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同じ夜空を見上げて

前半はアリウスが9歳の頃の話です。

※この番外編はシリアスです。

「流星群見てみたい!」


座学も鍛錬も終わり、庭園で各々の時間を過ごしていた時のこと。

突然立ち上がったアリウスが嬉々として声を上げた。


「流星群って……今朝先生が話していたことか?」


シュゼルが問うと、アリウスは頷く。

地学の講師によると、一週間後に流星群が見られるとのことだった。

数年に一度の珍しい現象だと。


ただし、時間は深夜。

王侯貴族が出歩ける時間帯ではない。


「窓からなら見れるんじゃねぇの?」

「えー?せっかくなら外で見たいよ」

「しかし、敷地内とはいえ深夜の外出は控えるべきでは」


ノクスの提案に不満げに答えるアリウスに、シュゼルが畳み掛けるように言う。

従者としては当然の意見だろう。

……ノクスは単に面倒なだけだったが。


アリウスは少し考えたあと、シュゼルに近づくと、手を引いて正面から見つめた。


「滅多に見られない特別なものなんだよね? だったら三人で一緒に見たいんだ……どうしても、駄目かな」


残念そうな表情に、シュゼルが固まる。

心の中では「許すべきではない」と警鐘が鳴り続けていた。

深夜に外へ出るなど、本来あってはならない。危険を冒す必要もない。


それでも、掌に伝わる少年の温もりが理性を揺らす。

真っ直ぐな瞳に映る期待を、裏切れるだろうか――。


額に手を当て、しばらく沈黙が落ちた。

任務と感情が拮抗し、答えを見出せずにいる。

やがて深く息を吐き、己を納得させるように呟いた。


「………仕方ない。セレーナ様には気づかれないようにしよう」

「本当!?やったぁ」

「おい待て、そんなんで折れていい案件だったか!?」


アリウスに甘すぎだろ!?と言わんばかりの抗議に対し、シュゼルは落ち着いた声で言う。


「危険な目に遭うようなら避けるべきだが、この庭園に出るだけなら、対策すれば問題ない。そのために私たちがいるんだ」

「もっともらしい事言ってやがるが、結局はアリウスの"お願い”に屈しただけだよな?」


ノクスの呆れたような声には耳を貸さず、シュゼルはアリウスに向き直った。


「この塔は夜間の巡回も少ない、抜け出すこと自体は可能だろう。あとは私の結界とこいつの認識阻害の魔術である程度の安全は確保できるはずだ」

「サラッと俺の役割を決めてんじゃねぇ」

「それでも万が一があれば私が斬る」

「だから聞け!」


完全に無視されていることにノクスが苦言を呈すが、アリウスから期待に満ちた目を向けられて言葉を失う。

ーーシュゼルほどではないにしろ、ノクスだってアリウスには弱い。


こうして、一週間後の流星群鑑賞会が決定したのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーー






深夜二時。

アリウスたちはこっそりと部屋を抜け出すと、約束通り庭園に集合した。


芝の上に横になり、空を見てその時を待つ。


「まだかなぁ?」

「きっちり始まるわけじゃねぇ。もう少し待ってろ」


アリウスの呟きにノクスが答えた、その時。

視界の端を一筋の光が流れた。


「あ、今流れた!?」


それを合図にしたかのように、次々と空を星が流れていく。

見たことのない幻想的な光景に、アリウスもシュゼルも、そしてノクスさえも言葉を失い、ただ魅入っていた。


どのくらい、そうしていただろうか。


星の流れが落ち着き、空が再び暗くなってきた頃、アリウスがようやく口を開く。


「……すごかったね」

「ああ、まさか……これほどとは」


まだ夢見心地のまま呟き、余韻を噛みしめるように空を眺めた。

だが、何かを思い出したようにアリウスが勢いよく身体を起こす。


「あ!」

「どうした?」

「願い事忘れてた!」


まさかの言葉に、シュゼルとノクスは言葉を失う。

うなだれるアリウスになんと言えばいいかシュゼルが悩んでいると、ノクスは呆れたように言った。


「流星群は眺めるもんだろ」

「でも、流れ星に願い事すると叶うって聞いたことない?」

「あるにはあるが……」


あれは奇跡的に見ることができた流れ星に対してではなかっただろうか。

更に消える前に三回願いをかけるという、二重の奇跡を起こすことで、その願いが叶うと信じられていた気がする。


(だから、流れ続ける流星群に願うのは少し違う気がするのだが……)


