恋人ってなにするの?《後編》
甲板に出たシオンは、手合わせをしているシュゼルとカルロを見つけた。
カルロから強いとは聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。
(……やっぱり、シュゼルって規格外ね)
筋肉質なカルロの大剣を、細身のシュゼルが涼しい顔で受け止めている。
剣筋は恐ろしく速く、しかも本気を出していないようにすら見える。
カルロの額に汗が浮かぶ一方で、シュゼルは表情ひとつ変えなかった。
やがて二人は剣を収め、休憩に入ったらしい。
聞きづらいとか困るかもとか、既に気にしていないようだ。
シオンは迷いなく近寄り、切り出した。
「二人に聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
首を傾げるカルロと、視線を向けるシュゼル。
シオンは少しも躊躇せず問いを放った。
「恋人がキスの後にすることって、何なのかしら」
カルロは盛大に柱に頭をぶつけ、シュゼルはわずかに眉を寄せた。
「……何故そんなことを」
「ちょっと気になっただけよ。ヘリオスは教えてくれなかったし」
「彼に何を聞いているんだ……」
ヘリオスが真っ赤になって困り果てる様子を想像したのか、シュゼルは額を押さえる。
「それは婚姻関係にある男女が気にすることだ。気軽に異性と話す内容ではない」
「そんな先の話なの?」
「……それは、飛び過ぎかもしれないが……」
カルロが慌てて口を挟んだ。
「とにかく、男に聞くもんじゃないと思うぞ」
「でも船には男ばかりじゃない」
シオンの正論(?)に、カルロはぐっと詰まる。
唯一の同性であるルナリアは年下で、そのような知識があるとは思えない。
だがそういう問題でもない。
「じゃあ、そういう知識って普通はどこで知るの?」
「一定の年齢になれば、教わるものではないのか」
さらりと言ったシュゼルに、カルロが思わず突っ込む。
「教わるって……何をどう教わるんだ!?」
「どうも何も、跡継ぎを設けるための知識を座学で習うだろう」
「いや普通ないからな!?そんなの習うとしたら、貴族くらいだろ……」
真顔で的外れをかますシュゼルに、カルロは深いため息をついた。
「でもつまりは、子どもを残す方法ってこと?恋人でもするの?」
シオンの直球に、カルロは言葉を失う。
その時――。
「……真っ昼間から何の話してんだよ、テメェらは」
偶然甲板に出てきたノクスが、呆れたように眉をひそめた。
「この際あんたでもいいから教えて」
「この際ってなんだよ!つーかマジで何の話だ」
「恋人がキスの次にすること?」
ノクスは目を見開き、そのまま船柵に額を打ち付けた。
「……これって、頭打つ話なの?」
「そういう意味じゃねぇ……」
「じゃあどういう意味?」
ズレた発言に思わず突っ込むノクス。
それでも食い下がるシオンに、段々顔が赤くなっていく。
「と、とにかく聞こうとすんな!答える奴なんかいねぇからな!?」
「……もしかして、あんたも知らないんじゃ……」
「ああ!?知ってるに決まってんだろ!」
言い返してから固まる。
「知ってるならいいじゃない、教えてくれても」
「うるせぇ!……聞いて後悔すんのはそっちだからな」
深いため息を吐き、ちらりと背後を見ると——カルロもシュゼルも、いつの間にか消えていた。
(……置いていきやがったな)
ノクスはさらに迷った末、吐き捨てるように言った。
「……マジで知りたきゃ、あの銀髪野郎に聞け」
「は!?なんであいつなのよ!」
「本人に聞けって言ってんだ!他の男のために教える気なんざねぇ!」
そう叫んで、ノクスは踵を返し足早に去っていく。
シオンは呆然とその場に座り込み、頭を抱えた。
「……あいつに聞けるわけないじゃない……。本人とか言わないでよ……」
動揺しすぎて、彼の最後の言葉の真意を考える余裕はなかった。
シュゼルは一応「平民のふり」をしていますが、言動を聞いていると「隠す気あるの?」と突っ込みたくなる相手です。
本来、平民はそんな教育を受けないのに、つい貴族の感覚で喋ってしまうので……。
そして、シオンの疑問は全く解決しませんでした。
次は“おまけ”を更新いたします。




