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僕のヒーローは泣かない  作者: 人畜 有害
5/8

5.偉大な寝坊

人畜有害と申すものです。趣味で小説を書いています。

この小説を手に取っていただきありがとうございます。

感想など頂けたらと幸いです。

前回のあらすじ

愚かな奴隷、略して愚隷(グレー)。グレー好きの皆様本当にごめんなさい。僕が勝手に変換しただけなのでハル姉と瑠璃は悪く無いです。


唐突だが、夢を見た。また何かの前振りと思われてしまうだろうが、久しぶりに記憶に残っている夢なので聞いてほしい。誰にでもある様な他愛の無いつまらない失恋の話だ。


今から3年前のある暑い夏の日の事だった。その年も例に漏れず暑かった。その日の僕は夏休みという事で昼間から公園のベンチで惰眠を謳歌していた。木漏れ日が気持ちいい。だけど暑い。喉が渇いてきた。あー買いに行くのめんどくさい。自動販売機に行くくらいならここで干からびてやるね。

「横、失礼しますねー。」

そう言って彼女は寝ている僕を押し退ける侵略してきた。押し退けるにしても頭の方はやめて欲しい。首が折れてしまう所だった。まあ脱水で死ぬ予定だったので大して変わらないかもしれないが。

「はいこれ、水飲まないと死んじゃうよ。冴えない顔が見れなくなっちゃうと思うと悲しいよ、私は。」

「冴えない顔でも今まで必死に生きていたんだよ。まあこれから脱水で死ぬんだけどな。この水美味いな。さすがアルプスの水だぜ。」

「はぁ、先ずは命を救って頂き有難うございます。あい様でしょ。まっ、分かってたげとね。」

「はいはい、愚かな私の醜き命を救っていただいていただき有難うございますあい様。」

僕はあいとのこう言ったやり取りが好きだった。大好きだった。お昼寝の次くらいには。

「そう言えばあいはどこの高校受けるか決めたのか?」

「奏くんはもう決めてたよね、お姉さんがいる高校だったっけ?私はどうしようかな〜やっぱり私も奏くんと同じが良いな。」

「なあ、あい。明後日の19時、一緒に祭りに行ってくれないか?」

「そんなにつぶらな瞳で見つめないでよぉ。そんな目されたら断れないでしょ。こら、悲しい顔しないの。も〜仕方ないなぁ、わかったよ。1人で寂しい奏くんと一緒に行ってあげる。感謝してね。」

「そうだな、ありがとう。今あいに断られたら自害している所だった。大好きだ、あい。」

「も〜またそんな冗談言って。あんまり気軽にそんな事言っちゃいけないんだよ。」

やっぱり僕は大好きだった。そんなありきたりなやり取りをしているうちに日が傾いてきた。

「それじゃっ、私はそろそろ帰るね。奏くんも早く帰りなよ。」

「嫌だね。あんな所居られるものか。居ずらいにも程がある。」

「あんなに美人なお姉さんと可愛い妹さんが居るのに何が不満なの?」

「あいには分かんないよ。僕の気持ちなんて。あの両腕を粉砕される感覚!両親からの生暖かい目!僕が近づいた途端に止まるご近所さんの井戸端会議!こんな気持ちわからなくて良い。」

「そんなものなのね。楽しそうじゃない。私の家なんかよりもよっぽどね。あっ、そろそろ時間だから帰るね。」

そう言うとあいはそのまま帰って行った。はぁ、1日の楽しみが終わってしまった。なかなか地雷を踏んだ気もしなくも無いが可愛いからオッケーだ。今から明後日が楽しみだ。


次の日、例により僕は昼間から公園のベンチに横たわっていた。喉が渇いてきた。ちょっとだけ喉の渇きが限界になってきた。僕の腹時計、と言うか喉時計によるといつもの時間にあいが来ていないと言う事が分かった。ジュースでも買いに行くか。自動販売機で購入したのはブラックの缶コーヒーだった。おいこらキツイとか言うんじゃ無い。そう、僕は大人なのでコーヒーを飲むのだ。

コーヒーの香りと苦いを楽しめないなんて大人失格だからな。ぐびっと一口。すると口いっぱいに濁って苦い汚水が広がる。僕はまだ大人ではなかった様だ。こんなの飲むくらいなら子供のままでいい。せめてミルクが欲しい所だ。缶に描いてあるおじさんには申し訳ないがコーヒーは排水口に流す事にする。

「あれ?捨てちゃうの?コーヒー飲めないなんて奏くんはお子ちゃまなんだね。」

「どうせ僕はお子ちゃまだよ。なあ、あい。今日は随分と遅かったじゃないか。僕がどれだけ喉が渇いたことか。あいには僕の命を救うという使命があるんじゃなかったのか。」

「も〜仕方ないなぁ奏くんはぁ〜

 テッテレー アルプスの水〜!」

某猫型ロボットの真似をしてあいが水を取り出す。それもカバンから。その水家から持って来ていたのか。なんか申し訳なってきた。

「ありがとう、あい。お陰で今日も生き延びる事が出来た。やっぱりあいは僕のヒーローだよ。大好きだ。一生一緒に居てくれ。エンゲージリングを買ってやるからさ。」

「そんな物要らないよぉ〜後、私たちまだ中学生だよ?奏くんの熱烈なプロポーズは嬉しいけどさ。ちょっとだけ重たいかなぁ〜」

「それで結局なんでこんなに遅くなったんだ?この僕でも自分の命を心配したぞ。」

「そんなに知りたい?別に面白い事なんてないよ。」

「いや、そんなに無理して聞きたい訳じゃないから知らないでおくよ。僕の命を救ってくれるだけで十分だ。」

「うん、その方が良いよ。今の奏くんに何かが出来る訳じゃないから。」

「そうだな、お子ちゃまな僕には何にも出来ないよ。」

そんな事を話していると日が暮れてきた。夕陽を見ていたあいがこちらに向き直す。あいの綺麗な瞳には涙が流れていた。それは今まで見たどんな姿よりも綺麗だった。そんな事を考えていると遠くからハル姉と瑠璃の声が聞こえてくる。僕の頭の中でサイレンが鳴っている。

「奏くん、そろそろ時間みたいね。明日楽しみにしてるよ。明日伝えたい事があるからちゃんと遅れずに来てね。それじゃっ。」


その後、町中を歩き回っていたハル姉と瑠璃に確保された。引きずられながら家に帰っている間明日の事を考えていた。これは告白されるやつなのではないだろうか?いや、もしかしたら告発されるのかも知れない。正直そんな事をされたら心が保たない。まあ、明日にはわかる事だ。果報は寝て待てと言うことわざがあるのだ。二度寝でしてふて寝して待つとしよう。


次の日、僕は寝坊した。それもただの寝坊ではない。いつもの僕では有り得ない程の壮大な寝坊だった。もうここまで行くと偉大と言っても良いほどだね。そんな事を考えている暇があるなら祭りに行けと言われるかもしれないがそんな事はわかっているのだ。今ハル姉と瑠璃をなんとか振り切って全力疾走中だ。間に合わないかもしれない。と言うか十中八九間に合わない。それでも走った。


結局到着したのは集合時間の15分後だった。その頃にはもうあいの姿は無くなっていた。その代わりに1通の手紙が置いてあった。その手紙を読んだ僕は自分に絶望し崩れ落ちた。全て僕のせいだった。僕の偉大な寝坊のせいだった。


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