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隧道を掘る男

作者: 横浜暇人

ここは丘が連なる土地

商人が馬車で荷物を運ぶ時に丘が邪魔だった。

一番小さな丘でも馬車では坂を登れず、通る度に荷物を降ろしては人力で揚げなければいけなかった。

迂回するには時間が掛かり過ぎる。


邪魔な小さい丘、

さして大きくない丘だけど……

ある日、男がスコップを持って来てトンネルを掘り出した。

それを見ていた周囲の男達はバカにして嘲笑っていた。


「おい!何してんだ?お前、土にまみれて!バカじゃないか?」村人A

「……」


またある日、

村人Bが作業中の男に声を掛けた

「領主に頼まれたのか?報酬を貰えるのか?」

「いや、自分の……、やりたいから」


トンネル掘りは遅々として進まなかった。

その男の手際はお世辞にもいいとは言えず見学する者をイライラさせた。


だがその男は黙々と堀り続けた。自分の仕事が休みの日、自分の仕事が終わった後、時には仕事に行く前に。

黙々と毎日毎日。

雨の日も風の日も黙々と堀り続けた。


ある日トンネルの形が少し見えて来た。

だが相変わらず非効率なやり方だ。

掘った土を適当に投げるので後からその土を邪魔にならない場所に棄てなければいけない。硬い岩があっても砕こうとせずシャベルで何度も何度も突っつくだけだった。


すると周りで嘲笑を浴びせていた男達がひとり、またひとりと作業に加わり出した。余りの非効率ぶりに我慢ができなくなったようだ。


その男は無口だった。


人手が増えると作業も捗る。トンネルの形がはっきりしてくると、参加メンバーは更に増えた。作業の時間は特に決まりは無く、来たい時に皆が来た。だが不思議とその男に時間を合わせるようになった。


そこからはあっという間だった。

作業の成果が目に見えて偉大な事業に参加していると言う自負が男達に芽生える。


酒場で「偉大な事業に参加している」と自慢気に話す者まで現れた。


そうすると

更に参加メンバーが増える。

増えると更に作業効率があがる。

その繰り返しだ。好循環。


だがその男は裏腹に不機嫌になっていった。


トンネル掘りは崩落があり、ガスが吹き出すなど命の危険もある。

穴堀りの男達の妻達や家族は「何も起きなければいい……」と祈った。


そして……その瞬間が訪れた。


ガラガラガラ!と大きな音を立てて壁が崩れた。


崩れた壁から光が差し込む。向こう側の景色が見える。


『ワッ!!』と歓声があがった。


トンネルが開通したのだ。

崩落事故もガスも酸欠事故も無く無事にトンネル随道が完成した。


『ワー!ワー!』「やったなー!」「成し遂げたんだ!俺達の手で」

人々は歓喜に包まれた。

人々はその男に集まり、偉大さを褒め称えた。


だがその男は怒り出して持っていたシャベルで周りの男達を叩いた。

俺達は訳が解らず、照れ隠しをしているのだと思った。

「はぁ」その男はタメ息をひとつ吐くと歓喜に湧くその場を離れスタスタと帰ってしまった。


実は

その男は他人のタメにしていた訳では無かった。


その男はジグソーパズルを独りで組み合わせるのが好きな性格だった。

無心になれるトンネル掘り自体をしたかっただけだった。


    終わり

モデル 大原随道と青の同門

大原隧道…横浜にあるトンネル。しばしば心霊スポットにもされたりPVにも使われる。

青の同門…禅海和尚が独りで手彫りしたトンネル

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