこまで」
明るい声と共に、シオンの身体が後ろに引かれた。
彼女を腕の中に収めたのは、いつの間にか現れたベルナルドだった。
「あんた、いつから……」
「少し前から。駄目だよシオン、俺以外の男に顔近づけちゃ。何されるかわからないんだから」
言いながら、耳元に唇を寄せる。
シオンは慌てて腕から逃れようとするが、不思議と解けない。
「……あんたより危険な奴なんていないと思うけど」
「いやいや、男なんて皆同じだから」
「テメェと一緒にすんな」
既に平静を取り戻したノクスが、鋭い視線をベルナルドに向けた。
だがベルナルドは動じない。不敵に笑みを浮かべたまま。
「お前さんが言う?さっきシオンにあんな事しようとしておいて」
「……本気でするわけねぇだろ。そんなガキみてぇな奴に」
からかいの仕返しに過ぎないと、吐き捨てるように付け加える。
失礼な物言いにシオンは言い返しかけたが、発端が自分だとわかっているのか唇を噤んだ。
「シオンは十分魅力的だけどなぁ。ま、それならそれでいいけど」
「……そんなことより。帰ってきたなら聞きたいことあるから、ちょっと来て」
シオンはベルナルドの腕からようやく逃れると、彼を連れて早足で部屋を出ていく。
残されたノクスは頭を抱え、深く息を吐いた。
(……マジで何してんだ俺は……)
バカか俺は。考えるな。
あいつの顔なんか、これ以上思い出すんじゃねぇ……!
からかわれて、ムカついただけだ。
なんとも思ってない、好みでもない。——手なんて、出すはずがないだろ。
からかわれすぎると、たまにスイッチが入るタイプです。
普段は冷静そうに見えても、意外と感情が顔に出やすいので。
ちなみにノクスの身長は170cm。
この世界では標準的なのですが、他のメンバーが軒並み高いせいで低めに見られがちです。
……本人はかなり気にしてます(笑)




