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第93話 海中捜査#1

「すげーな、本当に陸上と同じように呼吸が出来てしゃべることも出来る」


 海に入ったカイは魚人族からもらった服の恩恵をまじまじと感じていた。

 浮力を感じ水中を漂う感覚はさながら空を飛んでいるよう。

 よりそう感じさせるのはやはり呼吸の有無であろう。


 加えて、服自体が正面から来る水の流れを受け流し、後ろから来る水の流れには追い風のように後押しするため軽くバタ足するだけで想像以上の推進力を生みだして移動できることにカイは感動的であった。


 そんなカイの子供のように興奮している様子には思わずルフトも笑みを浮かべる。


「ははっ、さすがのカイ殿も他の人族と同じような反応するんだな」


「そりゃ、俺も人族だからな。水中でこんなに自在に呼吸が出来るなんて正しくファンタジーだな」


「......ついぞ口に出すことはしないようにと思っていたんだが、カイ殿は本当に人族なんだな?」


「そりゃ、そうだろ。どこからどう見ても人だろ」


「そうですね、どこからどう見ても人“の皮を被った怪物か何か”ですね」


「シルビア!? まるで俺が後ろの文を省略して言ったみたいな解釈やめてくれる!?」


「ふふふっ」


 あまりに緊張感のないシルビアとカイのやり取りに顔が強張っていたトトも思わず笑ってしまった。

 そんなトトの様子を二人にハイタッチをするようにカイはシルビアがいるホルスターを軽く叩く。


 そして、しばらくの間海の中を遊泳していると正面からヒレが刃になっているサメやらやたらメタリックなウミヘビやら光沢のある甲羅の亀と色々な海洋生物が現れた。


「あれがこの海の魔物か? 随分と攻撃的な見た目してるな」


「だが、一体一体の実力は左程ではない。この中で問題があるとすれば、明らかに共生するような魔物同士ではないはずなのに、まるで共通の敵を見つけて結託しているかのように集団でいることだがな」


