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前世セイレーン、今世は歌が下手だそうです

作者: るびここ
掲載日:2025/05/09

 


 ーーーどこからか、美しい歌声が聞こえる。

 魂を揺さぶられるような、いや、実際その歌声を聞いた人間はフラフラと近付いていきーーー

 


 「ちょっと!!聞いてるの?!」


 「っ!!、ご、ごめんなさい……」

 

 目の前で目を吊り上げて怒るアンナの存在を忘れてしまうほど、唐突に前世の記憶を思い出した。

 

 「何ぼーっとしてるのよ!そんなんだから鈍臭くて歌も下手なんじゃないの?!」


 「わ、わたし、ちょっと用事があるのでっ!!」


 「なっ!?、待ちなさいっ!!」



 いつもなら縮こまり下を見つめ、アンナが満足するまで小言を聞いていたが、今はそれどころではない。適当な言葉を並べてその場を離れ、自分の部屋へ逃げ込むことにした。


 「ふぅ……。さっきのは、私の前世……よね?」


 立って寝ていた。なんてことはなく、今日の小言はいつ終わるかなぁと考えていた時に、突然頭の中に映像が流れてきた。

 あれが本当に前世の記憶なら……

 

 

 どうやら私の前世は人間ではなく、

 『セイレーン』という半身半魚の、とても美しい歌声で人を惑わすーーー海の怪物だったようだ。


 「なんだか皮肉ね……」


 今の私は怪物でもなんでもない。名前はセレナ、平民として生まれた16歳の学生だ。学校の寮で生活をし、部活は歌が好きだったので音楽部に入ったがーーー。

 

 これが間違いだった。


 最初は歓迎ムードだったのに、私が初めて歌を披露した日からアンナを始め、他の先輩方から冷たい目で見られるようになったのだ。

 先ほど怒鳴っていた一つ上の先輩であるアンナは、よく私に突っかかるだけでなく、周囲に同調を求め、私を下げる事ばかり言ってきていた。

 

 ただ真剣に部活に励んでいるだけで、何故そこまで言われなければならないのか理解できなかったが、入ったばかりの後輩の身で意見を言うこともできず、穏便に過ごせるならばと謝って済ませることにした。


 しかしそれが良くなかったようで、アンナ以外の先輩達まで私が歌うたびにクスクス笑ったり、私に聞こえるくらいの声量で悪口を言ったりと、それらは徐々にエスカレートしていった。

 最近では足を引っかけて転ばせようとしてきたので、これからさらに暴力的になっていくんじゃないかと怯えていた。


 本当はやり返したい。でも、日常的に行われる行為に段々と心が疲弊してしまったのか、反抗する気力もなくなり、先生に告げたところで証拠もなく、告げ口がバレた後のことを考えると行動に起こすこともできず、ただただ下を向き我慢する日々を送るうちにすっかり性格まで暗くなってしまった。

 ただ、部活を辞めるという選択肢はなかった。

 

 あいつらに、負けたくなかったから。


 それに、今の私は違う。

 セイレーンだった頃の、奔放な気持ちが戻ってきたおかげで、すんなり立ち直れそうだ。

 しかもセイレーンと言えば『美しい歌声』である。

 試しに歌ってみたらびっくり。前世の魅惑的な歌声が今世の人間として生まれた歌声と綺麗に溶け合い、以前よりも歌唱力が上がっている実感があった。

 奇しくも明日は部活動の発表会。

 この発表会は他校の生徒達も集まり、音楽に携わる審査員までいる結構本格的なものだったりする。

 ちなみに、今年はうちの学校が発表の会場に選ばれている。


 「これはチャンスなんだ」


 ことあるごとに歌が下手だと言われ続け、すっかり自信を無くして弱々しい歌声になった私を笑い物にしたかったのか、合唱にあるソロパートに入れられていたのだ。

 だからこの発表会を、私の復讐場所にすることにした。

 



 ーーー発表会当日


 「ふふふっ。あいつきっと笑われるわね」


 「一年のくせに生意気なのよ」


 「あーたのしみ!」


 アンナは音楽部の友人達とコソコソとセレナの悪口を言い合っていた。


 最初からこうだったわけではない。

 音楽部に入ってきたセレナを、アンナだって初めは歓迎していた。が、セレナの歌声を聞いた瞬間ーーー


 嫉妬した。


 ただ上手いだけではない、思わず足を止めて歌声に耳を傾けてしまうような、不思議な魅力がセレナの声色にあったのだ。

 

 私にはないもの。

 

 私達にはないもの。


 それからの私達は、自分自身への努力ではなく、なんとかそこから引きずり下ろそうと、セレナを蔑むことを始めたのだ。

 最初は反抗的な目をしていたが、今では下を向き、すっかり自信を失った歌声へと変わったので、内心笑いが止まらなかった。


 発表会が始まる。その弱々しい歌声をみんなに聞かれて笑われるのももうすぐーーー


 (ふふふっ!!これであの子はもうおしまい。)


 


 のはず、だったのに……



 「っ?!なんで……っ!」


 セレナのソロパートが始まると、会場はいつになく静かになった。


 そこには、かつて聞いた歌声ーーー


 ーーーよりもさらに魅力の増した歌唱力を披露しているセレナがいた。


 (なんで……っなんでなんでなんで!?)


 歌い終わると同時に、そこかしこから歓声が沸き起こる。

 それは『私達へ』ではなく、確実にセレナに対してのものだった。



 それからの展開は早かった。

 セレナは審査員にいた、大手音楽企業のスカウトマンに声をかけられたかと思えば、プロのレッスンを受けさせてもらい、あれよあれよと言う間にデビューをし、その魅惑的な歌声から異例の速さで人気歌手へと一躍有名となった。


 セレナは忙しくなるにつれ、音楽部のことなどすっかり忘れて生き生きと過ごしていたが、アンナを含め後ろ暗いことをした者たちは、セレナがテレビに出る度に、いつかチクられるのではないかとびくびくする日々を送ることになるのだった。


 (人を妬むより、自分自身を磨くことに時間を使うべきよね)


 今日もセレナは、晴れ晴れとした気持ちで日々を過ごしていくのだった。



 


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