プロローグ
まるで異世界転生モノの冒頭みたい――。
眼前まで迫った大型トラックを眺めながら、そんなしょうもないことを思っていた。
信号機のない横断歩道、僕が左右をよく確認もせず渡ったのか、それともトラックの前方不注意か。それなりにスピードが出ているはずのトラックはほとんど止まっているようで、こわばった運転手の顔もしっかりと認識できるのに、僕の体は少しも動いてくれなかった。
今日の小テスト、結構自信あったんだけど、結果が見られないのは残念だな。
今度の日曜日、みんなでカラオケ行こうって約束してたのに、約束破っちゃうな。
こんなことならプリン食べられちゃったからって妹とケンカなんてしなければよかった。結局、仲直りもできないままじゃないか。
後悔と呼ぶにはあまりにも些細な事柄が浮かんでは消えていく。そんなことを考えている時間なんてないはずなのに。
徐々に視界から色が消えていった。きっと体が死ぬことを受け入れたんだと思う。皮肉にも、灰色になった空に、これまでの青空がいかに鮮やかだったかを思い知らされた。
佐伯真紘、十七歳。高校からの帰り道、交通事故でこの世を去った。