Trick or Treat !《ノクス×シオン》
この話は《ノクス×シオン》編です。
IFの世界線なので、この二人の関係性は恋人あるいは両片思い(自覚あり)です。
甲板に向かうため船室を出たシオンは、ふと廊下を歩く人物を目に留めた。
見間違うはずのない、全身真っ黒のその姿。
シオンはいたずらっぽく口角を上げると、前に回り込んで声をかけた。
「トリックオアトリート!」
突然現れたシオンと、それ以上に唐突な言葉に、ノクスは顔を顰める。
「……は? 急になんだよ」
「ハロウィンだから。それで、お菓子ある?」
にっこりと問いかけるシオンに、ノクスは深いため息をついた。
「俺がそんなもん持ってるわけねーだろ」
「無いならいたずらされるわよ?」
「いたずらって、何する気だよ」
聞き返されて、シオンの動きが止まる。
そう言えば、考えてなかった。
お菓子を貰えるとは思っていなかったので、当然いたずらの方向だったのだが、肝心の内容を決めていない。
行き当たりばったりにもほどがある。
「……顔に、落書きとか?」
とりあえず思いついたことを口にすれば、あからさまに鼻で笑われた。
「ガキか」
「失礼ね!!」
拗ねたように怒るシオンを見て、ノクスは少し思案する。
そして静かに口を開いた。
「……Trick or Treat?」
「え?」
「お前は用意してんのか」
まさか逆に聞かれるとは思わず、シオンは目を丸くする。
「……してないけど?」
やや眉をひそめながら首を傾げると、ノクスがスッと距離を詰めた。
そしてシオンが反応するより先に、その手首を掴む。
「……いたずら、していいってことだな?」
呆然としているシオンを気にも留めず、その手を引いて歩き出す。
ようやく我に返ったシオンが、慌てて問いかけた。
「え!? ちょ、どこ行くの!?」
「お前の部屋。俺の部屋だと邪魔が入るだろ」
同室のベルナルドを思い浮かべ、ノクスは答える。
さっきは部屋にいなかったが、いつ現れるかわからない。
そんな場所じゃ落ち着かない。
「邪魔って、何するつもり……」
「だから、“いたずら”だろ」
軽く目を細め、口角を上げたその顔に、シオンの頬が紅潮する。
そして睨むように見上げながら、小さく口を開いた。
「……あんた、そういうキャラだったっけ?」
「どうだろうな。逃げるなら今だぞ」
手首を掴む力はそれほど強くない。
振りほどこうと思えばできる——それをわかった上での挑発だ。
シオンは軽く俯き、深く息を吐くと、視線を合わせないまま呟いた。
「性格悪いわよ……」
「今更何言ってんだ」
それだけ言って、再び歩き出す。
開き直ったその言い方に言葉を返そうとしたが、喉が詰まる。
(……なんか、負けた気がして悔しい)
振りほどくことができないその手には、どちらのものかわからない熱が灯っていた。
ノクスも、そう簡単に翻弄されっぱなしではありません(笑)。
次は《ヘリオス&シュゼル+ウィスカ》編になります。
ほのぼのとした雰囲気で、シリーズの締めくくりとなる小話です。




