7.僕のメンタル弱すぎるって意味だよな?
人畜 有害と申す者です。趣味で小説を書いています。不定期更新になりますがご一読頂けると幸いです。
前回のあらすじ
あいは自称『灰の女王』らしい。こんなに痛い子になっちゃってお兄さん悲しいよ。
あの後、僕は宿に帰り食事をとってすぐに寝た。
そうしたらまた、夢をみた。前回の悪夢の続き。それは僕にとって一番の悪夢となった。
僕が偉大な遅刻をした後の事。手紙を読んだ僕はその場で崩れ落ちていたのだが、ハル姉と瑠璃がすぐに迎えに来てくれた。そのお陰でこれ以上沈む事は無かった。まあ、それでもかなり自分に嫌気がさすのには変わりないのだが。それからの僕のやる気は凄まじいものだった。怠け者の僕が何をする気なのかと言うと、受験生としての責務を果たそうと言う事だ。あいの手紙のお陰でやっと決心がついた。あいが待っていてくれるならちょっと本気を出すのもやぶさかではない。
それから僕は、勉強に勉強を重ねてハル姉の通っている高校に入学する事になったのだ。夢の中だと言うのにも関わらずやけにリアルな勉強だった。これはこれで悪夢なのだが、本当の悪夢はまだまだこんなものではない。
入学式が始まった。周りを見た感じあいの姿は無かった。長ったらしくて憎ったらしい校長の話が終わった。別に校長の事が嫌いなわけではないのだが今の僕には余裕がなかった。早くあいを見つけて謝りたかった。次は、生徒会長にからのお祝いの言葉らしい。生徒会長が壇上に立つ。凛々しく美しいその生徒会長は名前を西園寺 遥というらしい。というかハル姉だった。2年生で既に生徒会長だったのだ。意外にもハル姉のスピーチは短かった。それは良いのだけれどスピーチの途中で僕の話を匂わせるのはやめてほしい。話しながらこっちを向かないで欲しい。それから少しして入学式が終わった。次の場面は教室に移る。なんとそこにはあいが居た。あの日の事を謝りに行こうとしたら担任の先生の話が始まった。どうやら今からクラスの人に対して自己紹介をする事になるらしい。またまた悪夢が始まる予感がする。
「それじゃあ早速始めようか。石灰から頼む。」
「どうも、石灰 あいです。よろしくお願いします。」
ハッキリと、しかし感情の見えない声であいは自己紹介した。小さめの戸惑っているような拍手が起こる。
「なあ、石灰。もうちょとなんか無いのか?」
そんな先生の声など聞こえないのかあいはそのまま席に着いた。あいの苗字は石灰というのか。今まで気にしてこなかったから知らなかった。そんな事を考えているうちに僕の番が回って来てしまった。
「西園寺 奏です。好きな事は寝る事。特技は寝坊する事です。よろしく。」
自分でもわかるくらい終わっている。適当にも程があるだろうが今はそんな事どうでも良かった。ボソボソ話し声が聞こえる。悪かったな出来る姉と違ってダメダメで。まあ、そんな事はどうでも良いだろう。今大切なことは石灰 あい、僕の幼馴染的な存在。僕の知っているあいはもっと優しくて、可愛くて、誰にでも平等に接するとか言う美少女を現実化したかの様な子だった。人に理想を押し付けるのは良く無いことだとは思うのだが、これはあまりにも酷いだろう。これは僕の自己紹介に対してではない。石灰 あいの自己紹介がだ。あんなの高嶺の花だったとしても許されないだろう。ただ、見た目だけはあの頃のあいのままだった。クラス全員の自己紹介が終わった。とりあえず今日の学校は終了らしい。僕はすぐにあいの所に向かった。あいは帰ろうと席を立つ所だった。
「よっ、よう久しぶり。あの日は約束の時間に間に合わなくってごめん。」
その時の僕は、かなり焦っていた。周りが見えていなかったせいでまあまあ声が大きかった。
「へぇ、別にそんな事どうでも良いわよ。それであなたは何処の誰?あなたの様な頭の悪そうな人私の知り合いには居ないわよ。まあ、そもそも私に知り合いと呼べる人はこの世界にいないのだけれど。今のは笑うところよ。」
僕は絶句した。別に彼女の顔が真顔すぎるからでは無い。やはり僕の知っている、大好きだったあいには似ても似つかなかったからである。2人の中で静寂が流れる。その時、廊下からハル姉の声が聞こえた。
「奏、ホームルームが終わったなら早く帰ろう。私たちの家に。」
そう言ってハル姉は僕の腕を掴む。ハル姉に触れられるだけでかなり気持ちが楽になった。だけど、僕の心の痛みは無くならない。僕の知っているあいは、この学校には居なかった。もしかしたらもう、この世界にすらも無いのかもしれない。
僕はその日から1年間学校に通わなかった。両親は不思議に思っていた様だけど、ハル姉と瑠璃が庇ってくれたお陰でそれも次第に無くなっていった。僕が自宅警備の仕事をまだとしている間ハル姉と瑠璃は何も聞かずに慰めてくれた。ハル姉と瑠璃には随分と助けられたものだ。それから僕のヒーローのリストにハル姉と瑠璃の名前が加わった。だけど、僕の恋や後悔は2度と救われる事は無いのだろう。僕の心の傷の奥の所にはまだじんわりと血が滲んでいた。石灰 あいの顔を見るたびにそれを思い出すなど僕の弱く傷付いた心では耐えられなかった。つまり、僕のメンタル弱すぎって意味だよな?それから心がなんとか動けるようになったのは高校2年になった頃だった。学校に行くようになってからははちゃめちゃだった。その一つが、立候補もしていないのに僕が生徒会の副会長になっていた事だ。さらには瑠璃も同じ学校に入学して来た。そして、心が治った僕は相変わらずチャイムのギリギリに滑り込む生活を続けていた。遅刻癖は治ってないのかって?ああ、残念ながら治らなかったね。反省はしている、後悔もしている、だけど起こってしまったものは仕方ないので次に何かしら約束をする時は僕が寝坊する事を事前に伝えておく事にしよう。
お読み頂きありがとうございます。感想や質問、指摘など御座いましたら気軽にどうぞ。