照れたら負けゲーム《シオン&ヘリオス&ベルナルド》
変わったゲーム知識を得てきたシオン。
巻き込まれるヘリオスと、巻き込まれに来たベルナルド。
「照れたら負けゲーム、って知ってる?」
昼下がりの談話室。
何となく一緒におやつを食べることが習慣化しているヘリオスに、シオンは問いかけた。
「……聞いたことないけど」
「この間行った街でやってる人たちがいてね。言葉でも行動でもいいから、相手を照れさせた方が勝ちらしいの」
随分変わったゲームだと思いつつ、ヘリオスは焼き菓子を口に運ぶ。
ふと、妙に視線を感じた。顔を上げると、シオンがじっと見つめてきている。
「……どうかした?」
「ヘリオスって、やっぱりかっこいいわよね」
その瞬間、咽た。
口元を抑えるヘリオスの頬が、ほんのり赤い。
「な、何、突然……」
「まあ、どちらかと言えば可愛いけど。それで、こんな風に照れさせればいいんだって」
急に試さないでほしい……と思いながら、ヘリオスは水を飲んで落ち着く。
「かっこいいのも嘘じゃないわよ?」
「……あ、うん。ありがとう」
「何か面白そうなことしてるね」
突然横から聞こえてきた声に、二人は同時に振り返った。
いつの間にかベルナルドが椅子に腰掛け、笑顔でこちらを見ている。
「いつからいたのよ」
「今さっき?」
(何でいつも気配がないんだろう……)
ベルナルドの登場はいつも神出鬼没で、まるで気配を感じさせない。
気配に敏いはずのヘリオスですら、気づけたことはなかった。
そんな彼のことなどお構いなしに、ベルナルドはシオンへと視線を向ける。
「金髪くんも簡単に照れたけど、シオンだって弱そうだよね」
「どういう意味よ……」
「すぐ照れるから」
楽しそうに語るベルナルドに、シオンは思い切り眉をひそめた。
「照れた覚えはないわ。呆れた記憶ならあるけど」
「ふ〜ん?」
ニヤニヤ笑いながら、ベルナルドはシオンに顔を近づける。
怪訝そうに睨み返す彼女に、耳元でそっと囁いた。
「——可愛い」
その瞬間、シオンの顔が耳まで真っ赤に染まる。
声も出ず、咄嗟に耳を押さえ身を引いた。
「ほら、真っ赤」
「……う、うるさい!耳元は反則よ!?」
「でも前は、同じことしても顔色変えなかったよね?」
思い返せば、ベルナルドが船に来たばかりの頃も同じように口説かれていた。
その頃は一切顔色を変えなかったが……今は違う。
「意識してくれるようになって、嬉しいなぁ」
「違うって言ってるでしょ!?もう出てってよ!」
「はいはい、それじゃまた後でね」
楽しそうに手を振って、ベルナルドは談話室を出ていった。
(僕がいること、忘れてないかな……)
その背中を見送りながらヘリオスは思う。多分、わざとだろう。
というか、気にもしていない。
机に突っ伏したシオンが、大きくため息をついた。
「……むかつく。そういえば、あいつが照れたところ見たことないわ……」
ポツリと呟くと、ヘリオスは少し考えて答える。
「案外、船長が本音を言ったら照れるんじゃないかな」
「……私の本音?何よそれ」
「本当に思ってること?」
「いや、言葉の意味を聞いたんじゃないから」
天然の返しにもう一度ため息をつき、シオンは思った。
——もしそれで照れなかったら、私の言い損じゃない。
あの飄々とした男が照れる姿なんて想像できない。
でも。少しだけ見てみたい。
「……ちょっと、行ってくるわ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
意を決したように立ち上がるシオンを、ヘリオスは見送った。
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甲板へ出ると、ちょうど船尾でのんびりしているベルナルドの後ろ姿を見つける。
「あれ、どうしたの?もう俺が恋しくなった?」
さっき会ったばかりだというのに、嬉しそうに迎えられ、シオンは呆れ顔になる。
——普段の軽口では、やっぱり照れない。
さっきは不意を突かれただけだと自分に言い聞かせる。
少しだけ呼吸を整えると、シオンはベルナルドの服の裾を軽く引いた。
「シオン?」
いつもと違う様子に気づいたのか、ベルナルドが首を傾げる。
彼女は下を向いたまま、躊躇いがちに口を開いた。
「……二度と、勝手にいなくならないで。……ちゃんと側にいなさい」
ずっと心にしまっていた言葉だった。
言ってから我に返る。
(……って、ゲームのために何で私は本気になってるの!? 困らせるだけじゃ……)
慌てて顔を上げた瞬間、固まった。
ベルナルドが後ろを向き、手で顔全体を覆っている。
わずかに覗く耳が——赤い。
「………え?」
「待って、それは反則すぎる……。ごめん、手離して」
震えるかすれ声に、シオンは呆然と見上げる。
しかし、掴んだ裾を離す気にはなれなかった。
「嫌。こっち向きなさい」
「無理。今顔見せられない」
あっさり断られ、逃げようとする。
今度は両手でしっかり掴む。
「ずるいじゃない!いつも私に恥ずかしい思いさせてるくせに!いいからこっち向きなさい!」
「ちょ、まじで勘弁して!?どんな顔してるか俺もわかんないんだから!」
「照れてるってことでいいの!?」
珍しく焦りきった様子に、シオンは逃がすまいと念を押す。
ベルナルドは振り返れないまま、叫ぶように返した。
「何か今日しつこくない!?これ以上引っ張ると襲うよ!?」
「出来るもんならやってみなさいよ!こっち向かないと無理なんだからね!?」
「え、襲っていいの!?待って究極の選択すぎるんだけど!?」
顔を隠したまま混乱するベルナルドと、譲らず食い下がるシオン。
どちらもテンパっていて収拾がつかない。
その様子を、見張り台からウィスカが眠そうに見下ろす。
「……何やってんだ、あいつら」
あくびをひとつ。
アホらし、とどうでも良さそうに伸びをすると、見張り台を降りヘリオスのもとへ戻っていった。
ヘリオスとシオンは、船員の中で唯一甘いもの好きなのです。
そのため、自然とおやつの時間を一緒に過ごすようになりました。
気づけば談話室で顔を合わせるのがすっかり日課になっていて、今回の小話の舞台もそこから来ています。
このあと二話このゲームネタを更新予定ですが、それぞれの話は独立しています。




