【おまけ】ノーカウントだろ
ノクスの独白。
あの「女みてぇな顔」発言に隠された、本人も認めたくない動揺の理由です。
王弟の子供って身分のせいで、行きたくもねぇ社交場に連れ回されることが多かった。
令嬢?成人した女?いたよ、山ほど。
……でも一度だって"可愛い”なんて思ったことはねぇ。
着飾って、作り笑いして、媚売って。
……あんなもん"可愛い”か?冗談じゃねぇ。
周りが「まあ可愛らしいお嬢様!」なんて騒いでても、俺は「はいはい」って挨拶だけして帰ってた。
どうせ俺に寄ってくる女なんていねぇし、こっちだって願い下げだ。
縁談?来るわけねぇ。
……いや、身分はあるから可能性はゼロじゃねぇか。
ーー嫌だろ、そんなの。
俺も嫌だけど、相手だって絶対嫌に決まってる。
だから思ってたんだよ。
"可愛い”なんて感情、俺には一生関係ねぇって。
……はずだったのに。
アリウスの従者になることになって、離れの塔に行った時。
アリウスの手を突っぱねた俺に、いきなり文句つけてきた奴がいた。
一瞬で、目を奪われた。
見た瞬間、頭が真っ白になった。
いやいやいや!なんでだ!?
笑ってもねぇし、むしろ怪訝そうだぞ!?
なのに、瞳も眉も鼻筋も、整いすぎてて……
ーー不覚にも、"可愛い”とか思っちまった。
待て待て待て。落ち着け俺!
声はちょい高ぇけど、喋り方も仕草も普通に男だ。
俺にそういう趣味はねぇ、絶対に。
でも頭に浮かんじまったんだよ、その言葉が。
だから慌てて言い聞かせた。
「こいつは噂に聞いたクソめんどくせぇ従者だ」ってな。
あえて口にすれば、また険悪になる。 だが、それでいい。
勘違いは勘違いのまま終わらせろ。
……って思ってたのに、だ。
よりによってその相手から「お前は不機嫌そうだ」「目付きが悪い」なんて突っ込まれて、つい口が滑った。
「女みてぇな顔したやつに言われたくねぇ」ってな。
うわあああ!!俺、何言ってんだ!?
今のでバレるだろ!?俺があの時思っちまったこと……!
やべぇやべぇやべぇ!!
……と思ったら、斬りかかってきただけで済んだ。
いや済んでねぇだろ!本気で命狙われたわ!!
バレちゃいねぇが、違う意味で危ねぇ!!
しかもそこへアリウスが現れて、さらっと爆弾落としていきやがった。
「シュゼルの顔ってすごく綺麗だよね!初めて見た時、女の子かと思ったし」
おいおいおいおい!?それ俺が命がけで隠してたやつ!!!
だが予想に反して、シュゼルは真っ赤になって逃げていった。
……何でだよ。俺の時は斬りかかってきただろ!?アリウスには照れてんのかよ!?
まあでも、俺だけがそう思ったわけじゃねぇってのは分かった。
誰だって同じこと思うならノーカンだろ。ノーカンだよな?……セーフ、のはずだ。
ーーちなみにその後も社交場で会った令嬢たちは、やっぱり可愛いとは思えなかった。
比較してるわけじゃねぇ、……たぶん。
いや、絶対に……きっと!
ノクスがシュゼルの顔にやたら突っかかるのは、一瞬でも「可愛い」と思ってしまった自分に混乱しているせいです。
シュゼルは幼少期、少女と見間違うほどの儚げな美少年(ただし中身は武芸も精神も強靭)だったので、ノクスがそう感じたのもある意味自然な反応かもしれません。
とはいえ、本当に「女の子」として可愛いと思ったのはシオンが初めてで、こっちが正真正銘の初恋ですね。
……ちなみにノクスの心の声は、見えている部分の3倍うるさいです。