「となると、例の海神の力ってことか?」


「確証はないでしょう。ですが、そう判断するのが今は妥当かと」


「カイ殿、兵士諸君、来るぞ!」


 正面の魔物の大群が一斉に動き出したことにルフトが叫んだ。

 その声と同時にカイはシルビアを二丁拳銃にして両手に持ち、周りの兵士は一斉に武器を構えて陣形を揃え、ルフトはトトを背後に隠すように守りに入った。


 カイは体を横にしてそのまま背後の壁を蹴るように水を蹴ると正面のサメに突撃していく。

 そして、銃口を向けた瞬間、サメは軌道を変えて下に潜った。


「うわっ!?」


 咄嗟に照準を合わせようとするカイだったが、移動の推進力と水中の立体的な動きにすぐに止まれず、仕舞には体が逆さになった。

 そこへ潜ったサメがカイ目がけて浮上してくる。


  そして、刃も右ヒレでカイの腹を切り開くように突撃するがその攻撃は刃がカイに直撃した時点で動きを止める。


「ほんと強くなったことに感謝しなきゃな」


 圧倒的な防御力でダメージを受けなかったカイはそのまま片腕で右ヒレを押さえるとサメの横顔から魔力弾を撃ち放った。


「はぁ、普通に戦ってたら確実に死んでたな」


「森での修行に感謝。つまりは私に感謝ということですね。

 とはいえ、パパも早くこの海でそれこそ魚人族以上に動き回らないと今回の戦いでは厳しいかもしれません」


「だな」


 そう話していればまるで本当の鉄砲のような速度で鉄砲魚が飛び込んでくる。

 それを体を逸らして躱すカイだが、地上とは違い浮力による影響で思ったよりも動かなかったり、動きすぎてしまい何体か普通に直撃してしまっていた。


「竜風転」


 カイはその場で回転すると自身を軸とした小規模な渦を作り出し、周囲の魔物を吹き飛ばす。だが、そこに段違いで速い何かが渦を突き破って侵入してきた。


「ぐっ! この世界のカジキマグロ......黒いし速すぎんだろ」


 カイの言った通り全身焦がしたかのような黒色のカジキマグロがレイピアのような鼻先をカイに向けたまま突撃してきた。


 カイはシルビアを水中に投げ捨てるとその鼻先を胴体に接触する前に受け止め、足で思いっきり蹴り上げた。


「シルビア、刀だ」


「了解です」


 シルビアは形を刀へと変えてカイの両手に収まるとカイは黒色カジキマグロを一刀両断していく。

 戦闘が終わった所を確認するとシルビアはカイに声をかけていく。


「どうしてわざわざ刀に? 銃の方が速いでしょう」


「まあな。だが、超火力はやはり刀の方が肌に合ってる。

 それにもし近接の方が有効だった場合のための刀を振った時の水の抵抗値を知っておきたかった」


「なるほど。それで感触はどうでしたか?」


「そうだな......もう大丈夫だ」


 カイは最後に刀を握った感触を確かめるとシルビアを二丁拳銃に戻していく。

 そして、軽く水中を蹴って縦横斜め前後と自在に動いていくと周にある渦を解除した。

 すると、近くにルフトとトトがいてルフトが話しかけていく。


「カイ殿、無事でしたか」


「あぁ、少し水中の動きに手間取ってね。二人は?」


「カイ殿渦の近くにいたおかげで、魔物は渦が危険だと判断して無事だった。

 他の兵士も渦を背にして戦うようにして支持をしたのでまだ人死はでてない」


「そうか。まさか咄嗟に作り出した渦がそんな副効果を生み出してたとはな。

 とはいえ、あの渦に殺傷能力自体はない。これから攻勢に出ようと思うが行けるか?」


「問題ない。エルフが森の守り人であるならば海が俺達の守るべき場所だ」


「無茶はするなよ」


 カイはポンとルフトの肩に触れると少し前に出て軽く息を吸った。

 その瞬間、ルフトや周りの兵士も一瞬にして理解するほどの寒気を感じた。それはまるで凍て刺す冷たさとなった冬の海のように。


「行ってくる」


 カイはその場の水を蹴ってたちまち姿を消していく。その直後、カイの移動によって生み出された水の流れによってルフトやトト、一部の兵士が態勢を崩していった。


 カイは高速で海を移動していくと魔物の大群に突っ込んでいく。

 そして、壁キックでもするように前蹴りをして勢いを殺し、体を反転させるとそのまま体を回転しながら銃を乱射していった。


 しかし、その一発一発は周囲の魔物の頭に的確に直撃させていき絶命させていく。

 さらには、両手の銃の銃身の背を合わせて銃口を真下に向けるとそこに球体を作り出した。


 それは大きな熱エネルギーを秘めているのかその球体からは大量の気泡が出来てたちまちカイの姿を隠してしまう。


「範囲計算が完了しました。今より充填エネルギーを0.3パーセント上げて、圧力を1.6パーセント下げてください」


「わかった」


「範囲効果外に味方がいることを確認しました。準備が整いました」


「熱核球壊」


「防御態勢に入ります。魔力結界を発動させました」


 カイは両手の銃の引き金を引くとその球体はゆっくりと肥大し、周囲に圧縮された熱エネルギーを放出しながら下に落ちていく。


 そして、それが大きくなっていくたびに周囲の温度は上がっていき、そこはたちまち灼熱の茹で釜の中となってしまった。


 本来ならば味わうことのない想定外の海の温度に周囲の魔物は一斉にパニックになると同時に、当然その熱に適応できるはずもなく、その熱が肥大の最大値まで達するころには茹で魚となり、焼き魚(焦げ)になっていた。


 そんな海での異常な光景はルフト達にとっても同じで、その光景に思わず口をあんぐり。一部の兵士はその隙を受けて軽くダメージを受けていた。


 熱の球体が消えても泡が耐えず海上に向かって浮いていく中、その泡の中から劣勢となっていた兵士に助太刀するような魔力弾が飛んでいく。


「油断しない。敵をよく見るんだ」


「......そうだな。慣れたつもりがやはりどうにもカイ殿の予想外の行動には目が動いてそのまま止まってしまう。カイ殿が大半を片付けてくれた。俺達も海の守り人の意地を見せよ!」


「「「「「おおおお!」」」」」


 そして、兵士達が残りの魔物を掃討している一方で、カイはルフト達に近づいていくとトトに話しかけた。


「トトちゃん、何匹か捕まえられた?」


「......(コクリ)」


「そうか、それは偉い。ちなみに、情報も聞き出せていたりする?」


「......(コクリ)」


「よくやった。偉いぞ~」


 カイはトトの頭を優しく撫でていく。娘よりもやや年齢の高いトトであるが、どうにも娘に重ねて父性が刺激されるようだ。

 そんなカイの行動に触発されたシルビアがカイにねだる。


「パパ、私も積極的に頑張ったんですが何かないんですか?」


「お、おう、そうだな。よく頑張った。戦ってくれてありがとう」


「もっと褒めるのです」


 わざわざ人型に戻って撫でを強要するシルビア。もはや魔剣としての意識があるのかすら怪しいほどにこちらも着実に娘化が進んでいるようであった。


 そして、兵士達が全ての魔物の掃討を終えるとトトが捕まえた魔物の数匹を先頭に立たせて案内させていく。


「そういえば、その魔物からどんな情報が得られたか聞いてもいいか?」


 カイの質問にトトはルフトを通して伝えてもらう。


「その魔物から得られた情報は僅かだが、これによって確実になった情報がある。

 それは海神ネプティーヌは実在したということだ。襲ってきた魔物達は近づいてきた敵を迎撃するよう命令を受けていたらしい」


「ある程度の具体的な命令が出せるみたいだな......いや、エンリュレと同じであればそれぐらいは容易いか」


「それから、多くはネプテューヌが途中で引きつれた魔物だがたまたまネプテューヌの住処周辺にいた魔物を捕まえることが出来たみたいで今はその魔物の案内をもとに俺達は移動している」


「そいつは僥倖だ。それでその知っている魔物は? 俺達と一緒に行動している時点で敵として攻撃される可能性もあるから守らないと」


「そいつは正面にいる額に提灯のようなものをぶら下げた魚――――」


 その瞬間、真下から巨大な何かが伸びてきてカイ達に立ち塞がった。


「――――が今この瞬間に食われたな」


「......そうか。まぁ、さすがに一筋縄ではいかせてくれないってことか」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')

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