と、思ったが、シュゼルは口にはしなかった。

そして、代わりに問いかける。


「一体、何を願いたかったんだ?」

「次の流星群も、三人で見れますようにって」


真っ直ぐな瞳で告げたアリウスの言葉に、シュゼルは目を丸くした。

対してノクスは眉をひそめると、深い息を吐く。


「何だそれ。くだらねぇ」

「おい、言い方というものが……」

「んなモン、星に願う必要ねぇじゃねぇか」


それを聞いたアリウスは一度キョトンとしたあと、ぱっと目を輝かせて言った。


「じゃあ、次も一緒に見てくれるってこと!?」

「……気が向いたらな」


ぶっきらぼうに目を逸らすが、その行動が照れ隠しであることは明らかだった。

思わず小さく吹き出したシュゼルを、ノクスは横目で睨む。

アリウスは相変わらず笑顔で、わくわくした瞳で再び空を見上げた。


「楽しみだな。でも、次っていつだろう」

「確か、概ね六年後……君の成人式の一ヶ月後だったはずだ」

「何で知ってんだよ」


ノクスが尋ねると、シュゼルは当然のことのように淡々と答える。


「アリウスが興味を持った事柄だ。把握しておくのは当然だろう」

「調べてくれたんだ、ありがとう!」


嬉しそうにお礼を言われ、シュゼルは少し恥ずかしそうに「礼には及ばない」と呟いた。

その様子にノクスは顔を顰めつつ、ため息をつくと立ち上がった。


「おい、それより終わったなら戻るぞ。さすがに眠ぃ」

「そうだな、明日も予定がある」


シュゼルも続けて立ち上がり、アリウスに手を差し伸べる。

その手を掴みアリウスも腰を上げると、三人は静かに塔へと戻っていった。



——この時は、信じていた。



——六年経っても、変わらず一緒にいるのだと。






ーーーーーーーーーーーーーーー






アルナゼル王国の端に位置する深い森。

その夜、静寂に包まれたこの場所で、一人音もなく剣を振っていたシュゼルは、ふと空を見上げる。


木々の隙間から覗く夜空に、光が流れた。


「……もう、そんな季節だったのか」


光の筋が次々と夜空を横切り、やがて空を埋め尽くしていく。

三人で一緒に見ようと約束した流星群。

それを今、一人で眺めている。


“ヘリオス”は覚えていない。あの約束を。

だが、それでいい。思い出すことなど、なくていい。

それが、君の笑顔を護ることになるのなら。


シュゼルは髪紐に手をかけると、結び目を解いた。

あの日と同じように夜風に髪をなびかせながら、ただ空を見上げ続けた。




同じ夜、グレイシャ帝国では、その日珍しく雪が止んでいた。

雪が降り続けるこの大陸では、雲が切れる日など年に数度しかない。

深夜まで続いた仕事を終え、夜風に当たるべくテラスに出たノクスは、雲の隙間から覗く星々に気づいた。


「………テメェらと見ることは、もう二度とねぇんだな」


無意識に零れた言葉は、夜の闇に飲まれていく。


ひと月ほど前に耳にした、アルナゼル第三王子の暗殺。

もう、どこにもいない。

瞳を輝かせて「また一緒に見たい」と語っていた、あの少年は。


シュゼルが側にいながら、暗殺されたというのは信じがたい。

だが、遠くにいるノクスに真偽を確かめる術はなかった。


アリウスを失った彼は、どうしているのだろう。

生きる意味そのものを失って、失意の底に沈んでいないだろうか。

それとも、まさか……後を追ったりは。


「……いや、俺にはもう関係ねぇ」


手すりを強く握りしめ、言い聞かせるように呟くと、ノクスは部屋へと戻った。

余計なことを考えないように、気づかぬうちに仕事を山ほど抱え込みながら。



最後の場面は、本編の約二年前――「アリウス」が「ヘリオス」として生き始めた頃の時系列になります。

『【番外編】太陽の名を君に』の約一ヶ月後の出来事です。

→( https://ncode.syosetu.com/n2410ko/90/ )


この時期、ノクスはまだ「アリウスは死んだ」と思い込み、遠くから空を見上げていました。

過去と現在が同じ夜空で重なることで、三人の想いのすれ違いと繋がりを描いています。

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